カナダのトロント在住の写真家、チェ・コサアリの来日に伴ってインタビューをする機会があった。彼の活動は写真家の枠にも、美術という枠にも捕われずに、表現者のネットワークを作り上げ、さらに行政や企業に働きかけて「Manifesto」という100人以上のアーティスト(ミュージシャンやダンサーも含まれる)が参加するイベントを年に一度開催している。1983年生まれという若干26歳のアーティストの強靭な意思、絶対にあきらめないという精神。そして、小さなコミュニティが繋がっていく事で世界が広がるだけでなく、世界が変わっていくという希望に満ちた話をインタビューを通じて聞くことができた。
■チェ・コサアリの作品世界
チェ・コサアリは、商業写真を中心に写真作品を展開しており、有名人やミュージシャンなどのポートレイトのシリーズを数多く手掛けている。鮮やかで生き生きとした雰囲気を切り取ることが彼の作品の大きな特徴であり、商業写真ではない子どもやストリートで撮影された作品にも現れている。そして、人間の豊かな表情を捉える能力はチェ・コサアリの人柄そのものでもあるだろう。彼はプロデューサー志向の強い写真家で、ポートレイトのシチュエーションを作るところから始まっている。ヒップホップのミュージシャンとしても有名なアイス・キューブのポートレイトを撮影するときは、氷の彫刻をアイス・キューブが作成しているような趣向を凝らしたり、同じくカナダ人のラッパーK-OSを被写体に、映画 do the right thingを引用しながらストーリー仕立てで撮影していたりとエンターテイメント要素の強い作品を中心に制作している。
今回の来日は、ビルド・フルーガスとユーノイア・プロジェクトの招聘により実現し、ビルド・フルーガス、森美術館社員食堂とアップリンクギャラリーの3会場で写真展を同時開催し、アップリンクではアーティストトークも開催した。(但し森美術館の社員食堂は一般開放ではなく、スタッフカフェアートギャラリーとして、食堂の壁面を使用した展示)。企画者の一人である高田彩さんは、ビルド・フルーガスという宮城県にあるギャラリーで、主にカナダのアーティストを紹介している。ユーノイア・プロジェクトは、トロントのアーティストを世界に紹介する活動を進めていて、これからの展開が期待したい非営利の団体である。渋谷にあるアップリンクというギャラリーでミュージシャンの写真を発信することで、美術に興味が無い若者も足を一歩踏み入れたトークイベントは大盛況だった。行動することで世界を変えていくというチェのパワフルな言動は、渋谷の若者にも伝わっただろう。それは、突然レコード屋を訪れて、自分の撮影したミュージシャンの写真を見せて「明日のイベント絶対見に来て」と歩いて回ったというエピソードからも見て取れる。
Sayako Mizuta
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