秋の風が通る銀座の顔、数寄屋橋交差点。銀座と聞けばこの場所を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。交差点の一角を占めるランドマーク的存在のソニービルは世界中の観光客やビジネスマンでいつも華やいでいます。この白い壁面を、”アートウォール”として、新進気鋭の若きアーティストに開放しようという試みが2007年から行われ、今年第4回グランプリに選ばれたのはイラストレーターの神田ゆみこさんです。
神田さんは、日常生活で見慣れた「もの」をもう一度見直すことで発見する美をコンセプトに作品を制作しています。
約1000点もの応募作品の中から選ばれた期待のアーティストに、今の気持ちを語っていただきました!
——今回、グランプリに選ばれてみていかがですか。
正直、びっくりしました。今まで受賞されていた方と自分の作品を比べると(私の描く作品は)当たり前の日常すぎる気がしていたので、選ばれないと思っていました。(そういった点で応募作品の中では)目立ちはするけれど、選ばれる気がしなかったです。だから、それが受け入れられたのはうれしいです。
——イベント初日までシークレットに準備が進められてきた作品がついにお披露目されましたね。
「バナナ」をモチーフにした作品について教えてください。
食べものは、身近なものの中でも、好きなモチーフです。フルーツというのは、なまもの。時間が経って、熟れて、斑点が広がって、真っ黒になっていく。小さな斑点が大きく広がって、全体が真っ黒になっていく様子が面白いなと思って。特にバナナは、腐っていくというより、実が劇的に熟していく様子がおもしろいなと思って選びました。どんどん広がって、真っ黒になっていく斑点の存在感で、時間の経過や、いろんな想像をかき立たせるというか、そうなったらいいなと思ってます。これまでバナナというモチーフを著名な作家が今まで描いてきたけど、美術史的な背景は特に考えてないですね。
——作品はモチーフを決めた後、いつもどのように描いていくのでしょうか。
作品を作るときは、写真を撮って描いていくこともありますが、実物をしつこいくらいにじっと見るんです。描きながら、どうアプローチしていくかを決めていくので、方向性が決まるまでに何日かかかりますね。じっと見ていくことで、そのモチーフが置かれてる場所や環境ではなくて、そのモチーフがもっている様々な要素が見えてくるんです。それを自分なりに消化して「こういう描き方をしよう」と固めていきます。
今回の作品でいうと、(“アートウォール” のサイズに)大きく引き延ばしたときに「斑点が広がっていく時間の経過がドラマティックに見えるかな」という思いがあったので、その辺を意識してつめていきました。
今回の作品は(応募フォーマットの)縦横比を考えず、全体図をキャンバスに描いてから、一部分を切り取ったものなので、最初から縦に細長い構図を考えていたわけではないですね。今回は作品の全体図もギャラリーで展示します。
——「Canvas @ Sony」に応募されたきっかけは? 以前からご存知だったのでしょうか。
3年程前にソニービル壁面の“アートウォール”を偶然みかけて、とても存在が大きくて、衝撃を受けたのを覚えています。ずっと大きくした自分の絵を見てみたいという想いがあり、今回はじめて応募しました。
ソニーには先進的なイメージをもっています。このような企業がアートプロジェクトを実施している例を他に知らないのと、経験の少ない私をこういった規模のプロジェクトに携わらせてくれるというのは、大きな経験になっています。たくさんの人がこのアートプロジェクトに関わっていることを知って、成長しなきゃと感じています。(このチャンスを得られて)感謝してますし、こういった企業の取り組みがもっと増えていったらいいなと思います。
——神田さん自身について聞かせて下さい。子どもの頃から絵が好きだったのでしょうか。
家は姉と両親と4人家族なのですが、家にわら半紙がドーンとあって、子どもの頃から絵を描いていましたね。父は絵が好きだったので、その影響もあるかも知れないですね。少女漫画的な絵を、父も一緒に姉と3人で描いてました。1つのポーズを決めて、みんなで描くというようなあそびをしていました。
でも学生時代は絵でずっとどうこうしようとは思いませんでした。大学を出てから就職をしたのですが、仕事が合わなくて辞めてしまって。それからは好きなことをしようとアルバイトをしながらセツ・モードセミナーに通いました。
自分の作風に影響を与えたのは、熊谷守一です。日本人的な感覚が好きなのかもしれないですね。高校生の頃には、美術館で見た佐伯祐三の絵に、すごく衝撃を受けました。空想的な絵をよく描いていたときは、ミロやクレーなどが好きでしたし、写実的な部分ではエドワード・ホッパーが好きで、影響を受けましたね。
——制作の息抜きは何でしょう。
息抜きは… 寝る時間をとるくらいで、あまりこれといってないですね。(制作に煮詰まったら)一旦、時間をおく。絵を一旦、寝かせる。朝起きてみたら違うように見えたりするんです。
どのようにアプローチをするか考えている段階では、静かな部屋で集中して制作に入るのですが、(アプローチ方法が定まって)作業がリズムに乗って描くような段階に入ると、音楽を聴きますね。
私は方々にアンテナを張って、動き回るタイプではないので、今は絵を描くことにじっと打ち込むことが楽しいなと思っています。
——今後の目標について聞かせてください。
描く「もの」と丁寧に向き合っていきたいです。やり方をつかみかけているような気がするので、技法であったり、心構えであったり、もっと精度を上げていきたいなと思っています。
私は生活の中にある「もの」、普段自分が見ていたり当たり前に使っていたりする「もの」を、親しみが沸くというか…そう描きたいです。(イラストレーションの仕事は)書籍の仕事がわりとこれまで多かったので、(大きく街角に設置されて人の目に触れる)ポスターなどの広告の仕事がしてみたいですね。
——「Canvas @ Sony 2010」では、夢を叶えるヒントをみなさんからTwitterで募集してますね。
神田さんの「夢をかなえるために、今なにする?」を教えて下さい。
私の夢は、描き続けて作品を作り続けていけたらというのがあります。そこでクオリティを上げていきたいですね。
「今なにする?」…そうですね、「目の前を描く」という感じですかね。
——来年応募される方へ、グランプリ受賞者からアドバイスはありますか?
(今回選ばれたのは)すごく光栄なことだと思っています。作品をたくさんの方に見ていただける機会として、これ以上ないくらいすごいプロジェクトに関わらせていただいてるから、いいものをお見せしていきたいです。
貴重なすばらしい機会なので、私が言うのもなんですが応募してみてください(笑)。一緒にがんばりましょう。
——最後にTABを読んでいる皆さんにメッセージをお願いします。
楽しんで観ていただけたらと思います。親しみやすい作品なので、気軽に見ていただけたらと思います。
「Canvas @ Sony」を支えるスタッフのみなさんは、このプロジェクトで出会う若いアーティストから、よい刺激をいつも受けているといい、とてもアーティストへのサポートに熱心で、またみなさん自身も楽しんでいるのを、今回のインタビューを通して感じました。今後のプロジェクトの継続や展開が楽しみです。
「話すのが苦手なので…」とおっしゃっていた神田ゆみこさん。お話の節々からは、誠実な人柄を感じました。制作に関わる貴重なお話と受賞のよろこびを語って頂き、ありがとうございました!
「Canvas @ Sony 2010」 イベント概要
期間:2010年10月28日(木)〜11月3日(水)*アートウォール掲出は11月26日(金)まで
時間:11:00〜19:00
場所:東京・銀座 ソニービル
入場料:無料
主催:ソニー株式会社
共催:ソニー企業株式会社
企画協力:株式会社FM802 digmeout
http://www.sony.co.jp/canvas
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