6月29日〜8月21日、国立新美術館で現代美術家、蔡國強(ツァイ・グオチャン/さい・こっきょう、1957年生)の大規模な個展「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」が開催される。企画は逢坂恵理子(国立新美術館長)。
本展は国立新美術館とサンローランの共催。クリエイティヴ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロが率いるサンローランにとって、本展の開催は同ブランドの使命ともいえるヴィジュアルアートや映画、音楽など、様々なクリエイティビティへのサポートにおける新しい機会となるという。
宇宙や目に見えない世界に魅了され、作品制作を通してそうした世界に取り組んできた蔡。風水や占星術といった東洋古来の哲学や思想に立脚しつつ、科学技術への興味や現代の社会問題への省察をも原動力に活動を展開し、国際的に高い評価を確立している。
その代名詞とも言えるのが、火薬を用いた作品だ。中国・福建省泉州で育った蔡は、1986年末に日本に移り住み、95年にアメリカに渡るまでの9年間に火薬を用いた制作スタイルを確立。1991年に東京のP3 art and environmentで開催された個展「原初火球ーThe project for projects」では、火薬を用いて描いた7つの屏風が放射線状に配置された同名のインスタレーションを発表した。
蔡は、この30年前の「原初火球」を、自身の芸術における原点=ビッグバンと考え、今回の展覧会ではこの原点の爆発を引き起こしたものはなんなのか、その後今日まで何が起こったかを探求する。
展示構成は蔡自身が手がける。会場となるのは、国立新美術館の柱も壁もない2000平方メートルの企画展示室1E。この広く悠々とした空間でふたつの大きなインスタレーションが展示される。まずひとつは《原初火球》の再現で、そのなかにはガラスと鏡を使った新作の火薬絵画3点も含まれる。
もうひとつの核としてLEDを使った大規模なキネティック・ライト・インスタレーション《未知との遭遇》が配置され、観客は作品のなかを自由に歩きながら体感することができる。
国内の国公立美術館の所蔵作品と新作を含む約50件の作品に加え、知られざる多数の貴重なアーカイヴ資料や記録映像、そして作家自身による一人称の説明も掲示。近年の作品には、デジタル化やインテリジェント化を取り入れたAIやメタバースへの探究も含まれるという。
作家として歩み始めた中国時代から、芸術家としての重要な形成期である日本時代、そしてアメリカや世界を舞台に活躍する現在まで、作家の創作活動と思考を辿ることになる本展。宇宙が膨張するかのように拡大してきた蔡の活動を会場を巡りながら追体験する展示になりそうだ。