公開日:2023年9月8日

今月の読みたい本!【9月】アナキズム美術史、カラーフィールド絵画、坂本龍一、坂口恭平、ジェンダーと広告、障害の家、新版画、トラちゃん

アート、映画、デザイン、建築、マンガ、ファッション、カルチャーなどに関するおすすめの新刊を毎月紹介。

『アナキズム美術史:日本の前衛芸術と社会思想』

足立元 著 
平凡社 4400円+税 8月11日発売

日本近現代の美術史・視覚社会史を研究する筆者による単著。1900年代から1950年代に至る日本の前衛芸術を、アナキズム、共産主義、軍国主義、占領政策との関わりから論じ、先鋭的なイメージが社会思想とともに生成消滅してきた構造を明らかにする。​『前衛の遺伝子 アナキズムから戦後美術へ』(ブリュッケ、2012)の増補新版。「超克と回帰 プロレタリア美術運動から日本美術会へ」および「前衛のアポトーシス 政治:芸術の消滅と転生」を新たに収録。大正時代の新興美術運動、プロレタリア美術、占領期の美術動向から1950年代の伝統論争まで、前衛芸術の歴史を豊富な図版とともに概観する。

『新版画の世界:川瀬巴水から吉田博まで 美しく進化する浮世絵スピリット』

クリス・ウーベンレック 著 古家満葉 翻訳監修
パイ インターナショナル 3600円+税 8月19日発売

浮世絵のエッセンスに西洋画の技法を取り入れ、明治〜昭和にかけて製作された「新版画」。日本らしい情景を追求した精緻で立体感のある版画は、懐かしくもモダンな表現が魅力だ。本書では、代表作家の川瀬巴水や、アニメ・漫画界も注目する吉田博、美人画の名手・橋口五葉、伊東深水など、オランダの個人コレクションと版元・渡邊家のコレクションから、ほかにないセレクションで新版画を紹介する。

『障害の家と自由な身体:リハビリとアートを巡る7つの対話』

大崎晴地 編 
晶文社 2700円+税 8月29日発売

心と身体、発達のリハビリテーション、精神病理学の領野に関わりながら、作品制作・研究活動を行うアーティストの大崎晴地。《障害の家》は、障害そのものを建築的に考えることを主軸に作家が進めてきたプロジェクト。バリアフリーは「障害者」を「健常者」に合わせる考え方だが、社会の均質化につながるのではないか。本当のゆたかさは「障害」の側にあるのではないか。そうした意識から、3度の展示を経て、建設に向けた計画が始まっている。本書はこれまでの展示と連動して行なわれた対談・座談の記録集であり、「障害」「家」「リハビリ」「アート」を多角的に考えるための1冊である。池上高志、毛利悠子、村山悟郎、八谷和彦らが参加。

『ジェンダー目線の広告観察』

小林美香 著
現代書館 2000円+税 9月9日発売

写真やジェンダー表象の研究・執筆を行う筆者が、私たちを取り巻く広告を観察し、無意識に刷り込まれる規範や価値観を解きほぐす1冊。ジェンダー表現とメディアの基本から、脱毛・美容などコンプレックスを刺激する広告の表現の変遷と社会的背景、「デキる男」像はなぜバリエーションが少ないのか、性感染症予防啓発ポスターと性教育、広告業界の根深いジェンダーギャップの問題など、巷にあふれる広告を読み解き、「らしさ」の呪縛に抵抗する。

『美術のトラちゃん』

パピヨン本田 著
イースト・プレス 2800円+税 9月19日発売

ウェブメディア「CINRA」の人気連載が単行本化。自身も別名義で美術作家として活動する筆者による、“ゆるわかり”現代アート入門のコメディ。ピカソやウォーホル、岡本太郎など、アートのエッセンスをトラちゃん親子と一緒におさらい。

『坂口恭平の心学校』

南島興 著 坂口恭平 企画・原案
晶文社 1600円+税 9月25日発売

建築、文学、美術、音楽、領域を超えて幅広い活動を展開する坂口恭平の、これまで語られなかった考え方と方法論を解く実践的講義録。2023年2月に5回に渡ってTwitter(現X)上のスペースで行われた連続講義をまとめた内容で、聞き手を務めた横浜美術館学芸員の南島興(みなみしま)が著者となっている。孤独な人々が孤独さを失わずに恐れずに心をひとつにするための実践の場として開講された心学校。「新作ラジオドラマ学校」として学ぶ喜びに満ちた実践に注目したい。

『坂本龍一のメディア・パフォーマンス:マス・メディアの中の芸術家像』

松井茂、川崎弘二 編著 坂本龍一 インタビュー
フィルムアート社 2500円+税 9月26日発売

坂本龍一が「パフォーマンス元年」と称する「1984年」に注目し、生涯にわたって「メディア」を革新し続けた芸術家としての足跡をあらためてひもとく。メディア戦略としての出版社「本本堂」、書籍というメディウムそのものによるパフォーマンス、世界最大級のテレビ「ジャンボトロン」を用いたメディア・イベント「TV WAR」……。多彩なプラットフォームで発表された作品群、その時々に遺された発言、そして、坂本龍一へのインタビューをもとに、「マス・メディアの中の芸術家像」を「メディア・パフォーマンス」というキー・タームから解き明かす。

『絵画の解放:カラーフィールド絵画と20世紀アメリカ文化』

加治屋健司 著
東京大学出版会 5700円+税 9月29日発売

東京大学大学院総合文化研究科教授で表象文化論・現代美術史を専門とする著者による単著。ヘレン・フランケンサーラー、モーリス・ルイス、ケネス・ノーランド、ジュールズ・オリツキー、フランク・ステラら、20世紀半ばのアメリカで隆盛したカラーフィールド絵画の代表的画家5名を取り上げ、同時代の展覧会評や批評、美術動向に関する言説を丹念に読み解き、20世紀アメリカ文化との豊かな関係性を明らかにする。

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