公開日:2022年4月1日

今月の読みたい本!【4月】イケムラレイコ+塩田千春の対話集、ファッション、現代建築、一級建築士が描くマンガなど

アート、映画、デザイン、建築、カルチャーなどに関するおすすめの新刊を毎月紹介。

『世界をゆるがしたアート:クールベからバンクシーまで、タブーを打ち破った挑戦者たち』

スージー・ホッジ 著
清水玲奈 訳 青幻舎 2400円+税 3月11日発売 

『世界をゆるがしたアート:クールベからバンクシーまで、タブーを打ち破った挑戦者たち』

作家兼アーティストで大人から子ども向けまで100冊以上の本を執筆してきた著者が、50のアート作品をクローズアップして紹介。登場するのは、1850年以降に制作され、美術史を塗り変えた作品の数々で、それぞれの制作の背景や、社会に対してどのような影響を及ぼしたかなどを解説する。フィンセント・ファン・ゴッホ、グスタフ・クリムト、パブロ・ピカソ、マルセル・デュシャン、サルバドール・ダリ、フリーダ・カーロ、ジャクソン・ポロック、アンディ・ウォーホル、草間彌生、ジャン=ミシェル・バスキア、ダミアン・ハースト、バンクシーなど。

『一級建築士矩子の設計思考』

鬼ノ仁 著  
株式会社日本文芸社 720円+税 3月9日発売 

『一級建築士矩子の設計思考』

一級建築士を主人公にしたマンガが登場。著者自身が実際に「一級建築士」「1級建築施工管理技士」資格を有しており、生き生きと描かれた知られざる実務のディテールには「へ〜!」となること請け合い。
主人公の古川矩子(こがわかなこ)は20歳で青森から上京し、7年間設計事務所に勤めた後に独立。建築とお酒が大好きな彼女は、東京・亀戸に“立呑み”併設の個人事務所を設立した。そこでの近隣の人々との交流や仕事を通して、一級建築士の思考の在り方が描かれる。ときに推理もののような展開を見せたり、マンションの管理会社とのバトルがあったりするのもおもしろい。第1話には阪神淡路大震災を経験した人物が、丈夫な住居の大切さに改めて思い至るシーンが挿入されているのも印象的。有名建築とは違って普段はあまり省みられることのない一般的な建築の裏側にあるプロフェッショナルな仕事が、いかに人々の生活を支えているのかということを思い起こさせる。

『一級建築士矩子の設計思考』

『彫刻2──彫刻、死語/新しい彫刻』

小田原のどか 編著  
書肆九十九 1800円+税 3月18日発売

『彫刻2──彫刻、死語/新しい彫刻』

2018年に刊行された『彫刻1──空白の時代、戦時の彫刻/この国の彫刻のはじまりへ』(トポフィル)に続く、彫刻をめぐる叢書の第2弾。小田原のどかが立ち上げた版元から刊行される今回は、2つの特集が企画されている。ひとつはイタリアの彫刻家アルトゥーロ・マルティーニの著作『彫刻、死語』(1945)の全訳(訳:坂井剛史)と、本書をめぐる3つの寄稿。もうひとつはアメリカの芸術評論家クレメント・グリーンバーグの論考「新しい彫刻」(1949)の全訳(訳:森佳三)と、グリーンバーグの芸術理論に関する3名の論者による寄稿。前者では 彫刻を「死語」として、後者では「新しい」ものとして扱われているという対比が目を引く。
小田原は巻頭言で、前回の『彫刻1』から3年が経過していること、その理由としてこの間に「あいちトリエンナーレ2019」をはじめ、彫刻をめぐって思いもせぬ事態が起きたと説明。そこで本書は「あいちトリエンナーレ2019」における公共と彫刻についての鼎談記事(小松理虔+津田大介+小田原のどか)や、ヤノベケンジ《サン・チャイルド》をめぐる大槻とも恵の寄稿を収録している。現代を象徴するような出来事と彫刻の関係について、思考を深める手助けになるテキストだ。また若手作家の七搦綾乃インタビューも掲載。

『クリティカル・ワード 現代建築──社会を映し出す建築の100年史』

山崎泰寛、本橋仁 編著
フィルムアート社 2200円+税 3月23日発売

『クリティカル・ワード 現代建築──社会を映し出す建築の100年史』

1920年代から2010年代までの100年に起きた、建築にまつわる出来事を厳選。現代建築へ至る100年史を10年ごとに区切り、各時代の建築を理解するための重要なキーワードに沿って解説する。キーワードはその数なんと235。「関東大震災」「シカゴ学派」「映画『メトロポリス』と機械美」「大阪万博」「ポンピドゥー・センター」「ゲニウス・ロキ」「東京ディズニーランド」「超芸術トマソン」「チェルノブイリ」「シムシティ」「大改造‼︎劇的ビフォーアフター」「東日本大震災」「東京オリンピック2020・新国立競技場問題」などなど、基本用語から時事、カルチャー、最新テクノロジーまでを網羅。複雑な社会との応答関係のなかで生まれる建築について、多角的に学ぶことができるだろう。

『クリティカル・ワード 現代建築──社会を映し出す建築の100年史』

『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ──私と社会と衣服の関係』

蘆田裕史、藤嶋陽子、宮脇千絵 編著
フィルムアート社 2200円+税 3月23日発売

『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ:私と社会と衣服の関係』

ファッションを読み解く23のキーワードと、さらに深く知るための11分野のブックガイドによる、ファッションスタディーズの入門書。キーワードは「流行」「消費」「ジェンダー」といった基本的な理論に関わるものから、「ルッキズム」「ヴァーチャルファッション」「リサイクルとバイオファッション」といった現代的な問題と密接に結びつくものまでじつに多様。哲学、社会学、文化人類学、メディア論、ジェンダー論、環境学、デザイン論といった、多様な分野とファッションの結びつきを明らかにしながら、「現代」を映し出す鏡としてのファッションをときほぐす。

『すごい神話:現代人のための神話学53講』

沖田瑞穂 著  
新潮社 1400円+税 3月24日発売 

『すごい神話:現代人のための神話学53講』

気鋭の神話学者による著書。初学者にも親しみやすい語り口だが、いわゆる神話学の入門書というよりも、神話に見られる「物語の型」をエッセンスとして解説し、読者が現代の小説、ゲーム、映画などがより一層楽しめるようになることが目指されているのが面白い。言及されるのは、たとえば『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『FGO』『マトリックス』『ナルニア国物語』など。「本書でも、神話を今も生きているものとして語ってみたいと思う。なるべく私たちの日常に即した形で、あたかもS N Sで交わされているやり取りのような雰囲気で、最近面白かった映画やゲームの話をするような感じで、自由気ままに神話を紹介してみたい」(本書「はじめに」P6より)。

『グラフィックデザイン・ブックガイド:文字・イメージ・思考の探求のために』

グラフィックデザイン・ブックガイド編集委員会 編
グラフィック社 2400円+税 3月25日発売

『グラフィックデザイン・ブックガイド:文字・イメージ・思考の探求のために』

現代グラフィックデザインを考える手がかりを提示する、ユニークなブックガイドが誕生。総勢25名のデザイナー、研究者、評論家が、文字、イメージ、デザイン思想、メディア論、社会学、人類学などそれぞれの専門から、デザインの本質を考えるための本を紹介する。ブックリストのような画一的な構成ではなく、たとえば「わかりやすさ」をテーマに寄藤文平がテキストを執筆していたり、有馬トモユキ×坪谷サトシ×山本晃士ロバートの鼎談形式で「インターフェース論を俯瞰する書物」を紹介していたりとバラエティ豊か。

『聖性の物質性:人類学と美術史の交わるところ』

木俣元一、佐々木重洋、水野千依 編著  
三元社  7000円+税 3月31日発売 

『聖性の物質性:人類学と美術史の交わるところ』

ブノ・ラトゥールやティム・インゴルドといった社会人類学者たちによる「非人間(ノンヒューマン)」な存在に関する理論は、近年美術の世界にも大きな影響を及ぼしている。本書では、物質世界を生きる人間が異界にある人ならざるものとどう相対してきたのかをめぐり、通常の五感では関知しえない存在との相互交渉における物質性の諸相について、文化人類学と美術史が共同し比較検討する。編著者による序文と基調論文に加え、20本以上の論文を掲載。

『ポストヒューマン・スタディーズへの招待:身体とフェミニズムをめぐる11の視点』

竹﨑 一真、山本 敦久 編  
堀之内出版  2000円+税 3月31日発売 

『ポストヒューマン・スタディーズへの招待:身体とフェミニズムをめぐる11の視点』

テクノロジーの進化やメディア環境の変化などによって、「人間」の再定義が求められている現代。ポストヒューマン・スタディーズの入門書として、いかに身体とフェミニズムを思考すべきかを多角的に探求するのが本書だ。もとは2021年に開催されたシンポジウムを収録・再編集したもので、構成は「第1部 トランスジェンダー・アスリートと性別二元論」「第2部 サイエンス・スタディーズから考える『フェムテック』」「第3部 女の子たちのメタモルフォーゼ ―シンデレラテクノロジーのその先へ」「第4部 生殖技術を問い直す」「第5部 〈ポスト〉の思想」から成り、11章をそれぞれの論者が担当。たとえば第3部「第6章 『シンデレラテクノロジー』はどのように生まれたか?」(久保友香)では、工学分野の筆者がスマホやZoomなどを通した外見を「ヴァーチャルな外見」と呼び、「美人画」をもとに「美人顔」を作る新装置の開発過程や、プリクラを使う女の子たちの「盛り」についての分析を披露。「第7章 自分の身体を愛でる/取り戻す体験 ―人間ラブドール製造所」(関根麻里恵)では、ラブドールと呼ばれる等身大愛玩具人形になりきる体験を提供する「人間ラブドール製造所」というサービスについて論じられる。カバー写真は米谷健+ジュリア《Dysbiotica》(2020)。

『柳本浩市 ARCHIVIST』

柳本浩市展実行委員会 柳本浩市 著 
柳本浩市展実行委員会 4000円+税 4月4日発売

『柳本浩市 ARCHIVIST』

2016年3月に46歳で急逝したデザインディレクター、柳本浩市。2002年に出版やプロデュースを行う自身のレーベル Glyph.(グリフ)を立ち上げ、Glyph.名義での出版や、企業との商品開発、展覧会のプロデュースなどで多くの実績を残した。また古着や家具などの収集で知られ、収集物を独自の視点で再編集し社会背景と照らし合わせて再定義した。本書は柳本を追悼する展覧会「柳本浩市展」(2017年、東京、 six factory)の記録集。展覧会風景に加え、あらたに収集物の撮影を行い、アーキヴィストとして柳本自ら作成し残した主要なファイルから一部を集録する。 また、横山いくこ(M+キュレーター)による寄稿文や、柳本のレクチャー「アーカイブ個人編集論」なども集録。柳本のアーキヴィストとしての収集・整理・編集などの活動を一望できる。

『手の中に抱く宇宙 イケムラレイコ+塩田千春 対話集』

イケムラレイコ、塩田千春 著  
美術出版社 3000円+税 4月15日発売(先行販売|銀座 蔦屋書店 2022年4月2日) 

『手の中に抱く宇宙 イケムラレイコ+塩田千春 対話集』

イケムラレイコと塩田千春は、ともにドイツ・ベルリンを拠点に世界で活躍するアーティスト。ロックダウンで移動が制限されていた期間に、互いの家を行き来し対話を重ねたというふたり。本書は展示や作品制作について語りあった全5回の対話をまとめた「対話集」と、2021年名古屋のケンジタキギャラリーで開催された二人展「手の中に抱く宇宙」の出品作を所収。エディション版画作品が付いた数量限定特装版も発売される。

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