大分県別府市を舞台に2009年に初開催されたアートフェスティバル「混浴温泉世界」の第2回が、10月6日に開幕しました。世界有数の温泉地という地域の魅力を生かしながら質の高いアートプロジェクトを展開する本フェスティバルのオープニング風景と、注目ポイントをお伝えしたいと思います。
また、充実のツアー企画や、同時期に同市内で実施される「ベップ・アート・マンス2012」、同県備後高田市・国東市で実施される「国東半島アートプロジェクト2012」など、フェスティバルをより楽しむための情報もお届けします。
【別府現代芸術フェスティバル2012「混浴温泉世界」】
会期: 2012年10月6日(土)- 12月2日(日)※無休
会場: 大分県別府市内各所(浜脇エリア/中心市街地エリア/鉄輪エリア/別府国際観光港エリア)
主催: 別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」実行委員会
総合プロデューサー: 山出淳也(NPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事/アーティスト)
総合ディレクター: 芹沢高志(P3 art and environment 統括ディレクター)
キュレーター: 佐東範一(NPO法人 ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク[JCDN]代表)、住友文彦(キュレーター)
URL: http://mixedbathingworld.com/
本フェスティバルの軸となるのは「8つのアートプロジェクト」。総合ディレクターの芹沢氏によれば、個々の作品がアーティストやアートファンだけのものではなく、別府の代表的な温泉とされる「八湯」のように深く別府の地に根ざしながらも、人々の新たな気づきや活力が生まれる「想像力の源泉」のようなもの、つまり制作に関わる人々や、作品を体験する多種多様な人々のものにもなっていく、社会に広がりのあるアートプロジェクトとしてのあり方を意識して丁寧に展開しているとのことです。
—7月17日に実施された記者発表会より(著者によるレポート[Tokyo Art Research Lab])
例えばクリスチャン・マークレーが海沿いの遊歩道に仕掛けた100本ののぼりの鮮やかな色と、その裾に取り付けられた鈴の音は浜辺の風景を変え、遠くからでも人々の興味をそそります。のぼりのイメージとなっているのは火と水、これに空気としての風が彼の作品に欠かせない要素である音を奏でる訳ですが、これらの要素は激しく地面から吹き出す水蒸気や、穏やかにただよう湯けむりなど、別府のいたる場所で見ることのできる風景が形を変えて立ち現れたものとなっています。
小沢剛は、市街地のランドマークとなっている別府タワーに取り付けられている「アサヒビール」のネオンサインをランダムに点滅させしまうという、驚きのプログラムを実現。
「ア ビ」「サ ル」など意味有りげな文字列が次々に現れる様を見ると一気に気持ちが高ぶりますが、見入っていると不思議な哀愁を感じ、胸がかき立てられるようでもありました。現れる文字列には、別府に住む外国人から集めた多様な言語が含まれているそうです。作曲家の安野太郎とのコラボレーションにより、この文字を使った不思議な歌が作曲されパフォーマンスも行われています。
小沢のプロジェクトが行われている商店街と隣り合う「楠銀天街(くすのきぎんてんがい)」を丸ごと使ったプロジェクトも展開されています。廃材を利用したオブジェがいたるところに取りつけられ、音や照明による演出が加えられ、寂れた商店街が今にも何かが起こりそうな空間に姿を変えています。
この場では、ダンサーの東野祥子らが中心となり、公募で集められたダンサーや市民による作品づくりが公開で行われ、会期末にお披露目されるとのこと。現代美術作家のアプローチとはひと味違うかたちでまちの風景がダイナミックに変貌している様はそれだけでも必見ですが、ここへさらに身体によるパフォーマンスが入り込んでいくフィナーレはかけがいのないひと時になるのではないか、と予感させられるものでした。
元ストリップ劇場を建築集団「みかんぐみ」らの手によりリニューアルしたスペース「永久別府劇場」では、毎週末(金・土・日曜)にダンスから演劇、金粉ショーまで多様なパフォーマンスプログラムが開催されています。内覧特別公演では、大友良英とクリスチャン・マークレーが、このスペースの一番の特徴である回転ステージをターンテーブルに見立てて、さまざまな日用品による音をピックアップして演奏ならぬ「再生」するかのようなパフォーマンスが行われました。
東京をはじめ、全国で増加傾向にある地域系のアートフェスティバル・プロジェクトは作品の数を増やして多様性が担保されていたり、回を重ねる度に作品が増えていたりする傾向がありますが、今回の「混浴温泉世界」は思い切って数が減らされている分、各プロジェクトが丁寧に作り込まれているので、じっくりと味わいたいところです。
少し肌寒くなってきたこの季節。思い切って大分までへ足を伸ばし、充実したアートプログラムと身体の真まで温まる温泉を楽しんでみてはいかがでしょうか。
ここから先は、これから訪れる方向けにおすすめのイベント情報などをお届けします。
1. 「旅手帖beppu」と「ベップ・アート・マンス」
実行委員会の中心であるNPO法人BEPPU PROJECTでは、2009年のフェスティバル開催以降、別府の魅力を発信するフリーペーパー「旅手帖beppu」の発行、市民文化祭「ベップ・アート・マンス」の開催等を行ってきており、それらとの連携が充実しています。
今回のフェスティバルでは、8月10日に発行された「旅手帖beppu」が公式ガイドブックとされ、まち歩きやプロジェクトを体験する一助にでき、地元で活動するアーティスト等のプログラムなどが充実している「ベップ・アート・マンス2012」も同時に楽しむことができます。フェスティバルを訪れる際には、JR別府駅の総合インフォメーション等で、フェスティバルのガイドマップと共に2つのガイドブックを必ず手に入れましょう。
ベップ・アート・マンス公式サイト http://www.beppuartmonth.com/
【おすすめイベント】 わくわく温泉めぐり
前回のフェスティバルで生まれた「わくわく」プロジェクトの呼びかけにより、全国からさまざまなアーティスト(絵、書、パフォーマンス、歌など)が別府を訪れて滞在し、別府の特徴である温泉場、旅館などに作品展示を行います。
開催日: 11月1日(木)- 12月2日(日)
時間: 12:00 – 17:00(会場により異なる所もあり)
場所: 旧松玉荘(本部)・北部旅館街・温泉場(紙屋温泉ほか)・茶房たかさき・mabelleなど
料金: わくわく手ぬぐいつきパスポート5BP/500円(BPはクーポン型金券)
URL: http://onsenwkwk.exblog.jp/ 、 http://camp-fire.jp/projects/view/452 (campfireにて支援プラン有り)
2. 充実のツアープログラム
会期中の毎週火・木曜に、総合プロデューサーやディレクター、旅手帖beppu編集スタッフによるさまざまな切り口のツアーが開催されています。また、観光地ならではのツアーも充実。PROJECT08の舞台でもある鉄輪エリアでは、地元のNPO団体によるツアーが毎週土・日曜に開催されています。
「混浴温泉世界2012」ツアー紹介ページ http://mixedbathingworld.com/category/event/tour/
NPO法人鉄輪湯けむり倶楽部公式サイト http://yukemuri-club.com/
3. 国東半島アートプロジェクト2012 秋期
別府と同じく大分県に位置する豊後高田市・国東市を舞台にこの秋より新たなアートプロジェクトが始まります。芸術家たちがつくる「もう一つのいえ」というコンセプトでアーティスト・イン・レジデンス・プログラムを展開。また「混浴温泉世界」会期のうち、11月の毎週土・日曜・祝日には、大分および別府から、飴屋法水演出によるアートツアー「いりくちでくち」が開催されます。(体験には終日必要なため、遠方から参加の場合は滞在中日に申し込みを行う必要があります)
国東半島アートプロジェクト公式サイト http://kunisaki.asia/
【おすすめイベント】 アートツアー:いりくちでくち
演出・美術: 飴屋法水、文: 朝吹真理子、音: zAk、食: 長谷川ヒヨコ ほか
実施日: 11月3日(土)- 11月25日(日)の会期中、毎週土・日・祝日に大分・別府からバスツアーを実施
時間: 8:00 JR大分駅南口(上野の森口)・・・8:40 JR別府駅東口・・・<アートツアー>・・・19:30 JR別府駅東口・・・20:00 JR大分駅南口(上野の森口)
料金: 4,000円(バス乗車料・ガイド料・食事代含む)※「混浴温泉世界2012」パスポート所持者は1,500円
URL: http://kunisaki.asia/project
Makoto Hashimoto
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