アーツ前橋(群馬県前橋市)の特別館長に南條史生、運営責任者となる館長に出原均が就任する。開館10周年を迎える今年の5月1日付け。4月24日の前橋市定例記者会見にて発表された。
前橋市は2022年8〜9月、前館長の後任となる専門職館長の「特別館長」を公募したものの審査の結果採用者がいなかったと発表。その後、市は、文化芸術戦略について幅広く助言を受けるため2023年度から「前橋市文化芸術戦略顧問」制度を設け4月1日より南條に委託。そのため南條の特別館長は兼任となる。
南條史生は2002年より森美術館立ち上げに参画、2006年11月から2019年まで館長、2020年より特別顧問。1990年代末よりヴェネチアビエンナーレ日本館を皮切りに、台北ビエンナーレ、横浜トリエンナーレ、シンガポールビエンナーレ、茨城県北芸術祭、ホノルルビエンナーレ、北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs 等の国際展で総合ディレクターを歴任。
出原均は2005年まで広島市現代美術館(86〜89年は開設準備室)に、2007年から2022年まで兵庫県立美術館に勤務。広島市現代美術館学芸員・学芸係長、兵庫県立美術館学芸課長等を歴任してきた。
2019年以降、アーツ前橋は作品紛失と、アーティストとの契約不履行という大きな問題を抱えてきた。
2020年11月、高崎市出身の物故作家2名の遺族から借用した作品を調査過程で紛失したと発表。そして今年3月、2作家の遺族に対して市が計400万円の賠償金を支払うことで和解が成立した。開館した2013年から館長を務めていた住友文彦は、この問題に伴い2021年に退任した。
また2019年に開催された「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX」めぐり、出展アーティストとの契約を守らず、業務委託料の一部が未払いだったとして、市はアーティストに謝罪し、損害賠償金80万円を支払った。今年3月29日、アーツ前橋のホームページに山本龍・前橋市長の名前で「『山本高之とアーツ前橋のBEYOND 20XX 未来を考えるための教室』の記録集発行遅滞に関する経過について(報告)」と題した文書が掲載され、謝罪文と時系列順の経過も公開されたばかりだ。
これらふたつの問題については、賠償金の支払いというかたちで決着をつけた同館だが、市民からの信頼回復には今後の組織の在り方の変革が必須だろう。今回の南條、出原両氏の就任は、これまで露呈した美術館運営に関わる課題の解決につながるか、期待される。
特別館長および館長就任のメッセージは以下の通り。
■南條史生 特別館長就任のメッセージ
「アーツ前橋の再生にあたって」
アーツ前橋の組織、これまでのシステム、運営の考え方などを精査し、改良・改善し、前橋が誇る美術館として再出発させて、そのイメージを刷新したいと考えています。そのためには、今後の運営は地域性と国際性、歴史と革新、創造性とラーニング、街とアートのバランスを取り、その可能性を最大限に広げていきたいと思います。
また、この再出発を記念して、美術館のみならず前橋の町の中に広く展開する記念展覧会を実施し、アートが街と共にあり、人々の生活と共に発展することを体現する展覧会として、10周年の幕を開けたいと思います。皆さまよろしくお願いいたします。■出原均 館長就任のメッセージ
この度、アーツ前橋にご招聘いただきまして、山本市長と、ご推挙いただきました南條特別館長に厚くお礼申し上げます。私はこれまでアーツ前橋には6回伺いました。市民の目線に立つところなど、とてもよいところのある館でした。しかし、今回、改善すべきところを改善し、新たなページを開くことになりましたので、私の2つの美術館での経験を役立てることができればと就任させていただきました。南條特別館長のもと、美術館が十全に機能し、さらなる発展を遂げるよう尽力したいと考えております。
なお、前橋市公式YouTubeページでは、4月24日の記者会見が公開されている。