公開日:2023年8月26日

アーツ前橋が開館10周年記念展「ニューホライズン」を10月から開催。国内外のアーティスト30組が出品し、周辺施設も活用した大規模展に

会期は10月14日~2024年2月12日。

記者発表会にて。左から「WOW」ディレクターの近藤樹、写真家の蜷川実花、アーティストの川内理香子、山本龍前橋市長、南條史生アーツ前橋特別館長、アートディレクターの上西祐理、空間演出家の石多未知行、宮本武典アーツ前橋チーフキュレーター

2013年に群馬県前橋市の商業施設を改修した市立美術館として開館したアーツ前橋。その開館10周年記念展「ニューホライズン 歴史から未来へ」が10月14日~2024年2月12日に開催される。8月25日、東京都内で本展の詳細についての記者発表会が同館特別館長の南條史生や参加アーティストらが出席して行われた。

発表会は冒頭、山本龍前橋市長が登壇し「これまでの10年間で自治体がアートを担うことは相当な覚悟がいると実感した。本展では新しいチャレンジができると期待している」と挨拶。次いで、本展ディレクターの南條特別館長は次のように述べた。

「アーツ前橋は、今年5月に人員を刷新し、過去を検証しながら前へ進んでいる。10周年記念展は、前橋の街に文化の花を咲かせたい思いで関係者一丸となって準備に取り組んでいる。本展のタイトル『ニューホライズン』は、当館が次の10年という新たな地平線へ向かっていく気持ちを込めた。本展では、たとえば最新のテクノロジーを使った作品やフレッシュな若手、次世代を担う作家の作品など、様々な新しいものを館内のみならず街の様々な場所に展示する。当館が、街の中へ出ていく美術館だということを強く押し出したい」

記者発表会で説明する南條史生アーツ前橋特別館長(左)

本展は、海外8ケ国と国内の計30組の作家を招聘。内容は大きく分けて、メイン会場のアーツ前橋で開く展覧会と、街中へ飛び出して行う展示やプロジェクトの2部で構成される。

アーツ前橋の6つの展示室を使う展覧会は、人工知能(AI)を活用するトルコ出身のレフィーク・アナドール、光を駆使したアートワークで知られるジェームズ・タレル、国立新美術館で個展を開催中の蔡國強、気候変動に注目するオラファー・エリアソンら海外のビッグネームの作品をそろえる。川内理香子山口歴井田幸昌ら若手や、国際的に活動する五木田智央松山智一らの絵画作品も紹介。イスラエル出身のザドッグ・ベン=ディヴィッドによるユニークな館内空間を生かしたインスタレーション、市内の蚕糸技術センターで作られた「光る糸」を用いたスプツニ子!の作品なども展示する。

レフィーク・アナドール Living Paintings Immersive Editions: Artificial Realities: Winds of LA / Pacific Ocean / California Landscapes. 撮影:Joshua White Courtesy of Jeffrey Deitch, New York and Los Angeles
山口歴 MÖBIUS NO. 17 撮影:© 2021 浦野航気 © 2021 MEGURU YAMAGUCHI, GOLD WOOD ART WORKS
スプツニ子! Tranceflora  撮影:So Morimoto

アーツ前橋周辺は近年、藤本壮介設計の「白井屋ホテル」やギャラリーが複数入る平田晃久設計の「まえばしガレリア」など有名建築家によるアート関連施設の誕生が相次いだ。本展は、この2つを含む徒歩圏内の新旧の建築にも作品を配置。アーツ前橋の宮本武典チーフキュレーター(東京藝術大学美術学部絵画科准教授と兼務)は「街歩きツアーや連携展示を行い、建築に関心がある層にもアピールしていく」と話した。

街中の特設会場が、繁華街に立つ彫刻的な形状の「HOWZEビル」。人気写真家の蜷川実花、東京やロンドンを拠点に体験型作品を制作するビジュアルデザインスタジオWOW(ワウ)、アニメやSF映画にインスピレーションを得た作品を手掛けるマルチアーティストのマッド・ドッグ・ジョーンズらが、空き空間を生かした新作展示などを行う。中央通り商店街では、百貨店内に前橋生まれの演劇作家・藤田貴大が主宰する劇団「マームとジプシー」の期間限定の劇場空間が登場し公演を行うほか、ガムテープと新聞紙を用いた大型作品をつくる関口光太郎やAR(拡張現実)を駆使する木原共によるアートプロジェクトやワークショップも実施する。

WOW の展示予定作品
蜷川実花 残照/Eternity in a Moment  © mika ninagawa
マームとジプシー Light house  撮影:岡本尚文

プロジェクションマッピングの第一人者、石多未知行がプロデュースするイベントも注目だ。歴史的建造物である群馬県庁昭和庁舎の前面を使い、タイとインドネシア、マカオのトップ映像クリエーターチームが光と色彩が闇の中で舞う幻想的なショーを展開する(10月27、28、29日)。

美術館のみならず、周辺施設や空きビルも活用して、現代アートによる賑わいの創出と地域との絆の強化を図る本展。アーツ前橋では今後、2年ごとに同様のアートイベントの開催を目指すという。なお同館では、本展開催に当たり、「ふるさと納税」の仕組みを利用したクラウドファンディングを9月30日まで実施している。

アーツ前橋

近年、借用作品の紛失と作家に対する契約違反というふたつの問題が起きたアーツ前橋。記者発表会では、山本市長や問題発生後に就任した南條特別館長に対し、館運営に関する質問も相次いだ。

作品紛失について問われた山本市長は、「いちばんの反省点は、アートの世界と行政の世界がまるで違い、その間でプロトコル(約束事)がつながっていなかったこと」と回答。また南條特別館長と同じく今年5月に就任した出原均アーツ前橋館長について、「行政マンの経験もあり、アートと行政をつないで館の改善を進めるうえで心強い存在だ」と述べた。南條特別館長は「今春、新たに入った人を含め学芸体制を組みなおした。10周年記念展は、アーツ前橋が新しいスタートを切ったことを象徴的に表したい」と語った。

借用紛失と契約違反を巡る市の調査では、館の人員不足や学芸員の離職率の高さ、ハラスメントの問題も指摘された。宮本チーフキュレーターは「外部の方とも対話しながら、適正な作品保管体制やあるべき労働環境を確立していく。収蔵品データベースに不完全な部分があると判明したので、現在は記念展の準備をしながら、管理状況の再確認を行っているところだ。作品紛失時の反省にもとづき館内のコミュニケーションをしっかり取るなど、2度と問題が起きないように改善努力を続けている」などと説明した。

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