公開日:2023年2月24日

日本初のアーティスツ・ユニオンが結成。オンライン記者会見で課題と指針を語る

ユニオンメンバーは村上華子、湊茉莉、川久保ジョイ、加藤翼、飯山由貴、寺田衣里、宮川知宙、藤井光、山本高之、白川昌生の10名(2023年2月24日時点)

アーティスツ・ユニオン ホームページ(http://artistsunion.jp/index.html)

オンライン記者会見の内容をダイジェスト

2023年2月24日、現代美術に携わるアーティストによる労働組合「アーティスツ・ユニオン」の結成に関する記者会見がオンラインで開催された。登壇者は村上華子湊茉莉川久保ジョイ加藤翼飯山由貴寺田衣里宮川知宙藤井光山本高之白川昌生(以上、組合員)。小田原のどか笠原恵実⼦(オブザーバー、プレカリアートユニオン多摩美術大学支部)。

会見の司会進行を務めた小田原によると、同組合は、契約社員、派遣、パート、アルバイトなどの非正規雇用など誰でも一人から加入できるユニオンであるプレカリアートユニオンの一支部として今年1月19日に結成されたとのこと。記者会見では、結成の経緯や組合員各自が持つ問題意識などについて語られた。

小田原のどか

アーティスツ・ユニオン結成の背景と経緯

アーティスツ・ユニオン支部長を務める村上華⼦は、自身が拠点とするフランスの文化芸術環境をふまえ、「⽂化移⺠としてのアーティスト」という観点から以下のように語った。

村上 私は、11年前からパリを拠点に外国⼈として⽣活しつつ、アーティストとしての制作活動に取り組んでいますが、芸術家の社会的地位が低いこと、仕事をしても報酬がないことが多いことなどを⽬の当たりにし、フランスに移住しました。同国ではアーティストとして、⼥性として⽣きていくための基本的なインフラが整い、外国⼈であってもなくても活動の機会は開かれていると感じます。このように、⽂化芸術に従事しつつよりよい環境を求めて拠点を移す⼈のことを「⽂化移⺠」と呼ぶそうです。

いっぽう、近年は⽇本において作品を発表する機会があるたびに「報酬がない、あるいは不当に少ない」という状況に⾔葉を失うことが多々ありました。それが不本意であることを伝えても、私個⼈の意⾒では何も動かず、将来的にギャラリーを通じて作品販売につながるかもしれないという仮定を前提に、実質的にタダで仕事をせざるを得ない状況に悔しい思いをしてきました。また、適正報酬がないことにより⽣じる権⼒のアンバランスがハラスメントの温床となってきたことも事実です。

⽇本の美術業界においてこれまで暗黙の了解とされてきた慣習を⾒直し、ハラスメントや労災のない環境で安⼼して働き、報酬を受け取れるようにすること。アーティストの「報酬ガイドライン」「倫理ガイドライン」「労災ガイドライン」を定めることを通じ、業界全体の透明性を⾼め、健全化を図ること。これからやることは⼭積していますが、いずれもポジティヴな変化につながると確信しています。

村上華子

歴史問題などを作品で扱う藤井光は、国際的な倫理基準や現代美術の社会的役割について以下のように語った。

藤井 村上さんから文化移民という話がありましたが、私自身優秀なアーティストや学芸員が日本を離れるのを見てきました。かれらの向かう先は経済的・文化的な地盤のすでにあるG7各国だけでなく、シンガポールや韓国など、アジアの文化拠点を目指す都市です。その理由は明白で、それらの都市では権利と地位が認められ、アートに関わるプロフェッショナルな意識が根付いているからです。

国際展とは作品を楽しむだけの場所ではなく、地政学的な緊張を増す時代に対して訴えかける場所でもありますが、そこでアーティストが主体的な活動を維持しようとするには、日本はましな環境とは言えません。むしろ、そういった国際水準に合わせて活動しようとすることが(アーティストの)貧困につながりさえします。

こういった状況を文化庁も理解しており、アートのグローバル展開事業やアーティストのための方策も打ち出してはいますが、海外に比べてその規模があまりに小さく、より大きな財政的支援が日本国内に必要であるのは明白です。

フリーランスであるアーティストの職業的地位を認める、国際基準に準じた新たな法的枠組の議員立法が必要であり、数十万人(のアーティスト)の生命にかかわるものとして理解してほしい。

藤井光

イギリスで活動し、⽀部書記⻑を務める川久保ジョイは、諸外国のユニオンの事例や自身が経験した日本国内での展覧会事例について語った。

川久保 最近制作した映像作品で、私は役者やクルーをまとめて監督し、スタジオ内だけでなく野外や公共の場でも撮影を行いました。イギリスでは公共の場で撮影などを行う場合は、公的損害賠償責任保険に加入しなければ撮影の許可が下りません。しかし、フリーランスのアーティストを保険会社は対応してくれません。イギリス国内のアーティスト・ユニオンの一つ「Artists’ Union England」では、組合に加入すると同時に公的損害賠償責任保険にも加入してくれます。それによってアーティストは安心して、事故や訴訟などのことを心配せず、公的な場でも活動・制作ができます。

いっぽう、日本でのある公的な機関による展覧会の仕事依頼を受けたことがありました。アーティストは興味あればエントリーし、応募者の中から10名のアーティストが選ばれる、という形式でしたが、このような形式では、アーティストから参加を申し入れる形式になり、(展覧会に関わる)条件の交渉ができないため、主催者の独占的権限の元、アーティスト同士が敵対し、不利な条件での受託を余儀なくされることがあります。

その後に知ったことですが、この展覧会の総予算は9000万円に登るにもかかわらず、輸送費や旅費等経費の実費以外に参加アーティストにはそれぞれ作品借用費として5万円ずつ支払われ、アーティストにとっての報酬と言える「アーティストフィー」はゼロでした。同様の状況はイギリスでも起こり得ますが、スコティッシュ・アーティスツ・ユニオンアーティスツ・ユニオン・イングランドなどのアーティスト団体には、会員用の窓口があり、顧問弁護士が雇用や契約に関する法的相談に対応するサービスも提供されています。

川久保ジョイ

村上と同じくフランスで活動し、ユニオン副⽀部⻑を務める湊茉莉は、フランスにおけるアーティストの著作権などについて語った。

 フランスにおける著作権法は、「著作権人格権」を「著作財産権」に優先させていることが特徴的で、著作権は「所有権」であると考えられており、著作物とは著作者の人格を投影した成果物であることから、ほかの誰でもない著作者の所有物であるという人格理論、著作物の創作にかかる労力に見合った利益を享受する権利があるという労働理論という考えに基づいています。視覚芸術に関わる著作権法、フランス知的所有権法典第132の25条では「著作者の報酬は、各利用ごとに支払われるべきものとする」とあるように、制作者である著作者に「報酬が支払われる」という概念が示されています。

いっぽう、日本の著作権制度における著作権契約法の不備が指摘されています。今の日本の著作権法は、権利の付与はしていますが、著作権等に関する契約を規制する規定を一切持っていません。文化的所産を生み出した人への正当な対価を支払うことは単なる著作権を超え、文化的権利・文化権保護を一種の人権として位置付けていくことが必要ではないでしょうか?

今後、私たちは各国の文化政策についても勉強会を重ね、私たちの現状を改善するべき点について声をあげ、よりよい環境において文化を創造できる社会を、そしてつくりて側の環境についても広く共通理解を深める活動が必須であると感じています。

湊茉莉

今後のアクションについて

今後のユニオンの活動については、加藤翼飯⼭由貴⼭本⾼之から「労働者としての権利拡張を⽬指す」「レイシズムと検閲に抗する」「美術館・学芸員の倫理を問う」との指針が示された。

飯山は、東京都⼈権プラザで開催された企画展「 あなたの本当の家を探しにいく」において1930年〜40年にかけて東京の精神病院に⼊院していた朝鮮⼈患者2名の記録に基づく映像作品の上映を提案したが、関東大震災で起きた朝鮮人虐殺の歴史認識などを理由に、東京都総務局⼈権部から上映禁止の決定を受けた。飯山によると、いまだ作品の上映会は実現できておらず、今年3⽉1⽇に個⼈として⼈権部に要望書の⼿渡しを⾏う予定であるという。

飯⼭由貴

⼭本は、群⾺県前橋市のアーツ前橋で2019年に開かれた自身の企画展「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX 未来を考えるための教室」について、2020年9⽉に損害賠償請求をし、今年に⼊って前橋市と和解したことを報告。同事案について市から提出された600ページを超える調査資料には、当時の担当学芸員や前館⻑が主導した学芸員ぐるみでの部課⻑への虚偽の報告により、⾏政による「契約不履⾏」の状態が作り出された経緯が詳細に記されているが、山本は「こうした運営がまかり通るようでは、我々美術家は展覧会など恐ろしくて参加することはできない」と訴えた。ユニオンでは、こうしたことが繰り返されないよう、美術館やそこで働く学芸員に最低限の倫理を持ってもらうための様々なアクションを展開していく予定とのこと。

⼭本⾼之

展覧会開催をめぐる契約や選考、あるいはギャラリーとの売買契約などアーティストに限らず、あらゆる美術関係者にとって不透明な要素が多いのは、アート界の非常にネガティブなポイントであり続けている。また、美術館や行政といった対組織の事案だけでなく、制作に関わるやりがい搾取や雇用契約の不透明さ、高名作家による若手作家からのアイデアの剽窃など、アーティスト間の問題ももちろんある。

アーティスツユニオンでは、ホームページに掲載した「ハラスメント防止ガイドライン」に即して、そういった問題にも厳しく対応していくとのこと。また、同ホームページではユニオンに加入するための条項も掲載されている。

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