美術史を総覧する重量級の本から、アーティストの鋭い視点から書かれた本まで、アートの歴史を学ぶための基本&入門的な本を中心に紹介。新たな1年をともに過ごす本を見つけてみませんか?
長期休みや1年の始まりにこそ読み始めたい……分厚いけど美術史のダイナミズムを隅々まで楽しめる決定版。
『美術の物語』
エルンスト・H・ゴンブリッチ 著
天野衛、訳大西広、奥野皐、桐山宣雄、長谷川宏 訳
河出書房新社 定価:9350円
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309256283/
世界で累計800万部の大ベストセラーを誇る、美術史入門の決定版。太古の洞窟壁画から戦後のモダニズムまでを、平易かつ親しみやすい文体で、ひとつの大きな物語として書き通す。カラー376点、モノクロ64点という豊富な図版を収録。ある作品が、後の時代の作品でどのように参照されたか、またどのような様式的な変化が起きたかを比較検討できる図版のセレクトが絶妙で、時代を超えてつながる美術史のダイナミズムを味わうことができる。絵画、彫刻のみならず建築史も含む。ただし2〜13世紀のイスラム・中国美術には1章が当てられているものの、その後の時代は西洋美術中心。
『西洋美術の歴史』
H・W・ジャンソン、A・F・ジャンソン 著
木村重信、藤田治彦 訳
創元社 定価:3740円
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=876
美術史の権威ジャンソン父子の世界的ベストセラー。古代世界、中世、ルネサンス・マニエリスム・バロック、近世世界の4章からなる通史で、建築や写真芸術までを取り上げる。図版はカラー219点、白黒300点を収録。優れた解説によって西洋美術史を総覧できるうえ、比較的安価なのも魅力的だ。
『ART SINCE 1900 図鑑 1900年以後の芸術』
ハル・フォスター、ロザリンド・E・クラウス、イヴ=アラン・ボワ、べンジャミン・H・D・ブークロー、デイヴィッド ジョーズリット 著
尾崎信一郎、金井直、小西信之、近藤学 訳/日本語版編集委員
東京書籍 定価:13200円
https://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/81035/
ピカソやデュシャンからウォーホル、具体美術協会、草間彌生、ダミアン・ハースト、アイ・ウェイウェイまで、20世紀以降の現代美術を時系列で詳説。芸術家やグループ、運動・動向、思潮・思想などを800点以上の図版とともに論じる。筆者はアメリカの季刊美術理論誌『オクトーバー』誌上で言論活動を展開し、欧米を中心に多大な影響力を持つ美術史家5名。「図鑑」というだけあって分厚いが、現代美術を歴史的に網羅したければまずはこの1冊。
『絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで』
デイヴィッド・ホックニー&マーティン・ゲイフォード 著
木下哲夫 訳
青弓社 定価:6050円
https://www.seigensha.com/books/978-4-86152-799-9/
1960年代のイギリスのポップ・アートムーブメントの立役者で、現代美術界の巨匠として現在も精力的に活動するデイヴィッド・ホックニー。美術批評家マーティン・ゲイフォードとの対話を重ねて生み出された本書は、絵画や写真、映画などの視覚芸術に通底する「画像(picture)」の歴史をひもとく。「絵画の歴史」とあるが、絵画を論じるうえでディズニー・アニメーションからiPhoneなど現代のテクノロジーまで、様々なものが縦横無尽に飛び出す。人類は何をどのように見て、何を描いてきたのかといった問題を、思索を重ねてきたアーティストの視点から解きほぐす。
なお、よりやさしく入門的な『はじめての絵画の歴史 ―「見る」「描く」「撮る」のひみつ―』(青弓社)もある。
『彫刻の歴史 先史時代から現代まで』
アントニー・ゴームリー、マーティン・ゲイフォード 著
石崎尚、林卓行 翻訳
東京書籍 定価:5500円
https://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/81432/
2021年10月に日本語版が刊行されたばかりの本著は、ストーン・ヘンジから鎌倉大仏、ラオコーンからダミアン・ハーストまで、古今東西の彫刻の流れを総覧する画期的な1冊。筆者のアントニー・ゴームリーは現代を代表する彫刻家で、自らの身体を型取りして作った人体像で知られる。「『彫刻とはなにか?』という問いは『人間とはなにか?』という別のより大きな問いと密接に結びついている」(本書「はじめに」より)と考える作家が、美術批評家マーティン・ゲイフォードとともに彫刻の歴史を語り尽くす。たんなる通史ではなく、「身体と空間」「光と闇」「時間と死の定め」「恐怖とフェティシズム」という独自に設定した18のテーマで議論が展開されるのが面白い。
『日本美術史 美術出版ライブラリー 歴史編』
山下裕二、髙岸輝 監修
美術出版社 定価:3080円
https://bijutsu.press/books/1582/
様々なメディアを通して日本美術のおもしろさの普及に努めてきた美術史家の山下裕二と髙岸輝が監修する本書は、わかりやすさと読みさすさを重視。縄文から現代まで、500点以上にもおよぶ豊富なビジュアルとともに、25名の第一線で活躍する研究者たちが最新研究に基づき解説する。
現代アートって難しい。いったい誰がなんのためにつくって、評価されているの? そんなモヤモヤに鋭くメスを入れ解きほぐす、切れ味抜群の本。
『現代アートとは何か』
小崎哲哉 著
河出書房新社 定価:3025円
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309279299/
現代アートとはいったいどのようなエコシステムで成り立っているのか。そこにはアーティストはもちろん、世界的企業のトップや王族などのスーパーコレクター、ギャラリスト、キュレーター、理論家といったプレイヤーたちの力関係が存在する。アートマーケットやミュージアム、批評と理論、そして観客のあり方といった論点から、アートの制度と表現について解説。アートプロデューサー・ジャーナリストとして活躍し、『REALKYOTO FORUM』編集長を務める筆者が、現代アートの真の姿を炙り出す。
また同筆者による『現代アートを殺さないために ソフトな恐怖政治と表現の自由』(河出書房新社)は、近年たびたび議論が巻き起こる「表現の自由」という観点から、政治とアートの動向に肉迫する1冊。
『みんなの現代アート──大衆に媚を売る方法、あるいはアートがアートであるために』
グレイソン・ペリー 著
ミヤギフトシ 訳
フィルムアート社 定価:1980円
http://filmart.co.jp/books/art/composite_art/playing_to_the_gallery/
イギリスの権威ある美術賞「ターナー賞」を受賞している作家グレイソン・ペリーが、皮肉とユーモアたっぷりにお届けする現代アート論。「私がアート界と呼ぶ、不可解で意地悪なサブカルチャーの地が生み出したものごとに、興味をもって、あるいは偶然、一般市民が触れる機会も多くなった。35年ほどその地に身を置く部族の一員として、私が愛してやまないそれらのものごとを形づくる価値観やその行為について、皆さんに説明しようと思う」(本書まえがきより)。なぜ現代美術は“難解”なのか?というわだかまりが胸につかえているなら、筆者とともにその魑魅魍魎な世界をのぞいてみてはいかがだろうか。
また『男らしさの終焉』(フィルムアート社)は、異性装者(トランスヴェスタイト)としても知られる同筆者が「有害な男らしさ」の暴力性と愚かしさをズバズバと切っていく語り口が痛快。ジェンダーについて考えるうえでもおすすめ。
『アート・オン・マイ・マインド ―アフリカ系アメリカ人芸術における人種・ジェンダー・階級』
ベル・フックス 著
杉山直子 訳
三元社 定価:3520円
http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/320.htm
2021年12月に残念ながら逝去したベル・フックスは、アフリカ系アメリカ人のフェミニズム理論家、文化批評家。近年日本でも『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』がエトセトラブックスから復刊され、多くの読者を獲得している。本書はフックスが視覚芸術について論じたテキスト、特に黒人女性のアーティストによる芸術実践を対象とした論考と対談を収録する。ジェンダーや人種、階級を関連させながら作品やアーティストについて論じた本書はいわゆる入門書ではないが、現代アートの手引書としても読める。著者が本書に取り組んだ出発点には、「芸術および美学についてのアフリカ系アメリカ人による進歩的な批評が欠如している」(本書序文より)という問題意識があった。白人至上主義、資本主義、家父長制による支配は、美術の世界でも未だ例外ではない。上記で紹介した「入門書」の筆者やそこに登場するアーティストのほとんどを白人・男性が占めているのがその証左だ。そういった権力構造からこぼれ落ちる作家や作品に光を当て、言説を生み出す本書は、いまアートを考えるうえで重要な視点を読者に授けてくれるだろう。
ハンディサイズでどこでも気軽に読み始められる新書にも、様々な視点から美術とその歴史について書かれた充実の本がたくさんある。そのほんの一部をご紹介。
『女性画家たちの戦争──戦時中、絵筆をとった女性画家たちの物語』
吉良智子 著
平凡社 定価:924円
https://www.heibonsha.co.jp/author/a92734.html
本書もフェミニズムの知見から美術について書かれた1冊。第二次世界大戦中、藤田嗣治といった当代を代表する画家たちが戦争画を描いたが、じつは多くの女性画家たちも戦争を描いていたことはあまり知られていないだろう。長谷川春子、桂ゆき、三岸節子、そして女性画家集団・女流美術家奉公隊といった画家たちは、なぜ、どのように戦争を描いたのか。筆者はこれまで語られることのなかった「もうひとつの美術史」を、丹念な研究によってつむぎ出す。
『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』
山本浩貴 著
中央公論新社 定価:1056円
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2019/10/102562.html
第二次世界大戦後の現代アートについて、主に社会との関わりという観点から説明する概説書。社会的実践を行う現代アートの潮流=ソーシャリーエンゲージドアートを起点に、植民地主義や資本主義、人種、国家といった制度などを横断しながら、現代アートの輪郭を浮かび上がらせる。欧米のアートはもちろん、日本の戦後前衛美術から現代の在日コリアンの美術をはじめ、アジアにも視線が向けられている。
『日本仏像史講義』
山本勉 著
平凡社 定価:946円
https://www.heibonsha.co.jp/book/b194575.html
なじみ深いようでじつはよく知らない……? そんな仏像の美術史を、6回の講義で解説。6世紀半ばに日本に入ってきて以来1500年近く、仏像は造られてきた。飛鳥時代から円空仏まで、仏像の美の通史を簡潔に概括する。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)