TODA BUILDING(TODAビル) 完成予想図
戸田建設が開発を行うアート事業「ART POWER KYOBASHI」の詳細が発表された。舞台となるのは、東京駅や銀座からほど近い京橋エリア。この地に120年前から社屋を構えてきた同社は現在、アーティゾン美術館と隣接する敷地に本社建て替えを含む大規模オフィスビル「TODA BUILDING(以下、TODAビル)」の建設を進めている。竣工は2024年9月、同11月に開業を予定。
この開発では都市計画制度の土地区画整理事業と都市再生特別地区(特区)を活用して大街区化、超高層化を図り、アーティゾン美術館(ミュージアムタワー京橋内)のある隣接街区と共同して「芸術文化の拠点」の形成を目指している。
中心となるのは、建設中のTODAビルの低層部(1~6階)。ここに芸術文化の創作交流と情報発信機能を担う複合施設を構える。


6階はミュージアム(運営:ソニー・クリエイティブプロダクツ)。音楽・映画・アニメ・現代アート・建築等幅広い文化発信を行う。4、5階はイベントホール。3階には現代アートのギャラリーコンプレックスと創作交流ラウンジ。1階はアートショップ・カフェ。1、2階はアートスペースや屋外広場(アートスクエア:仮称)として、来街者が無料で現代アートに触れることができるという。隣接するアーティゾン美術館とのあいだは屋外広場となり、人々が歩いて往来が可能だ。

「ART POWER KYOBASHI」は、アートによるまちのエコシステムの構築を目指すプロジェクトとして構想されている。作品の展示のみならず、新進アーティストが集い、創造・発表・販売のサイクルを生み出すことで、京橋エリアの文化的価値の醸成を図るという。アートプロジェクトを企画・実践したい新進キュレーターやアーティストのための実践型スクールなど、様々なプログラムも行われる予定だ。

アドバイザーを務める小池一子(「ART POWER KYOBASHI アドバイザー」/クリエイティブ・ディレクター)は、「ひとつの企業がオルタナティブな視点による立脚点を持ち、文化の仕事をしようとしていることに大きな希望を見出しました」と語る。

アドバイザーは小池に加え、唐澤昌宏(国立工芸館館長)、小山登美夫(小山登美夫ギャラリー 代表)、遠山正道((株)スマイルズ 代表取締役社長/(株)The Chain Museum 代表取締役社長)、豊田啓介(東京大学生産技術研究所 特任教授/建築家)の5名が務める。

この構想の主要な一翼を担うのが、パブリックアート・プログラムだ。1つのプログラムは1年から1年半ほどの期間で、コミッションワークを中心にTODAビルの共用空間でパブリックアートを設置。プログラム第1回キュレーターは飯田志保子が務め、コンセプトに「螺旋の可能性──無限のチャンスへ」を掲げる。参加作家は4名。
持田敦子(1989年東京都生まれ)は、1階エントランスロビーと屋外広場をつなぐ、大きな螺旋階段を想起させる作品を設置予定。
野田幸江(1978年滋賀県生まれ)は、有機的な素材を変化させて、循環する生死のありようを想起させる作品を2階回廊に展示。自営業で花屋を営んでおり、本作のために建設予定地周辺で雑草などの有機物を採取し始めているという。
毛利悠子(1980年神奈川県生まれ)は、2階回廊、3階共用スペースで作品を展示。環境などの諸条件によって変化していく事象に焦点を当てるインスタレーションを制作する。またマルセル・デュシャンに着想を得た作品も展示予定。
小野澤峻(1996年群馬県生まれ)は2階共用スペースで展示。ジャグリングパフォーマーとしての身体を基点とした上演型の作品を制作。今年の「あいち2022」では振り子運動に基づく作品《演ずる造形》を展示していた。



飯田はコンセプトについて、「現在の社会状況は、高度成長期のように一直線の右肩上がりではありません。だからこそ、パブリックプログラムは精神が高揚するようなエネルギーをもらえるものしたいと思い、複数の回り道や紆余曲折がありながらも未来に向かっていくような”螺旋形”を選びました」と説明。作家の共通点としては、過去・現在・未来が生き生きと交差する場を作り出すことや、既存の価値観に挑戦し、喜びに満ちた驚きを観客にもたらすこと、遊び心を持っていることなどを挙げた。
江戸の職人街から発展し、かつては歌川広重や北大路魯山人も居を構えた京橋。「次の100年に向けた、新たなまちづくりに貢献したい」と小林彩子(戸田建設株式会社 京橋プロジェクト推進部部長)は語る。2年後に控えた、新たなまちの変化に期待したい。