京都市京セラ美術館で、「アンディ・ウォーホル・キョウト」が開幕した。20世紀を代表するポップアートの巨匠の無名時代から、晩年の大作までを網羅した大回顧展となるこの展覧会は京都だけの開催。ウォーホルが京都からインスパイアされた知られざる作品も公開される。
アートファンなら誰もが知っているアンディ・ウォーホルだが、今回の展示作品、約200点のうち、100点以上は日本初公開作品。つまり「知ってるつもり」のウォーホルの、知らなかった顔にも出会える展覧会となっている。
最初に展示されているのは、ウォーホルが有名アーティストとなる以前の、イラストレーターとしてのドローイング作品。その特徴的な技法は、鉛筆で描いた線の上を黒インクでなぞり、乾かないうちに別の紙を押し当てて転写する、ブロッテドラインと呼ばれるにじみ線。このほか、スタンプによるドローイングも試みていて、反復や転写という、後にアート作品に用いるテクニックの萌芽が見える。
イラストレーター時代のウォーホルは、ドローイングに、当時としては珍しく金箔を使用している。これはウォーホルが1956年に世界一周旅行をした際に、日本を含むアジアにも訪れ、寺院で見た仏像の金色の輝きに魅了されたことがきっかけになったと言われている。
1956年に初めて日本に来たウォーホルの2度目の来日は1974年。このときに、すでに世界でもっとも有名なアーティストとなっていたウォーホルは、生花などの日本文化に触れ、日本の芸術家とも交流。展示された写真からは「来日セレブ」として振る舞うウォーホルの様子が伺えて、微笑ましい。
1962年頃からマリリン・モンローやエルヴィス・プレスリーなどの肖像画、商標などの大量消費社会のイメージを作品に用い、ウォーホルはアーティストとして注目を浴びた。見慣れたイメージの反復には、どこかグロテスクさや儚さが感じられる。光の裏に影を、名声の裏に虚を感じていたウォーホルの視点が透けて見えるかのようだ。
生まれ故郷、ピッツバーグにあるアンディ・ウォーホル美術館所蔵、門外不出といわれる《三つのマリリン》。ポップアイコンの中に儚さを感じさせる、ウォーホル芸術の真骨頂だ。
ウォーホルのトレードマーク、シルバーのウィッグは、60年代半ば、アルミホイルで包まれたスタジオ「シルバー・ファクトリー」に合わせて、茶色のウィッグに銀の塗料をスプレーしたものだった。このようにセルフプロデュースしたエキセントリックなスタイルで、ウォーホルは映画、雑誌、テレビ番組の制作など、マルチにジャンルを横断した。映像や立体で、情報化時代のアイコンとして引っ張りだことなったウォーホルを振り返る。
無名のイラストレーターから時代の寵児に上り詰めたサクセスストーリーを巡ってきたこの展示の最後は、誰も知り得なかったウォーホルの複雑な内面と、死への強迫観念を暗示する。新聞や雑誌の切り抜きをモチーフにした「死と惨事」シリーズには、ツナ缶を食べて2人の女性が亡くなった事件や、電気椅子などが描かれる。1978年の《頭蓋骨のある自画像》では、死への意識は明らかだ。
あまり知られていないことだがウォーホルは敬虔なカトリック信者で、幅10m近い大作であるウォーホル版の《最後の晩餐》(1986)は、彼にとって特別な意味を持つ作品だ。中央に描かれた[BIG C]は、「がんcancer治療に効く心構え」という新聞の見出しを流用したものだが、死への恐怖からの救済を与えるキリストのCとも取れる。そして男性聖人の群像にバイクが重なる。
生前セクシュアリティについて公言しなかったウォーホルだが、同時代のアンダーグラウンド映画監督、ケネス・アンガーがあからさまに描くように、バイクはゲイ男性のエロティックファンタジーとして象徴的に扱われてきた。信仰とセクシュアリティに悩んでいたかもしれないウォーホルが、この作品に込めたメッセージは? 謎多きポップアーティスト、ウォーホルからの宿題だ。
さらに連動企画として、ウォーホルゆかりのスポットをめぐる「ウォーホル・ウォーキング」を開催。1956年に初めて京都にきた際に立ち寄った三十三間堂(東山区)では、千手観音菩薩立像のスケッチと、拝観中のウォーホルの写真(撮影・原榮三郎)を日本初公開。JR京都駅前ほかの「ウォーホル・ウォーキング」スポットにあるQRコードから、オーディオガイドや、高木正勝によるアンビエントミュージックなどのオリジナルBGMも楽しめる。
また、京都ではほかにもウォーホルに関連する展覧会が開催される。
1974年に来日した時のウォーホルを原榮三郎が撮影した写真展「原榮三郎が撮った京都『Warhol in Kyoto 1974』」(ZENBI - 鍵善良房 - KAGIZEN ART MUSEUM、9月17日~2023年2月12日)、バスキアやウォーホルを被写体にした「ローランド・ハーゲンバーグ 「ニューヨーク フレンズ」(イムラアートギャラリー|京都、9月10日~11月25日)もあわせて鑑賞したい。