公開日:2022年9月17日

「アンディ・ウォーホル・キョウト」レポート。京都市京セラ美術館に集った約200点の作品から、京都との関わりや知られざる一面を知る

「アンディ・ウォーホル・キョウト」が京都市京セラ美術館で9月17日~2023年2月12日に開催。京都開催ならではの内容となった本展をレポート(撮影:沢田眉香子)

会場風景より、京都でのウォーホルの様子

京都市京セラ美術館で、「アンディ・ウォーホル・キョウト」が開幕した。20世紀を代表するポップアートの巨匠の無名時代から、晩年の大作までを網羅した大回顧展となるこの展覧会は京都だけの開催。ウォーホルが京都からインスパイアされた知られざる作品も公開される。

アンディ・ウォーホル 自画像(髪が逆立ったかつら) 1986 アンディ・ウォーホル美術館蔵 © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Artists Rights Society (ARS), New York

「ウォーホル以前」の作品、日本から得たインスピレーション

アートファンなら誰もが知っているアンディ・ウォーホルだが、今回の展示作品、約200点のうち、100点以上は日本初公開作品。つまり「知ってるつもり」のウォーホルの、知らなかった顔にも出会える展覧会となっている。

最初に展示されているのは、ウォーホルが有名アーティストとなる以前の、イラストレーターとしてのドローイング作品。その特徴的な技法は、鉛筆で描いた線の上を黒インクでなぞり、乾かないうちに別の紙を押し当てて転写する、ブロッテドラインと呼ばれるにじみ線。このほか、スタンプによるドローイングも試みていて、反復や転写という、後にアート作品に用いるテクニックの萌芽が見える。

会場風景より、ブロッテドラインに彩色を加えたイラスト。コクトーを思わせる洒脱な描線

イラストレーター時代のウォーホルは、ドローイングに、当時としては珍しく金箔を使用している。これはウォーホルが1956年に世界一周旅行をした際に、日本を含むアジアにも訪れ、寺院で見た仏像の金色の輝きに魅了されたことがきっかけになったと言われている。

アンディ・ウォーホル 孔雀 1957頃 アンディ・ウォーホル美術館蔵 © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society (ARS), New York 日本初公開の《孔雀》。ウォーホルはアジアへの旅で、金の輝きに魅了された
会場風景より、靴のドローイングと、それを立体化した彫刻作品《靴》(1950年代)。金箔の上の華麗な装飾に、ウォーホルの知られざるフェミニンな感性がうかがえる

1956年に初めて日本に来たウォーホルの2度目の来日は1974年。このときに、すでに世界でもっとも有名なアーティストとなっていたウォーホルは、生花などの日本文化に触れ、日本の芸術家とも交流。展示された写真からは「来日セレブ」として振る舞うウォーホルの様子が伺えて、微笑ましい。

アンディ・ウォーホル  京都(清水寺) 1956年7月25日 アンディ・ウォーホル美術館蔵 © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society (ARS), New York
会場風景より、来日時のウォーホルの京都での足どりを追ったマップ。サテライトイベント「ウォーホル・ウォーキング」で、リアルに追体験できる
会場風景より、来日時に感銘を受けた生花を描いた手彩色によるスクリーンプリント《花》(1974)
会場風景より、黒柳徹子とテレビ番組に出演中のウォーホル
会場風景より。京都でのウォーホルの様子は、写真展「原榮三郎が撮った京都『Warhol in Kyoto 1974』」でも見ることができる
会場風景より、右は葛飾北斎を引用した《波》(1986)。日本美術、そして浮世絵という複製芸術へのリスペクトが込められている

ポップアーティスト、ウォーホルの誕生

1962年頃からマリリン・モンローやエルヴィス・プレスリーなどの肖像画、商標などの大量消費社会のイメージを作品に用い、ウォーホルはアーティストとして注目を浴びた。見慣れたイメージの反復には、どこかグロテスクさや儚さが感じられる。光の裏に影を、名声の裏に虚を感じていたウォーホルの視点が透けて見えるかのようだ。

会場風景より、《ジャッキー》(1964)。ジョン・F・ケネディを暗殺で失ったファーストレディーの悲劇と死の影が、ウォーホルを引きつけた
会場風景より、シルクスクリーンを刷る際のミスで生まれたズレをそのままにした《ダブル・エルヴィス》(1963)
[Image: Andy Warhol "Three Marilyns" (1962) Andy Warhol Museum Collection © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society (ARS), New York]

生まれ故郷、ピッツバーグにあるアンディ・ウォーホル美術館所蔵、門外不出といわれる《三つのマリリン》。ポップアイコンの中に儚さを感じさせる、ウォーホル芸術の真骨頂だ。

会場風景より、アレサ・フランクリン、坂本龍一らのポートレイト作品。名声を得てからは、著名人のポートレイトの注文が殺到した。壁紙も作品
会場風景より。《花》のシリーズは、抽象表現の試みのひとつだった

「自分自身がアート」。時代のアイコンに

ウォーホルのトレードマーク、シルバーのウィッグは、60年代半ば、アルミホイルで包まれたスタジオ「シルバー・ファクトリー」に合わせて、茶色のウィッグに銀の塗料をスプレーしたものだった。このようにセルフプロデュースしたエキセントリックなスタイルで、ウォーホルは映画、雑誌、テレビ番組の制作など、マルチにジャンルを横断した。映像や立体で、情報化時代のアイコンとして引っ張りだことなったウォーホルを振り返る。

会場風景より、《銀の雲》。四角い風船型の「浮かぶ絵画」《銀の雲》は、1966年にレオ・キャステリ・ギャラリーで展示された
会場風景より、シルバーのウィッグ、マリンスタイルのシャツとリーバイスのジーンズ。このスタイルも「作品」

光と影、そして死へのオブセッション

無名のイラストレーターから時代の寵児に上り詰めたサクセスストーリーを巡ってきたこの展示の最後は、誰も知り得なかったウォーホルの複雑な内面と、死への強迫観念を暗示する。新聞や雑誌の切り抜きをモチーフにした「死と惨事」シリーズには、ツナ缶を食べて2人の女性が亡くなった事件や、電気椅子などが描かれる。1978年の《頭蓋骨のある自画像》では、死への意識は明らかだ。

[Image: Andy Warhol "Tunafish Disaster" (1963) Andy Warhol Museum Collection © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society (ARS), New York]
会場風景より、《頭蓋骨のある自画像》(1978)、《頭蓋骨》(1976)。70年代後半には頭蓋骨のモチーフが頻出

あまり知られていないことだがウォーホルは敬虔なカトリック信者で、幅10m近い大作であるウォーホル版の《最後の晩餐》(1986)は、彼にとって特別な意味を持つ作品だ。中央に描かれた[BIG C]は、「がんcancer治療に効く心構え」という新聞の見出しを流用したものだが、死への恐怖からの救済を与えるキリストのCとも取れる。そして男性聖人の群像にバイクが重なる。

[Image: Andy Warhol "The Last Supper" (1986) Andy Warhol Museum Collection © The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society (ARS), New York]
会場風景より、《最後の晩餐》(1986)。本作はウォーホルの死の1ヶ月前にイタリアで展示された

生前セクシュアリティについて公言しなかったウォーホルだが、同時代のアンダーグラウンド映画監督、ケネス・アンガーがあからさまに描くように、バイクはゲイ男性のエロティックファンタジーとして象徴的に扱われてきた。信仰とセクシュアリティに悩んでいたかもしれないウォーホルが、この作品に込めたメッセージは? 謎多きポップアーティスト、ウォーホルからの宿題だ。

開会式後のメディアセッションにて。右から、本展キュレーター、アンディ・ウォーホル美術館ホセ・カルロス・ディアズ、アンディ・ウォーホル美術館館長パトリック・ムーア、本展オーディオガイド・ナレーター齋藤飛鳥(乃木坂46)
ショップには公式トートバッグがずらり
マスコットやバナナのバッグも!

ウォーホルをとらえた写真展も開催

さらに連動企画として、ウォーホルゆかりのスポットをめぐる「ウォーホル・ウォーキング」を開催。1956年に初めて京都にきた際に立ち寄った三十三間堂(東山区)では、千手観音菩薩立像のスケッチと、拝観中のウォーホルの写真(撮影・原榮三郎)を日本初公開。JR京都駅前ほかの「ウォーホル・ウォーキング」スポットにあるQRコードから、オーディオガイドや、高木正勝によるアンビエントミュージックなどのオリジナルBGMも楽しめる。

また、京都ではほかにもウォーホルに関連する展覧会が開催される。
1974年に来日した時のウォーホルを原榮三郎が撮影した写真展「原榮三郎が撮った京都『Warhol in Kyoto 1974』」(ZENBI - 鍵善良房 - KAGIZEN ART MUSEUM、9月17日~2023年2月12日)、バスキアやウォーホルを被写体にした「ローランド・ハーゲンバーグ 「ニューヨーク フレンズ」イムラアートギャラリー|京都、9月10日~11月25日)もあわせて鑑賞したい。

沢田眉香子

沢田眉香子

さわだ・みかこ 京都拠点の著述業・編集者。アート・工芸から生活文化までノンジャンル。近著にバイリンガルの『WASHOKU 世界に教えたい日本のごはん』(淡交社)。