越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭2009が熱い今年の夏。緑豊かな里山の大地に点在するアート作品を訪ねてまわるのが楽しい同イベントに夏休み中足を運んだ方も多いことだろう。照り返しの暑い東京都内でも、そんなわくわくした体験ができる展示が開催されている。それが、目白の「椿山荘」と「フォーシーズンズホテル椿山荘 東京」で開催中の団・DANSによる展覧会「真夏の夢」だ。
展覧会は、3人(組)のキュレーターによる、3つのパートで構成されている。1階ロビー、テラス、茶室と庭園は、篠原誠司と麻生和子による「-風が渡る路ー」というサブタイトルの展示だ。藤田勇哉、大野修平、沓名美和らの作品が観客を出迎える。また、彼らの展覧会は、作品を見終わった後に、展示されているすべての作品をサイレントオークションという方法で、欲しいと思った作品に応募し、手に入れられるチャンスもある。
宴会場「ギャラクシー」は、「庭の小道への旅」をテーマに、ジュリア・バーンズがキュレーション。椿の風船が浮かぶ北川純の作品を中心に、さとうかよ、岩岡純子らの作品が、一つ一つ強い個性で観客の足を止める。コインロッカーをテーマに制作をする小笹彰子の作品は、壁の収納棚の扉の隙間から鑑賞するというユニークな展示方法をとっている。
親族、友人、そしてオープニングに訪れた多くの観客に見守られて入場した新郎・新婦は、ゴミ袋で仕立てたタキシードとウエディングドレスをまとっている。神父による厳かな式の進行の後、二人が誓いの口づけをすると、なにやら神父がバケツを持ち上げる。そして、なんと、口づけをしている新郎・神父の頭から、石鹸水を被せたのだ。
洗剤の泡で二人の顔は泡だらけ。その後、初めての共同作業」ということで、ケーキカットではなく、岩井の創作活動のテーマである「洗浄」の儀式が始まった。大きな水槽が設置され水が張られると、新郎新婦が洗剤を存分に泡立てる。続いて、おもむろに背後の箱の中から、用意された食材を次々と取り出しては水槽に浸け、スポンジで丁寧に「洗浄」していく。
食材を潜在で洗うことすら非現実的な行為だが、このとき洗浄されたものは、ネギ、リンゴ、缶ビール、ステーキ肉、鶏肉、フランスパンなどなど、「洗う」という行為とは現実的に結びつかないありとあらゆる種類に及ぶ。当然ながらフランスパンは、洗浄後は水を含んですっかりふにゃふにゃ。
マクドナルドの袋まで出て来るが、二人は中から取り出したフライドポテトとハンバーガーを、躊躇なく水に入れ、スポンジでこする。新郎の岩井は、洗剤水に浸けられたビール缶を開けて飲んでみせたり、洗剤水を吸い込んだハンバーガーにかぶりつくなどの行為も披露し、観客は新しい食材が取り出されるたびに歓声や笑い声を上げて、徐々に盛り上がっていった。
一歩足を踏み入れただけで瀟酒な雰囲気に包まれる椿山荘で、「ここにいますよ」と作品たちが語りかけてくるような、楽しい展覧会ができあがった。ホワイトキューブとも呼ばれる、無機質な白い壁に囲まれた美術館やギャラリーでの作品鑑賞は非日常的な体験である。だからこそ、日常生活では得がたい刺激や気づきがあるということもあるだろう。同様に、ゴージャスな壁、ふかふかのカーペットなど、ホテルならではの空間でのアートの鑑賞は、ホワイトキューブでの展示に親しんでいる人にも新鮮に写るだろう。
何よりも特筆したいのは、キュレーターと共に作家達自身が自らの手でつくりあげ、そして運営もしている展示であることだ。フォーシーズンズホテル内のギャラリーでも、団・DANSによる小作品の展覧会が行われているので、こちらもお見逃しなく。(文中敬称略)