アートが照らし出す「もうひとつの京都」。 「ALTERNATIVE KYOTO」レポート。天橋立など景勝地を舞台にしたアートプロジェクトの見どころを紹介

京都府の歴史や風土、有形文化財や名勝、景観、豊かな自然や生活文化等を題材としたアートプロジェクト「ALTERNATIVE KYOTO - もうひとつの京都 –」。現在展示が行われている福知山市と宮津市・天橋立の2つのエリアの様子をレポートする。(撮影:新原なりか)

FUJIMOTO Shohei《dynamic light statics [2022]》展示風景より

京都府域展開アートプロジェクト「ALTERNATIVE KYOTO - もうひとつの京都 –」が、9月9日から11月20日まで開催されている(金土日祝のみ、エリアごとに会期は異なる)。本プロジェクトは2019年から毎年京都府内の各地で展開されており、今回は福知山市、宮津市・天橋立、向日市の3つのエリアが舞台となっている。

福知山市エリア

(展示期間:9月9日〜10月10日)

昔ながらの店舗や看板が残る新町商店街

まずは、福知山市エリアから展示を見ていこう。かつて城下町として、また山陰、北近畿などへの交通の要所として栄えた福知山市。その中心に位置する福知山駅から15分ほど歩いたところにある新町商店街では、彫刻家・花岡伸宏の展示「記憶と立ち上げ」が行われている。

花岡伸宏展「記憶と立ち上げ」第1会場《記憶と立ち上げ》展示風景より

花岡は、商店街の人々の協力を得て、日常生活の中で不用となった日用品や廃材などを収集し、それらを再構成してオブジェを制作した。第1会場(旧コスモス食堂)、第2会場(旧さいとう家具店)、第3会場(旧高木酒店)の3箇所で、それぞれ《記憶と立ち上げ》《立ち上げ、時々座る》《記憶の再構成》という3つのテーマで作品を展示している。

花岡伸宏展「記憶と立ち上げ」第2会場《立ち上げ、時々座る》展示風景より
花岡伸宏展「記憶と立ち上げ」第2会場《立ち上げ、時々座る》展示風景より

第2会場の旧さいとう家具店は、2019年から文化芸術の発信の場「シンマチサイト」として活用されており、今回の花岡の制作拠点ともなっている。ここでの展示《立ち上げ、時々座る》では、花岡が制作したオブジェと、ワークショップで商店街の人々が作成したオブジェ、また持ち込まれたままの状態の不用品や廃材が混在して配置されている。見る人それぞれの記憶が、知らない誰かの物語と重なり合うような空間だ。会期中もモノの収集は続き、作品は増殖を続けている。

​​花岡伸宏展「記憶と立ち上げ」第3会場《記憶の再構成》展示風景より

花岡伸宏展「記憶と立ち上げ」の開催時間は、13時から18時。展示が終わる18時になると商店街の雰囲気は一転し、不思議な光に包まれる。これは、三谷正による作品《subsurface: L350/C250》の一部。コンピュータで制御された数百もの街灯が、色とりどりの光の波をつくりだし、商店街全体がゆっくりとしたうねりの中に取り込まれる。新町商店街が持つ雰囲気と光が組み合わさって、サイケデリックでもありどこか懐かしくもあるような、ここでしか味わえない独特の空気が醸し出されていた。

三谷正《subsurface: L350/C250》展示風景より

《subsurface: L350/C250》は、新町商店街の南端から徒歩5分ほどの福知山城公園へと続く。数十台のプロジェクターにより照らされた、天守閣に向かうカーブした坂道と、天守閣前の広場。さまざまなパターンの光の演出により、普段は覆い隠されているそれぞれの場所の「本質的な価値」が立ち現れてくる。広場には多くの子供たちが集まり、賑やかに光と戯れていたのも印象的だった。

三谷正《subsurface: L350/C250》展示風景より
三谷正《subsurface: L350/C250》展示風景より

宮津市・天橋立エリア

(展示期間:9月23日〜10月23日)

続いて紹介するのは、宮津市・天橋立エリア。このエリアでは、日本三景のひとつにも数えられる天橋立に沿った3箇所で作品が展示されている。

美しい松林の間からスクリーンの光が覗く

まずは天橋立の南端、廻旋橋を渡ると見えてくる巨大スクリーン。ここでは、時と場所が異なる様々なライブパフォーマンスの記録から切り取られた「泡」に注目し観察する中山晃子&澤渡英一《泡沫の形》、コンピュータが無作為に生み出すデータの背後に存在する潜在的な情報の導き方を探求するFUJIMOTO Shohei《dynamic light statics [2022]》、禅をテーマに京都・両足院をミニマルな「点」のランドスケープで表現するTHINK&SENSE+Intercity-express《Stillness》の3作品が順番に上映されている。

中山晃子&澤渡英一《泡沫の形》展示風景より
FUJIMOTO Shohei《dynamic light statics [2022]》展示風景より
THINK&SENSE+Intercity-express《Stillness》展示風景より

松林の中の芝生の広場に立つスクリーンは圧倒的な存在感を放つ。高精細な映像とともに驚いたのが、クリアな音響の素晴らしさ。どの作品でも重要な要素となっているサウンドを、余す所なく堪能できる。海に囲まれた静かな夜の景勝地というロケーションで、作品の世界に没入する非日常感を味わうことのできる展示だ。

カラフルな灯りに照らされる砂浜

広場を出て大天橋を渡ると、同時開催(10月23日まで)されている「天橋立まち灯り」の砂浜ライトアップが始まる。幻想的な砂浜を右手に見ながら自転車で15分、徒歩で40分ほど進むと現れるのは、京都を中心に活動する実験者集団・SPEKTRAによる《Emissivescapes》。長大なランドスケープである天橋立に設置された無数の自ら発光する物体が、「視る」という行為について問いかける。

SPEKTRA《Emissivescapes》展示風景より

天橋立を渡り終えた対岸には、天照大神、豊受大神が伊勢神宮に移る前に祀られていたとされる古社・元伊勢 籠神社がある。その境内にたたずむ大きな立方体は、モントリオールで設立されたデジタルアートスタジオ・Iregularによる作品《CONTROL NO CONTROL》だ。

Iregular《CONTROL NO CONTROL》展示風景より
Iregular《CONTROL NO CONTROL》展示風景より

いくつかのモノクロのパターンが映し出されるLEDキューブに触れて手を動かすと、それに反応してパターンが様々に変化する。「参加者とインタラクティブインスタレーションの関係を模索する、一種の社会デジタル実験」というコンセプトを持ちながら、直感的な鑑賞体験としても楽しめる作品だ。

Iregular《CONTROL NO CONTROL》展示風景より

このエリアの作品の展示時間は、すべて18時から21時。明るいうちに、すぐ近くの天橋立ビューランドから天橋立の全景を眺めてから作品鑑賞に向かうのもおすすめだ。

天橋立ビューランドからリフトで下りながら見る景色は格別

「もうひとつの京都」を体感しよう

このほか、向日市でも10月29日から11月20日に作品が展示される。向日神社の参道、本殿裏 石舞台、舞楽殿横の3箇所にそれぞれ、音楽家・原摩利彦とプログラマー・白木良による《Altered Perspectives 2022》、SPEKTRA《Scatteredscapes》、COREY FULLERと山本信一による《Sanctuary》が登場する。

《Altered Perspectives 2021》 *参考画像
SPEKTRA《Common》(2021) *参考画像

今回2つのエリアを訪れて気づいたのは、これまで京都市内やその近辺だけを見て、京都を「知っている」と思い込んでいたということ。新町商店街や天橋立を歩きながら、「ALTERNATIVE KYOTO - もうひとつの京都 –」というタイトルを何度も噛み締めた。
そして、それぞれの場所がもつ特有の魅力も数多く知ることができた。それらの魅力のなかには、アート作品が照らし出してくれたことによって気づくことのできたものも少なくない。あなたもぜひ、「まだ知らない京都」を見つけに足を運んでみてほしい。

新原なりか

新原なりか

にいはら・なりか ライター、編集者。1991年鹿児島県生まれ、京都大学総合人間学部卒。その後、香川(豊島)と東京を経て現在は大阪市在住。美術館スタッフ、ウェブ版「美術手帖」編集アシスタントなどを経てフリーランスに。インタビューを中心とした記事制作、企画・編集、ブックライティング、その他文章にまつわる様々な仕事を行う傍ら、エッセイや短歌の本の自主制作も行う。