日本で6年ぶりの個展となる、アルベルト・ジャコメッティ展がエスパス ルイ・ヴィトン大阪で開催される。
エスパス ルイ・ヴィトン大阪における第3回目の展覧会として、フォンダシオン ルイ・ヴィトンのコレクション7点が来日した。
入口に入ると、とてつもない存在感の像《大きな女性立像 II》が出迎える。
この作品は、アメリカ人建築家ゴードン・バンシャフトの依頼を受け、ニューヨークのチェース・マンハッタン銀行ビルの広場に設置するために構想された。女性の裸体を扱った、ジャコメッティ最後の作品でもある。
会場中央に並ぶ3体の胸像は、ルーマニアの写真家エリ・ロタールがモデルになっている。ロタールはジャコメッティのお気に入りのモデルの一人で、最後の彫刻作品のモデルになった。1つ目の《男の頭部》(ロタールI)はもっとも小さな作品で、頭部と肩のみが表現されている。
2つ目の作品《男の胸像》(ロタールIl)は、前者より32cm高くなっているが、像からは右肩が消失し、左耳もない。その苦悶する表情や肉体などそれぞれの違いを直に比較して見たい。
ジャコメッティは、1947年から1951年にかけて、単独もしくは集団で歩く男性と女性の姿を複数彫刻している。
細さを象徴するような作品《3人の歩く男たち》は、戦後復興期を舞台に、1つの都市空間で、3人の人物がお互いを認識することなく、それぞれの方向へ向かう様が捉えられている。
《ヴェネツィアの女》は1956年のヴェネチア・ビエンナーレにて6作品からなる作品群の1点として発表されたことからこの作品タイトルが付いている。
歩く男たちに対比するように、女性像はしっかりと足を固め正面を向いている。作家のジャン・ジュネは、この作品を「完全なる不動のなかで絶えず行き来しており」、これら複数の彫像が全体で作り上げる「無限の空間」を生み出していると評した。
ジャコメッティはかつての親友ペーター・ファン・ムールスの死を悼み、1946年に「夢・スフィンクス楼・Tの死」と題された文章を発表している。
この寄稿文で「鼻がより高くそびえ、頬が落ちみ、開いたままほとんど動くことのない口はかろうじて呼吸している。宵近くになり、その横顔を描こうとしていた時に、彼が死んでしまうという恐怖感に突然とらわれた。この経験は、自分の人生に大きな穴を開けた。これを境にあらゆるものが様相を変え、始終まるで取り憑かれたようにこの経験を考えるようになった」と綴った。
本作ではムールスの死に際しての「沈黙の叫び」が主題となっているが、その後のジャコメッティ作品に通底するビジョンとなっていった。
会場では写真家サビーヌ・ヴァイスによるジャコメッティのポートレートが飾られているほか、およそ50分のドキュメンタリー映像もあり、バーゼルでのインタビューや、制作風景、ドローイング、作品が小さく細くなったエピソードなどにも触れられている。
ここまでの点数のジャコメッティ作品が一堂に会するのは、日本では貴重な機会だ。2017年に国立新美術館と豊田市美術館を巡回した展覧会にも出品されていたものとエディションの異なる作品もある。
ジャコメッティはチェース・マンハッタン銀行ビルの広場に対して、《大きな女性立像 II》を含め、晩年の作品の主題であった「女性の立像」、「歩く男」、「棒に支えられた頭部」の3体で構成された作品群を提案していたという。今回いずれの主題を扱う作品もが相まみえる空間となった。
エスパス ルイ・ヴィトン大阪は青木淳建築のファサードからうららかな陽光が差し込む。一方で、夕方以降は彫刻の「肌」がきめ細かく引き立って見える。そんな空間で現在のジャコメッティ作品の姿を堪能したい。