若手アーティストの愛☆まどんなと愛まどんなプロダクションが、ミヅマアートギャラリー(東京都新宿区)の運営会社と同社の代表取締役らを相手取り、販売価格の事前協議なく無断で作品を顧客に販売したなどとして債務不履行に基づく約1000万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴したことが分かった。
訴えられたのは、株式会社ミヅマアートギャラリーと同社の倉重成忠代表取締役、三潴末雄取締役。提訴日は5月23日。
愛☆まどんなは、1984年東京生まれ。2007年から現在の作家名で活動を始め、「美少女」をモチーフに絵画やライブペインティング、マンガなど多彩な作品を手がける。1994年に開廊したミヅマアートギャラリーは、有名作家が多数所属し、日本を代表する現代アートギャラリーのひとつとして知られる。
訴状によると、愛☆まどんな側が2022年に予定されていた個展で展示する作品の一部として2021年2月から8月にかけ引き渡した「彼女の顔が思い出せない」シリーズの新作絵画60点を、同ギャラリーは販売価格の協議なしに4人の顧客に販売した。作家の承認を得ない価格での作品販売は「販売委託契約に違反する」として損害賠償を求めている。未発表の新作を承諾なく販売する行為は、愛☆まどんなの著作者人格権としての公表権を侵害するとも主張している。
また訴状では、愛☆まどんなによる原画を複製し販売した版画作品についても、同ギャラリーは販売委託契約に基づく分配金の支払い義務があるとして損害賠償を請求。同ギャラリーが取り扱いアーティストを掲載するウェブサイトから愛☆まどんなを削除することも求めた(6月27日現在は非掲載)。倉重代表取締役、三潴取締役に対しては、同ギャラリーの契約違反や不法行為を監督すべき注意義務を怠ったなどとした。
Tokyo Art Beatの取材に対し、ミヅマアートギャラリー側は次のようにコメントした。
「まだ事案として受け取ったばかりで担当の弁護士と協議を始め
たところです。ただし我々は愛☆まどんなに対しお支払いなど適正に対応してきました。
彼女の主張には販売した作品代金が昨今のオークション価格と比較し安すぎるといっ
た、プライマリー界の常識を逸脱したものや、また版画制作に関して合意していた内
容を覆して、売上代金の半分の支払いを要求するなど理不尽な点が多々みられます。
いずれ裁判にて私たちに誤りのないことを立証して参ります」
アート業界において作家と契約書を交わすギャラリーはまだ少なく、様々なトラブルの温床になっているが、問題が表面化するケースは多くない。今回、愛☆まどんなは自身のウェブサイトで提訴と請求内容の概要を公表。また、自身のTwitterアカウントで「こんなかたちでわたくしの大切な作品を発表しなくてはならないなんて…心が張り裂けそう」と心情を述べている。
愛☆まどんなの代理人である弁護士の木村剛大は「本件と離れた、あくまで一般論」と断ったうえで次のように語った。
「口頭でも契約は有効だが、書面で残っていないとアーティストとギャラリーに認識の食い違いが起きやすくなる。また、当初想定しなかった事柄が起きた場合、ギャラリーが一方的な対応をすることも起こりえる。トラブルを未然に防ぎ、アーティストとギャラリー間で信頼関係を築いていくためにも契約書を交わすことは重要だ」
裁判の行方を注視したい。