国内外131組のアーティストが参加し、オープン当日は1万人を越す来場者があったという、大規模な街中でのアートイベントが名古屋で始まった。第1回目ということもあり、始まるまで情報を追いきれずにいたけれど、始まってみればこれほどの現代アートを一度に見られることにまず興奮してしまう。実はトリエンナーレにもこっそり公募企画で参加した筆者が見た「あいちトリエンナーレ2010」を写真多めでレポートします!
あいちトリエンナーレ2010
[会期] 2010年8月21日(土)-10月31日(日)
[会場] 愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、納屋橋会場
*その他、名古屋城、オアシス21、中央広小路ビル、七ツ寺共同スタジオなど
[主催] あいちトリエンナーレ実行委員会、愛知芸術文化センター、名古屋市美術館
[芸術監督] 建畠 晢 (国立国際美術館館長)
[URL] http://aichitriennale.jp/
愛知芸術文化センター
まずはメイン会場、名古屋の中心地にある愛知県美術館の入った建物から。エレベーター内からも見える松井紫朗の巨大なバルーンを見ながら会場に入る。8階と10階の広大なスペースにあるジャン・ホァンや蔡國強などの巨大なインスタレーション、ツァイ・ミンリャンやハンス・オプ・デ・ビークの映像作品など見所が多い。
さすがは愛知県、登山博文の作品からペインティング強しといったところを見せつけられる。画面の奥に見える何層もの色に心を奪われた。秋吉風人の作品も同様に、絵画の本質に迫った作品で美しい風景のよう。
愛知芸術文化センターは今回のテーマの「祝祭」的な感覚を想起させるような衝撃や驚きの多い作品よりは、落ち着いた印象の作品が多かった。都市の風景、個人の思い出や懐かしさに迫るものに感銘を受けたし、じっくり時間を割いて鑑賞して個々の作家の意図を汲み取る必要があるだろう。
巨大でインパクトのある作品の中には、曖昧な記憶や捉えどころの無い空間をテーマにした作品にも注目した。タチアナ・トゥルーヴェが作り出すガラス越しの緊張感のある空間。アマリア・ピカのテレビ塔にヒントを得て作ったという、実際に上れるインスタレーションと周りのオブジェ、ファン・アラウホの帝国ホテルをヒントに展開している絵画作品などかなり見応えがある。
名古屋市美術館
外観のエクトール・サモラのハンモックの作品が美しい、名古屋市美術館。入ってすぐにオー・インファンのお香の作品や、ホアン・スーチエの動きと光で見せるインスタレーション、ツァイ・ミンリャンのラブホテルの迷路のような作品など体感できる作品群から始まる展示は、最後の常設展まで楽しめる内容で、見やすく飽きることがない内容。朝は9時半から開館しているので、時間配分を考えるとここから見始めるのも良いかもしれない。
地下2階の島袋道浩の作品は、シンポジウム内で海外キュレーターの評価も高くすばらしい展示。
篠島という愛知県知多島の漁村の風景からウィリアム・デ・クーニングなどの抽象表現の絵画を見いだすという作品だ。美術という自分の文脈から無理せず地域に溶け込み、作品を作り出すしなやかな力を感じる。ここだけ島袋の個展のような雰囲気もあり、トリエンナーレに来ていることをちょっと忘れた頃に、名古屋市美術館を後にする。
納屋橋会場
堀川沿いにある納屋橋会場は、元ボウリング場などとしても使われてきたという趣のある建物。ホワイトキューブとして整備されている部屋との緩急もあり、個人的な感想としては一番見応えがあった。時間が合う方は是非ヤン・フードンの作品を見てほしい。18台もの映写機のたてる音に包まれて見る作品は、ノスタルジックで叙情に溢れていた。
山下麻衣+小林直人の作品《メインストリームを行く》ではナイル川とアマゾン川をゴムボートで下る映像。ゴムボートで長い川を下りながら見せる苦しい彼らの表情を、常識を越えたすごい川下りとは思えずつい笑って見てしまっている自分にびっくりする。
長者町会場
徒歩圏内に大きな美術館があり、そして長者町のような町並みにも出会えるのがあいちトリエンナーレの醍醐味だと思う。古い建物の狭い階段を下るときに見える小栗沙弥子の作品、伏見地下街を歩いていると登場するメルヴェ・ベルクマンの作品などサイトスペシフィックな作品との出会いを見逃さないで欲しい。
ナタリヤ&toroの作品は愛と平和に溢れていて、子どもが寝転がって絵を描いていたりする。彼らが世界各地に赴いて行ったパフォーマンス、ワークショップ、そして作った作品がぎっしり詰まっていて長者町のオアシスみたいだった。時々、アーティストのナタリヤが衣装を来て会場でパフォーマンスしたりしていて、自由な空気で解放されたギャラリー空間。
パフォーマンス作品などはあまり見れなかったことも原因かもしれないが、「都市の祝祭」的な盛り上がりというよりもじんわりと味わう作品が多かったように思う。また、公募という形式で参加型の展覧会企画とアーティストを増やし、市民に開かれたトリエンナーレにしている点がとてもユニークだった。アーティストは選ばれるのを待っているだけではなく、自主的に参加できるという画期的な企画だったと思う。
筆者もキュレーターとして行った展覧会企画が入選し参加する機会をいただいたが、自主企画では考えられないくらいの大勢の方に見てもらい、大きな励みになったことを記しておきたい。3年後の開催においても、公募企画が残ることを期待したい。
最後はもちろん、オープニングでゲリラパフォーマンスをしたトラリープロジェクトに敬意を表して終わりたいと思います。またどこかでゲリラパフォーマンスが見られることを祈って!
そうです、お膳立てされたものだけがトリエンナーレじゃなくて、意外性と自由なパフォーマンスを感じられる作品にどきどきした夏でした。10月末の閉幕まであと少しですが、未見の方はぜひ名古屋のあいちトリエンナーレを楽しんで欲しいです。
Sayako Mizuta
Sayako Mizuta