本日午後、国際芸術展「あいち2022」の全容が発表された。主な内容は、現代美術展の部門に新たに追加された5組の発表、これまで未公開だったパフォーミングアーツとラーニング・プログラムの概要だ。今回の発表で参加作家は合計100組となり、全体の約60%が今回のための新作を展示する予定。
*アーティスト77組が一挙発表された2月の記者会見の様子はこちら。
まずは追加作家のラインナップから。ドイツ出身のディムート・シュトレーベは、AIによる自然言語処理モデルを用い、18世紀に自動チェス人形を発明・興行したケンペレンのアバターとの対話を通して、新しい言語の可能性を示す作品を発表する。ミャンマー出身のシュエ ウッ モンは、妹であるチー チー ターとのコラボレーションを行う。ローリー・アンダーソン&黄心健(ホアン・シンチェン)のアーティスト・ユニットは、月面を体験できるVR作品を発表。
奈良美智の母校である愛知県芸術大学の学生やゆかりのある若手作家らによって結成されたコレクティブ・縄(愛知県芸チーム initiated by 奈良美智)は、奈良が発した言葉「三英傑」と芸術祭のテーマ「STILL ALIVE」に呼応し、そのリサーチをふまえた作品を展示。そして、ヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞するなど近年国際的評価の高まるドイツ出身のアンネ・イムホフも追加作家として新たに発表された。
いっぽうパフォーミングアーツは、これまで取り組んできた舞台芸術の作品動向に加えて、主に現代美術の分野で語られてきたパフォーマンス・アートの歴史と文脈に注目し、1960年代以降の領域横断的な表現の動向を踏まえながらキュレーションを展開するという。
そのテーマは3つ。ひとつは、歴史的なパフォーマンスの再演による現代の再考。まずは現代音楽家のスティーヴ・ライヒ。ビジュアルアーツとの親和性や交流を持ち、ミニマル・ミュージックの第一人者として音楽史に残る作品を数多く手がけてきたライヒ。今回、本人の来日はかなわないが、「スティーヴ・ライヒ~スペシャル・コンサート」と題して『ダブル・セクステット』『ディファレント・トレインズ』を中心とする楽曲を、中川賢一(ピアノ)や有馬純寿(エレクトロニクス)、アンサンブル九条山のメンバーたちが演奏する。
今回、数少ないダンスプログラムを発表する中村蓉は、近年取り組んでいる古典バレエ『ジゼル』を踏まえ、古典と現代の関わりを示すという。また1960年代のニューヨークのダンス史や舞踏の研究者としての顔も持つトラジャ・ハレルは「土方巽をヴォーギングする」というユニークなコンセプトの新作と、2019年に発表した『Dancer of the Year』を上演する。またレバノン出身のラビア・ムルエは、「パフォーマンス・アート史を再考する」というテーマで『Who’s Afraid of Representation?』を17年ぶりにアップデートし上演する。このほかにもフルクサスに関わったジョン・ケージの『ユーロペラ3&4』を足立智美が演出。現代美術展に参加する塩見允枝子は、1966年から2022までに発表したイヴェントからセレクトした作品を上演する。
ふたつめは、VRなどの最新テクノロジーによるパフォーマンス領域の拡張。コロナ禍の影響もふまえた同セクションのもっとも大きなチャレンジは、アピチャッポン・ウィーラセタクンにとって初のVR作品の世界初演だ。音楽を坂本龍一が担当することでも注目の新作について、映画『MEMORIA メモリア』の日本公開にあわせて来日中のアピチャッポンは以下のように述べた。
VR作品を自分がどのようにつくれるかわからないが、その「わからなさ」を共有できることが嬉しい。映画というものも何が起こるかわからない「不確かさ」があるが、人間もそういった状況で生きている。それを共有できる作品になれば。最終的には「芸術とは何か」「人間とは何か」に至りたい。
VRを活用した作品は、現代美術展でも様々に登場する予定。また、愛知県出身の作曲家・演出家である今井智景は能面をモチーフとした作品を発表する。
3つめは、コロナ禍以降の生とケアをめぐる問いを開くこと。これまで紹介してきたように現代美術展とパフォーミングアーツの双方で発表する作家は多いが、百瀬文もパフォーマンスのための新作として、治療のためのセラピーとパフォーマンスが併存するような新作を発表する予定だ。また、知的障害のある俳優を中心に、30年以上オーストラリアを拠点に活動を続けるバック・トゥ・バック・シアターは来日こそかなわないものの日本初公開となる『ODDLANDS』と『SHADOW』の映像を上映する。
最後に紹介されたのが、ラーニング・プログラム。同部門では、「包摂」「多様性の肯定」「自分を知り、世界を知る」をコンセプトに、これらを実現するための準備として学校教師向けの「スクール・プログラム」や対話型鑑賞の手法をボランティア志願者が学び実践する「ボランティア・プログラム」などを2021年夏から進めてきた。
ディレクターを務める山本高之と会田大也は「芸術祭とアートをつなぎ直すために何をすればよいのだろう?」という課題意識を共有し、プログラムに取り組んできたと述べる。それらはリサーチ、レクチャー、ガイドツアーなど様々なかたちでアウトプットされていく予定だ。
多様なアーティストが関わるリサーチは全部で7つあり、それぞれが独自の視点で進行中とのこと。たとえば「愛知といえば自動車」ということで、高齢者の免許証返納にまつわるリサーチを進行中のAHA![Archive for Human Activities/⼈類の営みのためのアーカイブ]。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑をテーマにリサーチする眞島竜男は、参加者とともに大壁画をつくる構想だとか。ラーニング・プログラムはすでにYouTubeなどでも進行中とのこと。開催の日を楽しみに待ちながらチェックしたい。
国際芸術祭「あいち2022」
開催期間:2022年7月30日~10月10日
時間:各展示会場に準ずる
会場:愛知芸術文化センター・一宮市・常滑市・有松地区(名古屋市)など
入場料:【前売りフリーパス】一般2500円、学生1700円/【前売り1DAYパス】一般1500円、学生1000円/【会期中フリーパス】一般3000円、学生2000円/【会期中1DAYパス】一般1800円、学生1200円
※学生は高校生以上。中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者一名は無料(チケット不要)。パフォーミングアーツは別途チケットが必要。