メセナ活動(企業による文化支援)のユニークな取り組みについて、前回アサヒビール株式会社のアサヒ・アート・フェスティバル(AAF)の実行委員を務める芹沢高志氏にインタビューをした。今回は企業側からみたAAF・メセナ活動全体について、アサヒビール芸術文化財団事務局長/同社社会環境推進部副理事の加藤種男氏に伺った。
■アサヒ・アート・フェスティバル(AAF)とは?
http://www.asahi-artfes.net/about.html
2002年、アサヒビールが全国のアートNPOや市民グループとネットワークを結んで始まったアートと社会の橋渡しを目指した祭典。美術、音楽、建築、ダンス、パフォーマンス、演劇、映像、教育など、多岐にわたるプロジェクトが市民主体で運営され、地域資源の見直しやコミュニティー再構築を視野に入れて毎年運営されている。
プロのアーティストが完成させた作品を鑑賞する場(展覧会やコンサート)への協賛という、従来のメセナとは違って、作品が生まれるプロセス(コミュニケーション、イベント)を重視している点。また百数十人の実行委員が互いに対話をしながら作られていく点もユニークな特徴といえる。今年も地域資源(自然環境、空き倉庫、廃屋、蔵、路地など)を活用した参加型の作品、ワークショップ、カフェ、AAF学校など、実験的な試みが全国で繰り広げられている。
加藤種男(KATO Taneo)
1990年アサヒビールの企業文化部創設時に入社後、アサヒビール大山崎山荘美術館の運営、アサヒ・アート・フェスティバルのプロデュースなどを手がける。2001年、同社環境社会貢献部副理事。その後アサヒビール芸術文化財団事務局長。現在も社団法人企業メセナ協議会研究部会長、日本NPO学会理事等を務める。また、内閣府NPO評価に関する調査委員会委員等を歴任。現在は横浜市芸術文化財団専務理事を兼務。過去3年の市内経済波及効果が約120億円とされる文化芸術創造都市(※) の計画を推進しつつ自治体へ文化政策を提言している。他にもNPO法人アートNPOリンクなど多数の団体運営にも関わっている。
著書:『新訂 アーツ・マネジメント』(共著) 『環境経営戦略事典』(共著) 『文明と文化の視角−進化社会の文化経済学』(共著)ほか
■インタビューを終えて
AAFの魅力についてあらためて考えるにあたって、加藤氏が取材の中で、日本各地で受け継がれている風俗や祭り、それらと密接な関係にある自然観について熱く語っていたことが思い出された。
祭りを大切にしていた昔の人々は自然を支配する対象とせず、大切に歩み寄ってきたという。例えばアイヌの人が熊祭りをするとき「一部の自然は生活に用立てたいが、これ以上は侵入しない」と神様に約束してきたそうだ。自然と共存する叡智としての祭事は、今も全国に残っている。
また本来のお祭りは町衆・村人全員が作り手のもの。見物人は一人もおらず、神様だけに見て頂く捧げものだった。神に畏敬を示す生活と一体化した営為の中、歌や踊りなど芸能が生まれていったのだ。
一方、アートはというと我々は真っ先に「美術館」など制度化された価値観を連想してしまい、あまりにもそれに捉われている。美の殿堂に赴いて、偉大な巨匠の作品を大勢で「鑑賞」するという概念は、近代以降に成立したものだ。
加藤氏は「鑑賞」という言葉にお仕着のような抵抗感を覚え、アートが日常に取り戻されることを望みながら常にAAFの方向性を模索しているのかもしれない。
全員が作り手・参加型のAAFは、脈々と受け継がれてきた祭りのあり方を根底としている。多くの祭りが形骸化しつつある現代に、企画者・アーティストらの様々な想いをのせた祭りが、2008年も新たな芸術表現とともに日常に息を吹き返そうとしている。
※文化芸術創造都市:クリエイティブシティ・ヨコハマ。都心臨海部を中心に、歴史的建造物や倉庫、空きオフィス等を活用し、アーティストの作品の制作、発表、居住を支援する横浜市の文化芸術・経済の振興施策。(経済波及効果の数値は同市の開港150周年・創造都市事業本部調べ)
http://www.city.yokohama.jp/me/keiei/kaikou/souzou/