公開日:2007年6月21日

村上隆さんとの GEISAI インタビュー

9月17日、記念すべき10回目のGEISAIが開幕! 今回はGEISAI主催者であり、インターナショナルな活動を精力的に続けるアーティスト、村上隆さんに、GEISAI 5年目の心境を語ってもらいました。

写真提供: 谷本夏

5周年にして10回目のGEISAIという事ですが、1回目から変化はありますか?

<村上>今回は総括という感じです。1回目を始めた頃はちょうどアーバナート(百貨店PARCO主催)等のスポンサー先導のアートコンペシーンが終わってしまった直後で、そのエリアが空洞化したんです。
GEISAIはそれを補完する意味で始めたんですが、始めるといろいろとシーンの抜けた穴が見えてしまって、思いつくままにその穴埋めに奔走し続けて来ました。ここ数回は日本の現代美術におけるマーケットに対する問題意識を前面に押し出して、傾向がコンペからずれて来てると言えます。

どちらかと言うとコンペの方に集中したい、という感じなんですか? 

ですから、新人を発掘しないと未来は無い、という事実はあるんです。でも、新人をデビューさせてもその彼等が生きて行ける土壌が無いと言う事に気がついて来た訳なんです。小山登美夫ギャラリーさん、
山本現代さんとかはGEISAIが始まった初期からアーティストをスカウトしてご自身のギャラリーで発表販売して来て下さってますが、結構特例です。日本にはギャラリーも少ないし、コレクターも数える程しかいらっしゃらない。美術館にも新人発掘イベントはありますがゴールが無いんです。「ほら、発表の場、くれただろ」って。その後、どうすんのって言う所を無視出来ないと思ってやればやる程日本でのアート活動を続ける問題が浮き彫りにされて来たんです。構造改革は本当に難しいです。

今回の見どころは?

眼に見えてハッキリと変えたのは、来場する鑑賞者側に立った演出に注力しています。エントランスからブースの分け方、ステージの構成からサロンの設定に至るまで、お客様をずいぶんと意識しました。ですから、繰り返しになるんですが、新人発掘とマーケットを合わせて一挙に解決しようとすると、難しいんです。でも今回は目ん玉飛び出るような予算を組んで、元々赤字なんですけれどもう、後先考えないで、思いつく限りの可能性を試そう!ってコンセプトでやってます。だから、正直今までと比べるとド派手だと思いますよ。それでも既存の白い壁に作品が掛かっているもんだと思って来る人にはゴチャゴチャしてるように見えるかもしれませんが。

“ゴチャゴチャしてる”、というのは……?

アートっていうと、それはNYスタイルって刷り込まれているんです。白い壁にポツンポツンと飾るあれ。
でも僕たちがGEISAIで提供しているブースは1.8 x 1.8メートル。それに若いアーティストたちは作品を10、20も並べる。そんなブースが2列、80セットも連なると、やはり作品を見る環境としては蚤の市っぽく見えるんです。でも、そこが西欧からくるお客様達には珍しいし、魅力的なんです。だから、一見ネガティブに見えるゴチャゴチャ感をなんとかより良く見せたい。コンペの審査の部分では、プロである僕たちや、先生方はちゃんと良い作品を見分けられるので問題はない。アジア的なカオス、これがGEISAIの特徴です。

今年のGEISAI#9では写真家の出展がほぼゼロに近かったのが印象的だったのですが、出展作品が偏りがちだったりするのでしょうか?

とても良い質問です。一時期、特に#3あたりは写真がものすごく多かったんです。ズラッと写真だけ並んでる感じで。最近減っている理由としては、まず1つにGEISAIで写真家は一度も賞を取った事が無いということ、そしてもう1つは、最近、写真専門のコンペが凄く充実しているからではないかと思います。だからGEISAIのようなアートのフィールドで写真家がデビューしようという動きが薄れてきた。そのせいで、少々偏りみたいなのは出てきてるかもしれない。そういう問題点も含め、今回のGEISAI#10で一度ピリオドを打って、仕切り直しをしてからまた再誕生をしようと考えてるんです。

仕切り直しと言うと、具体的にはどんな事ですか?

今まではコンペ中心の展示会だったものの中にあるエンターティメント性をもっともっとブローアップさせる。アジアの特異性を西欧にもっとアピールする、とかでしょうか。

例えばDESIGN FESTA(デザイン・フェスタ)などもGEISAI同様、大規模なアートマーケットですが、GEISAIとデザイン・フェスタの違いは何だと思いますか?

ズバリ「目線」と「行き着く先の設定」です。「目線」としては、コンペのテーマはいつも、世界基準のアートってなんだろう、です。ある意味今の価値基準ってなんだろうって問いかけ続けている部分。「行き着く先の設定」、これはマーケットのあり方。デザインフェスティヴァルは完全なる蚤の市形式でそれはそれでもの凄いパワーです。ある意味もう結果が出ている。好きな事をやって好きなように売り買いして、好きなように生きる。GEISAIはその中からの価値基準を削り出して行くようなイベントだと思っています。

GEISAI出展者の中にはデザインフェスティヴァルとの境界を感じていない人もいるかもしれない。でも、GEISAIは自己満足では終わらせない、客観的なアートの立ち位置の表明こそが大事な部分であり、アートの社会的信用のよりどころ造りを考えています。GEISAIには外国のコレクターやキュレーター、つまり、ある種の信頼の置ける美術界の方たちが来場してくれる。このたった数名の大物がピックした作品が美術館に展示されるかもしれない、というチャンスがGEISAIにはある。しかし、本当に日本でそういった価値基準って必要なんだろうか?ってとこが疑問になっては来ています。結局、ある種の経済的な循環が無ければ、一生続けるわけにはいかないし、ある種の産業にアートを変えて行こうと思っているんです。

それが今後の課題、というわけですね。

日本の音楽産業も60年代70年代って激変化して来ました。そして90年代、大爆発したんです。それまでは四畳半物語がミュージシャンのリアルだった物が、億万長者の発生まで造れたんです。アートもそういった構造を改革し続けて、大きな産業になると思っています。

今後、GEISAIを世界に広げるという意向はありますか?

#10の後、GEISAIは半年間休みをとる予定です。その中でリアルなマーケット造りに集中し、日本の、アジアの価値基準とマーケットのリアルを設定し直します。世界が東京のGEISAIに集まってくる。これが一つのゴールですね。その部分で言葉のバリアの解除をどこまで行うかも考えます。

村上隆さん、お忙しいところどうもありがとうございました!

GEISAIのオフィシャル・ホームページはこちら

Lena Oishi

Lena Oishi

日本生まれ、イギリス+オーストラリア育ち。大学院では映画論を勉強。現在はVICEマガジンやアート/メディア関連の翻訳をはじめ、『メトロノーム11号—何をなすべきか?東京』(2007年、精興社)の日本語監修など、フリーランスで翻訳関連の仕事をしている。真っ暗闇の中、アイスクリームを食べながら目が充血するまで映画を観るのが好き。