いま、世界のアート界では何が起こっているのでしょうか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。1月15日〜28日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「NFTと既存のアートの交差点」「カラヴァッジョ付き邸宅と韓国の国宝がオークションに」「できごと」「アート・バーゼルの動き」「おすすめのビデオ」の5項目で紹介する。
◎地元アートシーンとNFTギャラリーの摩擦
ドナルド・ジャッドが移住したことでアートの「巡礼地」になった西テキサスのマルファ(2000人弱の小さな町)にNFTのギャラリーArt Blocksができた。Art Blocksはブロックチェーン上のアルゴリズムがイメージを作り出すタイプのNFTのみを扱ったプラットフォームで、一部の既存のアート業界からの受けがいいと見られている。ただ、マルファでは早速、クリストファー・ウールをはじめとするオールドスクールな地元アートシーンと摩擦が生じている。アーティストというよりは起業家であったArt Blocksのオーナー、エリック・カルデロン(Erick Calderon)がいかに最初期にNFTに出会っていまに至ったかを取材したこの記事はドラマにあふれていてとても面白い。
https://www.newyorker.com/news/letter-from-the-southwest/when-nfts-invade-an-art-town
◎美術館でNFTをコレクションした後の課題
NFTを代表するCryptPunksのひとつをコレクションに加えたマイアミの現代美術館だが、6ヶ月経ったいまも第三者による評価額鑑定が出ていないという。鑑定は作品への保険と、この作品の寄贈者への税優遇額の算定のために必要とのこと。新しい領域ならではのチャレンジが多い。
https://nymag.com/intelligencer/2022/01/how-museums-are-trying-to-figure-out-what-nft-art-is-worth.html
◎ハーストのキャリアを振り返る
独特のやり方でNFTを介した作品を発表しているダミアン・ハーストのキャリアを振り返るNY Timesの長文記事。2008年のリーマンショック前日にギャラリーを通さずに300億円弱の売上を記録した伝説のオークションの際に批評家がハーストのアートメディアは「マーケット」だと評したそうだが、言い得て妙。
https://www.nytimes.com/2022/01/21/arts/design/damien-hirst-nft.html
◎暗号資産界の大物、ジャスティン・サンインタビュー
暗号資産の大物起業家として、ピカソやジャコメッティなど高額作品を立て続けにオークションで落札してアート業界でも一気に有名になったジャスティン・サン。中国の貧しい家庭で育ったそうで、半生を振り返るインタビュー。まだまだ31歳と若い彼が同世代の起業家やNFTについて語る。
https://news.artnet.com/market/justin-sun-interview-apenft-2062888
◎カラヴァッジョの天井画つき邸宅に住みませんか?
カラヴァッジョが唯一描いた天井画を含むローマの邸宅が600億円以上でオークションにかけられたが、不落札。遺産相続争いが原因で販売にいたった。天井画に400億円超の鑑定がついているが修復に15億円かかる模様で、4月に2割下げて再度オークションにかけられる予定。
https://news.artnet.com/market/caravaggio-mural-villa-fails-to-sell-2061257
◎邸宅の華々しい歴史を紹介
上記オークション以前の記事。同邸宅はユリウス・カエサル宅があった土地に建っており、ガリレオから寄贈された望遠鏡や、チャイコフスキーが滞在していたことなど、溢れんばかりの歴史から現在のお家騒動まで、カラヴァッジョ作品の豊富な写真も充実した取材記事。
https://www.theguardian.com/world/2022/jan/14/the-princess-and-the-caravaggio-bitter-dispute-rages-over-roman-villa
◎国宝が競売にかかる史上初の事態
韓国の澗松美術館(Kansong Art Museum)が財政難から、国宝に指定されている2作品を1月27日にオークションにかけることに。国宝が競売にかかるのは史上初とのこと。どちらも30億円程度の総定額。国外への販売は禁じられているが、国内であれば事前に国に申請することで購入可能だという。
http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20220114000680
オークションの結果、両作品とも買い手があらわれず、不落札。
https://en.yna.co.kr/view/AEN20220127014300315
◎デュシャンのアーカイヴ1万8000点を大公開
マルセル・デュシャンの作品画像や、手紙などの書類のアーカイブ1万8000点を公開するウェブサイトがローンチ。大ガラスを含む多くの作品を所有するフィラデルフィア美術館、マルセル・デュシャン協会、パリのポンピドゥー・センターが協力して作成。
https://www.artnews.com/art-news/news/duchamp-digital-archive-1234616599/
◎架空の人気アーティストをめぐる事件
Instagram内でMoritz Krausという架空のアーティストとその作品を称賛するフェイクコレクター数名を自作自演し、その作品をInstagram経由である実在コレクターに販売した巧妙な「事件」があったそう。Krausは最近Lab Shimokitazawaというギャラリーで展覧会を開いたことになっているが、そのようなギャラリーは存在しない様子。記者が関係者を取材していくとたんなる詐欺事件でもなさそうで、自作自演のアートプロジェクトとも受け止められるよう。読後感はスッキリしないが、面白い事件。
https://news.artnet.com/art-world/fake-artists-collectors-instagram-2059155
◎過去100年のベスト美術館建築25選
ARTnewsが選ぶ過去100年のベスト美術館建築25選。日本からは金沢21世紀美術館(SANAA設計)、豊島美術館(西沢立衛設計)、そして地中美術館(安藤忠雄設計)が選ばれている。気になるトップ1はやや意外。https://www.artnews.com/list/art-news/artists/best-museum-buildings-1234615068/
◎メキシコを代表する名画たちはどこへ行く?
シティバンクがメキシコの合弁会社の売却を決定したことにともない、20年にわたって集めてきたカーロやリベラを含む2000点ものメキシコ絵画コレクションの行方に注目が集まっている。個別での売却はせず、全体での売却を目指しているとのこと。メキシコ大統領は国内に留まることを強く求めている。
https://news.artnet.com/art-world/citigroup-mexico-bank-2063484
◎アート・バーゼルに押し退けられたFIAC
なんと今年の10月にアート・バーゼルが新たにパリでの開催を決定。しかもこれまでパリのトップアートフェアであったFIACがその時期に使っていたグラン・パレの使用権を競り勝っての結果。FIACは別の場所を探す必要がでてきた。Brexitによって相対的にヨーロッパのアートキャピタルとしてのパリへの注目が上がった結果でもありそう。
https://www.artnews.com/art-news/market/art-basel-paris-2022-grand-palais-fiac-1234616705/
◎アート・バーゼル香港が再延期
アート・バーゼル香港は3月に開催予定だったが、オミクロンの影響でまたコロナが広がり始めていることもあり、5月に延期を決定。スイスの本家バーゼルの1週間直前というスケジュールに。同時に香港入国の際のホテル隔離はこれまでの3週間から2週間(+1週間の自己隔離)に短縮された。
https://news.artnet.com/market/art-basel-postpones-hong-kong-covid-2065379
◎若手スター、サルマン・トゥールのインタビュー
ここ数年で一気に若手スターに上り詰めたパキスタン出身の画家サルマン・トゥール。フリックコレクションの新たな試みとして、オールドマスターと若手画家を並列に見せる企画内で、フェルメールと並んで展示されている。トレードマークのエメラルドグリーンの絵の始まりや、ゲイの彼が保守的なパキスタンでの子供時代、そしてアメリカに移住してから大きく開放されたことなどをニューヨークのスタジオで語る。
https://art21.org/watch/new-york-close-up/salman-toors-emerald-green/