ムン・キョンウォン & チョン・ジュンホ 世界の終わり 2012 金沢21世紀美術館蔵 © MOON Kyungwon and JEON Joonho
金沢21世紀美術館の2022年度事業の詳細が公開された。同年度のコンセプトは「歴史の横断(transhistorical)」。人はいまどこにいて、どこに向かっていくのか?を知る手立てとして、過去の事物にフォーカスすることで、現在をよりいっそう理解し、未来へと投影することを提案するという。
現代アートのフィールドからは4組の作家の展覧会・グループ展が実施される。
ひとつは、現代韓国を代表するアーティスト・デュオ、ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホによる国内初となる大規模個展(5月3日〜9月4日)。アートの社会的機能と役割を意識しながら、様々な領域の専門家との対話と協働のための実験的なプラットフォームを提唱してきた二人の活動を、未来の人類が生存と自由の獲得のために葛藤する姿を詩的に描いた新作映像インスタレーション、2021年に韓国国立現代美術館で発表された《News from Nowhere : Freedom Village》と代表作《世界の終わり》を中心に紹介。映像、ドローイング、マケットなどから、その思想と活動に迫るという。


続いて開催されるのは1950〜60年代に活躍したイヴ・クラインの回顧展「時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの」(10月1日〜2023年3月5日)。作品の素材やキャンバスといった支持体のみに依存しない芸術のあり方としての「非物質性」「脱物質化」を追求したクラインの革新性を、彼の作品だけでなく、具体美術協会といった日本の同時代の作家、そして現代作家の作品を通して考察する予定だ。

工芸の街・金沢らしい企画にも注目したい。「甲冑の解剖術―意匠とエンジニアリングの美学」(5月3日〜7月10日)では、戦国時代から江戸時代にかけて独自の展開を遂げた甲冑をテーマに、当時の甲冑を展示するだけでなく、ライゾマティクス、ナイル・ケティングら現代のアーティストによる甲冑やその身体性にフォーカスしたインスタレーションも並ぶ。


同じ金沢市内にある国立工芸館(旧東京国立近代美術館工芸館、2020年10月に移転)とのコラボレーション展として開催するのが「『ひとがた』をめぐる造形」(7月23日〜9月11日)。工芸の分野では「人形」、美術の分野では「彫刻」としてとらえられてきた「人のかたち」の多彩な展開を探る。

約4000点を数える収蔵品も同館の魅力。2022年度は「コレクション展1 うつわ」(5月21日〜10月16日 ※一部展示は9月11日まで)と「コレクション展2 Sea Lane – 島々への接続」(11月3日〜2023年3月19日)で、東アジアの地理・文化的な歴史を読み解くという。また、同館で個展を開催したこともあるマシュー・バーニーの作品を集めた「特別展示:マシュー・バーニー」(5月21日〜9月11日)、そして今回新たに収蔵された《太陽の中心への探査》を紹介する「特別展示:オラファー・エリアソン」(7月23日〜9月11日)も要チェックだ。


工芸やデザインとの関わりに力を入れるのも、同館の特徴。クリエイターや企業とのコラボレーションを展開してきたデザインギャラリーでは、フランスの磁器ブランド「ベルナルド」とジェフ・クーンズの代表的シリーズ「バルーンドッグ」が協働する「ジェフ・クーンズ×ベルナルド」(4月9日〜9月11日)を開催。10月からは、福祉実験ユニットによる半年間のプロジェクト「lab.5 ヘラルボニー」(10月1日〜2023年3月21日)を実施する。
新進作家の活動を紹介する「アペルト」の枠では、AKI INOMATA(4月9日〜9月11日)と、石毛健太とBIENによるユニットSCAN THE WORLD(STW)(10月1日〜2023年3月19日)を紹介する。



これまで紹介してきた展覧会だけでなく、美術館で映画を楽しむ「広坂シネマクラブ」、パフォーミングアーツを紹介する「芸術交流共催事業 アンド21」(7月、10月、11月、12月に開催)、芸術、テクノロジー、歴史、食、環境などの専門家を招き行われる新企画の「新・レクチャー・シリーズ」など、市民や地域との芸術交流事業もますます盛んになる金沢21世紀美術館。今年も金沢の街を楽しみつつ、何度も訪ねたい。

