六本木の21_21 DESIGN SIGHTで、1990年代以降のデザインを、文字とデザインの関係から紐解く展覧会「もじ イメージ Graphic 展」が開催されている。会期は11月23日〜2024年3月10日。展覧会ディレクターを務めるのは、グラフィックやタイポグラフィに関する数々の著書を手がける編集者の室賀清徳、グラフィックデザインの研究を行う後藤哲也、グラフィックデザイナーの加藤賢策の3名。
本展で紹介されるグラフィックデザイナー、アーティストは、以下の通り。とくにDTP(Desktop Publishing)と呼ばれる、パソコン上で出版物や印刷物のデータ制作の多くの過程を行うことが主流となった90年代以降のデザイン表現にフォーカスされている。
明津設計、秋山伸、アドビ、有馬トモユキ、石塚俊、上西祐理、Experimental Jetset、M/M(paris)、大島依提亜、大原大次郎、岡﨑真理子、葛飾出身、上堀内浩平、川谷康久、菊地敦己、北川一成、小池アイ子、佐々木俊、佐藤可士和、佐藤卓、John Warwicker(Tomato)、白井敬尚、鈴木哲生、Sulki & Min、祖父江慎+コズフィッシュ、大日本タイポ組合、立花ハジメ、立花文穂、The Designers Republic、投票ポスタープロジェクト、戸田ツトム、中島英樹、仲條正義、永原康史、名久井直子、野田凪、Noritake、服部一成、原研哉、羽良多平𠮷、BALCOLONY.、平林奈緒美、廣田碧、松田行正、松本弦人、三重野龍、水戸部功、みふねたかし、宮越里子、山田和寛、𠮷田勝信、米山菜津子、寄藤文平、王志弘。
DTPでデザインを学んだことのある方であればその背中を追ったことのある人物が少なくともひとりはいるのではないだろうか。あるいはそうでなくても、彼らによるデザインをどこかで目にしたことがあるに違いない、主に90年代以降の日本のデザインを牽引してきた人物たちだ。「90年代以降の日本のグラフィックデザインは展覧会としてちゃんとまとめられてこなかった。とはいえ今回の展示も一つの見方であるので、これからもこういう展覧会があったらいいなと思う」と、本展ディレクターの加藤。
もっとも広いギャラリー2の会場は「テクノロジーとポエジー」「造形と感性」「メディアとマテリアル」などの13のテーマで構成。デザイン雑誌や分厚いデザイン年鑑の内容があちこちに展開したようで、デザインされたポスター、書籍、グッズ等の実物を間近で見ると、紙の質感や加工まで、デザイナーのこだわりが随所に感じられて楽しい。
筆者としては、そのところどころで自分が10〜20代(1990年代後半〜2000年代初頭)の頃に親しんでいた当時のグラフィックデザインのムードや思い出が脳内に喚起され、得も知れぬ感動を得た。「デザインは機能性という話があるが、グラフィックデザインはイメージや想像力にアプローチする」というのは本展ディレクターの室賀が会見で語った言葉だが、その言葉通りのパワーを思いがけず感じる場面が度々あった。
本展の大きなテーマのひとつは「日本語的なヴィジュアルコミュニケーション」。展覧会冒頭のディレクターメッセージでは、3名の真面目なテキストに絵文字がふんだんに差し込まれた「エモVer.」が用意されているが、室賀はこう話す。「日本の美意識と言えばわびさびなどもあるが、絵と文字が接近してる言語の環境がある。日本語の面白さをベースにグラフィックデザインをとらえるとどういう風景が見られるかというのが本展のスターティングポイントでした」。
本展ディレクターの後藤は本展について「世界から日本のグラフィックデザインを見たとき、黄金期は50〜80年代ととらえられがちです。90年代以降、内向きになる日本と海外のデザインを並行して見せるなど、広い視野でのグラフィックデザインの展示をやりたかった」と話す。後藤が言ういわゆる「黄金期」と呼ばれる時代に作られたグラフィックデザインが堂々たる趣で並ぶのは、ギャラリー1「日本語の文字とデザインをめぐる断章」のコーナーだ(*本コーナーは撮影禁止)。浅葉克己、五十嵐威暢、井上嗣也、葛西薫、亀倉雄策、杉浦康平、鈴木八朗、田中一光、原弘、ヘルムート・シュミット、細谷巖、山城隆一、横尾忠則らによるポスターが中心に展示。そのいくつかは他の美術展でも見かけたことがあるものだ。
本コーナーで紹介される一部のグラフィックデザイナーの作品はデザインのみならずアート、消費社会、日本戦後文化などの文脈で多岐にわたって言説化されてきたが、ギャラリー2で展示される90年代以降のグラフィックデザインはどのようなかたちで伝播していくのだろうか? 本展は展覧会というかたちでその糸口を示す意欲的な展示になっていた。
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)