2024年、Tokyo Art Beatは設立20周年を迎えます。この記念すべき年と、これまで/これからのアートシーンを祝福すべく、ユーザーの皆さんから「ベスト展覧会」を募るアワード企画とオンラインイベント、そして特集記事が進行中。
シリーズ「20年間のベスト展覧会」では、アートやカルチャーシーンで活躍する方々にTABがスタートした2004年から24年6月までに開幕した展覧会のなかで、記憶に残るものを1〜3点教えてもらいます。極私的な思い出から、現在の仕事につながる経験まで……展覧会にまつわるエピソードとともにお届けします。【Tokyo Art Beat】
*特集「TABの20年、アートシーンの20年」ほかの記事はこちらから
この展覧会は、私を含む同世代の美大生に大きな影響を与えました。90年代ごろから注目されていた、画集でしか見たことのなかった作品を一堂に見ることができたからです。この展覧会の後、大学のアトリエでは出品作家の画風を意識して描こうとする学生が多く現れました。私もそのひとりでした。もちろん彼らのように描くことは叶いませんでしたが、その挫折を通じて自分にはどのような絵画が描けるのかを考えるようになりました。
この展覧会が開催されていなければ、画家としての自分は存在しなかったかもしれません。
大学院の頃、大学にこの展覧会のポスターが掲示されていたのを見て、何となく気になり観に行きました。展示は年代順に作品が並べられていたので、自分の年齢と重ねながら鑑賞したことを覚えています。
その頃はちょうど自分にとってリアリティのある絵画とは何かを模索していたときで、劉生が初期に描いた「夕陽」を前にして思わず足が止まりました。それは明らかにゴッホの作品に影響を受けたもので、海の向こうにいる画家のタッチをなんとか自分のものにしようとしている様子が伺えました。日本人が絵を描くうえでどうしても西洋絵画に憧れてしまうことは昔から変わっていないと気づいた瞬間でした。劉生はどのようにしてその憧れを乗り越えたのかが気になり、心が落ち着かないまま順路を進みました。
次に目を奪われたのは、「林檎三個」というタイトル通り、机に置かれた3個の林檎が描かれた作品でした。所々に虫食いや傷がある林檎は、金色に輝き、とても崇高な存在に見えました。解説文を見ると、家族の姿を託して描いたと書かれていました。この絵画から、西洋絵画への憧れを受け入れ、自分の身の回りにある当たり前に存在するものを隈なく写実することで、彼にとってリアリティのある絵画を描くことができたのだと感じました。この展示を見た後から、彼のスタイルを借りて私も身の回りにあるものを写実するようになり、現在も続けています。
展覧会はアーティストの作品で構成されますが、その展覧会から新たなアーティストが生まれることを改めて実感しています。Tokyo Art Beatも、記事を読んで展覧会に足を運ぶきっかけを作ったり、批評を通じて自分の価値観を見直す機会をもたらすことで、新たな創造を生み出していると思います。これからの20年も楽しみにしています。
*「Tokyo Art Beat」20周年を記念するアワード企画と特集を実施! ユーザーみんなで20年間の「ベスト展覧会」を選ぼう。
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横山奈美
横山奈美