2024年、Tokyo Art Beatは設立20周年を迎えます。この記念すべき年と、これまで/これからのアートシーンを祝福すべく、ユーザーの皆さんから「ベスト展覧会」を募るアワード企画とオンラインイベント、そして特集記事が進行中。
シリーズ「20年間のベスト展覧会」では、アートやカルチャーシーンで活躍する方々にTABがスタートした2004年から24年6月までに開幕した展覧会のなかで、記憶に残るものを1〜3点教えてもらいます。極私的な思い出から、現在の仕事につながる経験まで……展覧会にまつわるエピソードとともにお届けします。【Tokyo Art Beat】
志賀は2008年に宮城に移住し、地域の人々の協力のもと「螺旋海岸」シリーズの制作を始める。東日本大震災により甚大な被害がもたらされた後も制作は継続され、2012年の個展で一堂に発表された。私は会場を訪れ、被災地に暮らす作家や周囲の人々にとって創作活動がどれほど重要だったのかを理解した。2010年代、「アートと社会」の関係がしばしば問われたが、綺麗な言葉でスマートに答えようとするとこの展覧会のことがいつも思い浮かぶ。
同年に水戸芸術館で開かれた企画展「3.11とアーティスト:進行形の記録」も、混乱のなか、行動に踏み切った人々を淡々と紹介しており、背筋が伸びる思いをした。
団地1階の店舗跡地にてミヤギの「The Ocean View Resort」を見た。ちょうど10年前である。生まれ育った沖縄を離れた人と、沖縄に暮らす人、そして米軍基地の兵士の物語だ。彼らが織りなす関係の柔らかさは、この後10年間、私が沖縄を含む様々な場所を訪れる際に、自分とその土地との関係をどう築いていくかを考える手助けとなった。
パンデミックの最中、梅田は別府各地に作品を点在させ、別府全体を作品世界へと飲み込んでしまった。一大行楽地として栄えた過去の別府、パンデミックで奇妙に引き延ばされた2021年、人間の事情など関係ない火山の活動。異なる複数の時間がねじれながら共存しているようだった。
この20年間、美術館やギャラリー以外の空間で作品を見る機会は多くあったが、ここまで大きなスケールで想像力を飛ばしても良いのだなと嬉しくなった。
なかなか3展に絞りきれないなか、東京以外で開かれた展覧会を意識的に選ぶことにしました。というのも、世の展覧会評はどうしても東京中心になりがちで、それ以外の場所で開かれた展示は、まさにそれが理由で記録から抜け落ちるためです。
しかし、それでもやはり、東京に暮らしたことがない私にとって、東京はいまでも特別な場所です。たとえば、東京の文化とエスプリを結晶化したような品川の原美術館。ここで開催されたリー・キットの個展「僕らはもっと繊細だった。」(2018)は、この建物がすでに無いことも含め、深く印象に残っています。
また、長島有里枝の新作展「家庭について/about home」(MAHO KUBOTA GALLERY, 2016)もひとつの指標となりました。子供の保育園のお迎えや食事の段取りを調整のうえ、愛知県の職場から新幹線に飛び乗り見たのですが、この展覧会を鑑賞するまで私は、芸術活動と家庭生活のままならなさ自体が、表現上の真剣な主題になると思っていなかったのです。まさにその最中にいたにも関わらず。本展でなされた問題提起は、現在、各所で指摘され、改善されつつあるのではないでしょうか。
最後に。エリアごとに展示施設を調べられるTABの機能は、いつまでも東京の地理が覚えられない者にとって大変、便利です。今後20年もまだ見ぬ表現へとどうぞ導いてください。
*「Tokyo Art Beat」20周年を記念するアワード企画と特集を実施! ユーザーみんなで20年間の「ベスト展覧会」を選ぼう。推薦を7月8日まで募集中
詳細は以下をご覧ください。読者の皆さんの推薦・投票をお待ちしています!
中村史子
中村史子