新年あけましておめでとうございます。本年もTokyo Art Beatをよろしくお願いします。
さて、2022年の干支は「寅(トラ)」。古来より世界各地の芸術作品のなかで、トラは繰り返し描かれてきました。時に悪霊を退ける動物として重視され、時に猛々しい覇者の象徴として武士階級に愛されるなど、トラをめぐるイメージには各地の文化や歴史が反映されています。この新年はそんなトラの作品を見ることから、美術館めぐりをスタートしてみてはどうでしょうか。様々なトラが登場する、必見の6つの展覧会を紹介します。
※オンライン事前予約を行っている館もあるため、チケット情報や開館時間などの詳細は各ウェブサイトをご確認ください。
2022年に開館150周年という記念すべき年を迎える東京国立博物館は、1月2日より開館。恒例の正月企画である「博物館に初もうで」では、東アジアから南アジアまで、トラを表した作品が紹介されます。 会期は1月30日まで。
迫力満点でありながらユーモラスな表情も魅力的な曽我直庵の《龍虎図屛風》や、名工・柴田是真が漆で描いた《漆絵画帖》、武士が鎧の上に着用する上着に大胆にトラが描かれた《陣羽織 白呉絽服連地虎模様描絵》などを見ることができます。
江戸時代には多くの絵師たちがトラを描きましたが、日本では野生のトラがいなかったため実物を見ることができず、中国画や朝鮮画、毛皮、逸話などをもとに制作されました。トラの絵には、それぞれの絵師たちの想像力が遺憾なく発揮されていると言えるでしょう。
そのほか「博物館に初もうで」では、国宝「松林図屛風」(長谷川等伯)をはじめ、各展示室では新年の訪れを祝して吉祥作品や名品の数々も出品されます。
1月2日~2月13日に開催される新春特集展示「寅づくし─干支を愛でる─」では、京都国立博物館の公式キャラクター「トラりん」のモデルにもなっている尾形光琳《竹虎図》をはじめ、トラを表した名品が多数出品されます。
光琳《竹虎図》のトラは、獰猛なイメージはどこへやら、竹林でちんまりと腰をおろしています。好奇心旺盛そうな瞳で横を睨む戯画的な姿。光琳の墨画らしい軽妙さや自由な気概が感じられる一作です。
強いトラ、かわいいトラ、情けないトラ……と、本展では様々な雰囲気のトラ作品が30件以上展示されます。
新年は1月2日より開館する大倉集古館では、異色の水墨画家・篁牛人(たかむら・ぎゅうじん、1901~84)の展「生誕120年記念 篁牛人展~昭和水墨画壇の鬼才~」が1月10日まで開催。芸術に至上の価値を置く自由奔放な生きざまを貫いた孤高の画家であった牛人は、「渇筆」という技法(渇いた筆などで麻紙に刷り込むように墨を定着させる)によって、独自の水墨画の世界を開拓しました。
大胆さと繊細さを併せ持つ渇筆によって、牛人もトラを描きました。現在、トラの描かれた作品は3点展示中。
大倉集古館主任学芸員の田中知佐子さんは、その特徴について「牛人の描く虎は姿形の極端なデフォルメ、渇筆による黒い部分と地の白とのくっきりとしたコントラストが特徴的です。小さな顔に比して大きく膨らんだ身体は奇妙ですが、独特のユーモアや可愛らしさを感じさせます」と言います。
その名もずばりタイガー立石(本名・立石紘一、1941~98)の回顧展「大・タイガー立石展 世界を描きつくせ!」が、埼玉県立近代美術館とうらわ美術館で同時開催中。
タイガー立石は1963年に前衛芸術の牙城であった読売アンデパンダン展で頭角を現してから、時代や社会のアイコンを大胆に引用した絵画、マンガ、イラストレーションなどを手がけ、和製ポップ・アートの先駆けとして高く評価されます。2021年には千葉市美術館を皮切りに全国各地で回顧展が開催され、芸術とサブカルチャー、西洋/東洋、過去/現在/未来といった様々な境界を飛び越えるその芸術世界が改めて注目を集めています。
本展にも、その名に冠したタイガー/トラをモチーフにした作品が出品中。新年は埼玉県立近代美術館が1月7日より開館、うらわ美術館が1月5日より開館で、会期は1月16日まで。
ホー・ツーニェンは1976年シンガポール生まれ。映像、インスタレーション、サウンド、演劇といった多領域を横断しつつ、出身地のシンガポールを軸にアジアを舞台にした作品を展開しています。そんな作家が主要なモチーフとして繰り返し作品に登場させてきたのがトラです。
豊田市美術館で開催中の「ホー・ツーニェン 百鬼夜行」にはアニメーションによる様々な妖怪が登場しますが、「マレーの虎」と呼ばれた2人の人物(日本人盗賊で後にスパイ活動を行った谷豊と、シンガポール作戦を率いた山下奉文大将)も「妖怪」として表現されます。
ホー・ツーニェンが描く世界では、人はトラとなり妖怪となる、まさに変化する存在としてとらえられています。第二次世界大戦を含む日本の歴史に関する綿密なリサーチと深い思索、そして作家が幼少期から親しんできた日本のサブカルチャーへの関心が重層的に重なり合い、江戸時代の絵師たちが描いた様々な虎図、『怪傑ハリマオ(マレー語でトラの意味)』、タイガーマスクにラムちゃんと思しきキャラクターまで、様々な表象から引用され変化したトラたちが、展示空間を跋扈し飛び回ります。新年は1月5日から開館、会期は1月23日まで。
慶應義塾ミュージアム・コモンズでは1月11日~2月10日に新春展 2022「虎の棲む空き地」が開催。慶應義塾の多様なコレクションから、トラのモチーフを持つ作品が紹介されます。紀元前の古鏡から現代のビデオまで、トラにまつわる作品が、地域や時代、領域を越え一所に会する特別な空間になりそうです。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)