公開日:2007年6月18日

八谷和彦「OpenSky 2.0」

渋谷区初台・NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]にて3月11日まで行なわれた本展は、メディア・アーティスト八谷和彦による「OpenSky」プロジェクトのこれまでの活動を概観するものである。2003年からはじまった「OpenSky」は、「個人的に飛行装置を作ってみる」ことをめざし、「模型による検証」「実機制作」「テストフライト」の3つのフェーズを経て、今展に至った。

現在は第3フェーズを進行中で、昨年の秋にエンジンを使わないゴム索発航によるテストフライトが行なわれた段階である。今回は、ジェットエンジンを搭載した機体《M-02J》をはじめ、これまでにテストを繰り返してきた《メーヴェ1/2》《M-01:1/5模型》《M-01》の実物に触れながら、写真やムービーにより制作記録や試飛行の様子を目にすることでき、最終アタック直前の活気みなぎる空気をオーディエンスとともに作り出していた。

作家本人がSF展示と表現したように、単に客観的な記録にとどまることない展示がなされ、石のゲームや島本須美のオーディオガイド、そのほか会期中に追加され続けた細かな仕掛けは、サイエンスとフィクションとが混合する幻想的な風景を描き出した。また、タカノ綾と西島大介とのトークイベント「SFと魔法と、あと何か」のなかでは、アーサー・C・クラークの言葉、「十分に発達した科学技術は、魔法と区別がつかない」の引用が印象に残ったが、まさにその言葉で説明したくなるような機体自体が帯びたエネルギーにも支えられて、会場は虚実が幾度も往復する、まさに「あと何か」で味付けされた場であった。

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『建築をめざして』という本のなかで、ル・コルビュジエは、「飛行機の教訓は、課題の提起からその実現までを貫く論理にある」と残した。航空機開発を例に挙げながら、物事の「課題を導く」ことには、それを「解決する」ことと同等の価値があると主張し、さらに「問題が提起されれば宿命的に解答が見いだされる」という前提にたてば、もはや、正しく「課題を導く」ことにこそ創意と知性が発揮されるべきだと続けた(さらに、その考えを敷衍し、古い様式や慣習にとどまりがちな怠慢さのおかげで「課題」がそもそも正しく建築には設定されてこなかったのだから、現代建築が現代の居住の問題など解決するはずもない、よってとにかく「課題を設定しよう」と読者へ語りかけていく)。

創意と知性がうまく機能することで、飛行機は鳥や蜻蛉を連想すべきものではなく「空飛ぶ機械」とみなされた。飛行機=空飛ぶ機械という発想は、戦争をきっかけとして「浮力と推進力」という正しい問題を導いたことで、その問題は現代的に「宿命的に」解決されたのだ。

翻って、現代においてこの「OpenSky」が浮上させ解決したのは、単に「浮力と推進の問題」だけだったか。「パーソナルに空を飛ぶためのものっていうのは探求されつくしてないなと思って」。そのことに付随する数々の出来事…、そうした事実の積み重ねは、フィクショナルな課題を本来あるべき問題として帰納的に、魔法のように導いているかのようだ。虚実がオーヴァーラップする展示空間は、プロジェクト自体の二重性をほのかに漂わせていた。

Ayumu Saito

Ayumu Saito

Editor of Architect Magazine 1979年生まれ。編集者。大学卒業後、ギャラリーオーナーアシスタント、ウェブ制作会社アルバイトなどを経て、現在、編集事務所勤務。おもに、建築雑誌や美術関連ウェブサイトの企画・編集・制作をおこなう。