街の熱気に疲れてしまったら、ひととき気をやすめて身も心も溶け合う静かな空間で作品の声に耳を澄ましてみるのはどうだろうか。
会場に入ると、まずジム・ランビーの作品がある。メタリックなテープで埋められた床と天井高のある広々した白い空間の中に作品が浮遊しているかのように設置してある。入った時は、カラフルに彩色されたインコの彫刻や、巨大な鍵穴、ミラー・ガラスの貼ってある椅子などが個々に目に飛び込んでくるが、テープが視覚に与える濃密さとそれをかき消すかのような虚無的な白い壁と天井、壁にかけられたペルシャ絨毯などを見ているうちに、日常と非日常が交ざりあい、いつしか空間を見失い足元が揺らぐような言葉にならない感情をおぼえる。
7月21日にジム・ランビー氏を迎えて行われたアーティストトークでは、人前で話すことの少ないランビー氏が制作に関わることや観客からの質問に答えており興味深かった。好きな音楽のタイトルから作品の題を決めることが多いということでレコードを日本にもたくさん持ってきているそうだ。作品にもライブの後の高揚感が感じられることを意識して制作しているという話だった。
いずれの作品も、固体と液体が交ざりあい共存する「melting point」という言葉が示すように、私たちの身体を、意識を、記憶を、時間を自在に融かしこみ、つかのまの安らぎを与え、心の深い場所へと沈みこんでいく。