オリジナル・プリントに魅了されて
マン・レイのオリジナル写真を初めて見たのは1980年4月、日本橋「ツアイト・フォト・サロン」の展覧会だった。たしかソラリゼーションやレイヨグラフのヌードが中心で、精緻な陰影にいっぺんで惹かれ、その日からマン・レイという奇妙な名前が脳裏に刻みこまれた。
日本初の写真画廊「ツアイト・フォト」を主宰する石原悦郎にとって、マン・レイのオリジナル・プリントの展示はギャラリストとしての力量を世間に問うものだったろうし、じっさい、膨大なマン・レイの写真作品を収集していた。たまに画廊を訪れると、石原がときどきコレクションの一部を保管庫から取り出して見せてくれることがあり、キキや女性たち、セルフ・ポートレイトと対面しながら時間を忘れたのは、私にとって宝物のような記憶だ。
しかし、いくらオリジナル・プリントに魅了されても、マン・レイを写真家と呼ぶことには抵抗があった。なぜなら、多彩な技術によって印画紙に定着された像は極めてオブジェ的で、写真はイメージの表現手段のひとつに過ぎないというマン・レイの声が聞こえてきたからだ。