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シグリッド・サンドストローム 「DUSK」

ギャラリーペロタン東京
終了しました

アーティスト

シグリッド・サンドストローム
スウェーデン人アーティスト、シグリッド・サンドストロームにとって「夕暮れ(dusk)」とは単なる時を表すものではなく、光が折り重なる瞬間であり、より意義深い何かの訪れを予知させながら後退していく状態です。ペロタンでの2回目の個展となる東京展にふさわしいタイトルでもあります。「Dusk」に展示される絵画は、まるで視覚のひずみをゆうに超えて太陽に照らされているかのような、白みがかった密やかな光沢に包まれています。サンドストロームが描くブルーとチャコールグレーは、かすみがかり哀愁をおびた色調へと溶け込み、見る者をよりスローで物思わしげなタイムスケープ(時間風景)へと引き込みます。

サンドストロームを形作るのは、北欧の大自然のなかで育った子ども時代の経験です。長きにわたり、サンドストロームは文字通り、また比喩的な意味でも夕暮れに魅了されてきました。家族が所有した小屋は自然に囲まれ、電気も水道も通っていない無道路地に建っていたといいます。家族の休日の隠れ家として、意図的にストーブに火をつけ、薪を割り、井戸から水を汲み、課せられたリズムに従い、時の流 れをゆるやかにする生活を実践する場所でした。ろうそくの光と灯油ランプだけが光源としてゆらめき、平凡な動作が注意を要するこのアナログな在り方は、サンドストロームの感性の多くに影響を与え続けています。

また同時に、その風景には当時から現代社会が浸透していたことをサンドストロームは回想しています。例えば、遠くの村からの光害は、工業的な明るさの容赦ない到達をかすかに思い出させるものでした。サンドストロームは「Dusk」の絵画を制作する過程において、明るさというものが「照らす」と同時にいかに「消し去る」かという二項対立について熟考し、谷崎潤一郎の著作、なかでも日本美術や建築における暗がり、影、微妙な差異の美学について評論した『陰影礼賛』(1933年)に思いを馳せました。同書では、低い庇、障子、格子が直射日光を拡散させることで空間の体験を豊かにし、きつい光では失われてしまう質感や繊細さを浮かび上がらせることが語られています。

こうした光と影の相互作用は、しばしばキャンバスを裏返し、裏面を拡散スクリーンとして用いているサンドストロームの絵画へのアプローチと一致しています。その結果、イメージの純然たる実在性よりもむしろ記憶や存 在 感に語りかける重 層 的 な作 品が生まれるのです。《Amnesia》(2024年)はこのような「裏面」絵画のひとつで、キャンバスの裏側に描かれているであろう色鮮やかな顔料が、レーズンの質感にも微妙に似た独特のパティナを創り出しています。これらの絵画は、和紙提灯のなかできらめく植物性ろうそくの繊細な芯のように、控えめでありながらも魅惑的です。

本展で際立って印象的なのは、ギャラリーのガラスファサードに展示された両面絵画《Borealis》(2024年)です。ギャラリーの外側からは、目に見えるブラシストロークと豊かな色合いが暖かみのある瞬間とともに変化しながら、鮮やかで質感のある表面を創出しています。しかしギャラリーの内側からは、外側から見た絵画の幻影となり、見る者は目を凝らして焦点を合わせ直すことを求められます。この意図的な不明瞭感は、神道における「闇」の解釈にも似ており、自然の神秘や隠された側面を強調するものとなっています。作品タイトルの《Borealis》(北極光)も、目撃するためには暗がりが必要な現象であるオーロラを連想させます。サンドストロームにとって、空と大地の青黒い広がりに色彩が溢れるスウェーデンの冬は、こうした美を魅せる自然な劇場なのです。

サンドストロームの作品には、過去何世代にもわたる北欧の画家たちと同様に、環境の痕跡が見てとれます。《Scarlet Flight》(2024年)の控えめな土のような色調は冬の淡い光と呼応し、時折弾ける深紅色や黄土色はつかの間の暖かさを思い出させます。しかし、「Dusk」の作品群が見せるのは、単なる季節の移り変わりの回想にとどまりません。サンドストロームは「陰鬱なときには、より陰鬱なパレットを」と言います。秋の黄昏どきに描かれ、今 回、冬の暗い時 期の東 京で発 表される作 品の数 々は、政治的、環境的、感情的にもより広い意味での夕暮 れと共鳴しています。

サンドストロームは、版画、染み、アーチを描くブラシストローク、ときにはオイルスティックを融合させた特徴的な技法を用いて、作品に流動感を与えています。本展の作品群はまるで互いに語り合い、動的な液体のように渦を巻き、沈殿しているかのようです。この相互作用は、《Dusk》(2024年)や《Distance in Blue》(2024年)といった一層モノクローム化が進む作品に特に顕著に見られ、これまでの深紅色の炎のような揺らめきが、ロシア人画家ニコライ・リョーリフの風景画を彷彿とさせる冷静で静観的な青色、光の果てに浮かぶビジョンへと変化しています。

しかし、サンドストロームの「夕暮 れ」とは、単なる暗黒への転落ではありません。谷崎が影を賛美するように、サンドストロームの作品もまた、闇を空虚さとしてではなく、深みと優しさを生み出す空間として再考を促すものです。サンドストロームの手にかかれ ば、影は曖昧なものではなく一体化させるものであり、手の届かないところにある何かに忍耐強い力を与えます。

スケジュール

2025年1月17日(金)〜2025年3月22日(土)

開館情報

時間
11:0019:00
休館日
月曜日、日曜日、祝日
入場料無料
展覧会URLhttps://www.perrotin.com/exhibitions/sigrid_sandstrom-dusk/11701
会場ギャラリーペロタン東京
住所〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1F
アクセス都営大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅1a・1b出口より徒歩1分
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