チョイ・カファイ 「悲しき霊魂を求めて」

アサクサ
7月15日終了

アーティスト

チョイ・カファイ
周縁に追いやられたアジアのシャーマン文化には、植民地支配に対する、メインストリームに対する、同一化に対する、抵抗としての形を成す。こう語るのは、シンガポール出身で現在ベルリンで活動するマルチメディアアーティストであり「超自然的ダンス求道者」のチョイ・カファイです。チョイは、2018年から18ヶ月かけて、中央アジアから東南アジアを旅し、のちに映像、ダンス、インスタレーションとして展開する《コスミックワンダー》という一連のプロジェクトのために、その土地のシャーマン50人以上を取材しました。その一つが、シベリアを中心にロシア各地、モンゴル、中国東北部、中央アジアに遊牧し、国境を越えて疎外に追いやられてきたブリヤートの民です。

ブリヤードは、元々は北東アジア地域を流浪したモンゴル語系の集団です。20世紀初頭、ロシア革命による混乱を避けた一部が、国境を超えて外モンゴル(現在のモンゴル国)に亡命を図りますが、1930年代後半にはスターリン粛清により、反革命・日本のスパイという理由で処されてしまいます。戦後、生き残ったモンゴルのブリヤードたちは、モンゴル国における少数民族と見なされ、一方で、ロシア側に残ったブリヤードの民は、ソ連の下でモンゴル人とは異なる少数民族として制度に組み込まれ、モンゴル・ブリヤードを下級扱いするようになります。またソ連・中国の共産主義下においてシャーマニズムは弾圧の対象でした。時代と国境を超えて各地で弾圧されきた悲しみと、20世紀を通して粉砕されてきた帰属意識を再構築するために、国家を持たぬディアスポラ(離散民族)であるブリヤードの民の間で、「澄み切った青空」を信仰するシャーマニズムが増殖するようになりました。

アサクサでのチョイ・カファイの個展『悲しき霊魂を求めて』は、ブリヤートのシャーマン・コミュニティに着想を得たマルチメディア・インスタレーションによって構成されます。来場者は、「ブルースカイアカデミー」という架空のシャーマン学院で学ぶカファイに招き入れられつつ、学院の関係者やブリヤートのシャーマンへのインタビューから、シベリアのシャーマニズムを習得していき、VR作品《Constellation of the Flesh》において、シベリアのシャーマンによるトランスダンスとサイバー空間が相乗する超自然的世界をヘッドセットを通して体験することになります。シャーマンは、変性意識、つまりトランス状態に入り、超越的な存在と繋がり、超人間存在や祖先の霊魂を自らの身体に召喚します。チョイ・カファイは、デジタルテクノロジーの力を駆使し、散逸したその土地の記憶と物語を繋ぎ合わせ、過去と未来、実在と虚構を融合させたハイブリッドな新しい身体に息を吹き込みます。

本展ではインターネット文化がたびたび顔を覗かせますが、想像上の共同体が生まれるこの文化圏において、非科学的で非合理的とされてきた古い信仰体系を復権させる可能性も示唆されます。近代が猛進/盲信した科学や国民国家の概念では捉えきれない信仰は、不可視の存在、超自然的な存在を許容するデジタル空間で、密かに息を吹き返しているのかもしれません。辺境で生き延びてきた現代のブリヤートのシャーマン・コミュニティの脱国家的な営みは、過去の魂を呼び覚すだけでなく、未来予想図とも言えるのです。

スケジュール

開催中

2024年6月28日(金)〜2024年7月15日(月)あと12日

開館情報

時間
13:0019:00
休館日
火曜日、水曜日、木曜日

オープニングパーティー 2024年6月28日(金) 17:00 から 19:00 まで

入場料無料
展覧会URLhttps://www.asakusa-o.com/tragicspirits/
会場アサクサ
https://www.asakusa-o.com/
住所〒111-0035 東京都台東区西浅草1-6-16
アクセス東京メトロ銀座線田原町駅3番出口より徒歩2分、つくばエクスプレス浅草駅B出口より徒歩5分、都営浅草線・東武伊勢崎線浅草駅2番出口より徒歩8分
電話番号090-8346-3232
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