新型コロナウイルスの感染症拡大の防止のため急遽中止となった「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020」。しかし、ホテルやギャラリー、飲食店などが会場となった「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020:BLOWBALL」は無事開催されている。会期順に見どころを紹介する。(*状況に応じて会期変更の可能性あり)
「Allscape in a Hall」
会場:スプリングバレーブルワリー京都
京都・錦市場の近く、築100年の町屋を改装したというクラフトビールのレストラン「スプリングバレーブルワリー京都」。その中庭にある元迎賓館(通常非公開)では、髙木遊キュレーションの「Allscape in a Hall」展が行われている。ジェイムズ・ジョイスの小説『フィネガンズ・ウェイク』の一節「全空間を胡桃の中へ(Allspace in a Notshall)」にタイトルが由来する本展には、アーティストの立石従寛、小松千倫が参加する。
本展は、チョウマメを素材とした展覧会オリジナルのお酒と、外壁を登る「麒麟」をイメージした光の軌跡、ビール大麦の産地でもある亀岡市の音と土からなる柱など、髙木、立石、小松の三者が協働的につくりあげた空間が見どころだ。
髙木は「“飲む”という行為に対して、どのくらいストーリーをつくり上げるかということに集中しました。アメジスト色のお酒、ヨーロッパを中心に、酔い覚ましの石として親しまれる石のアメジスト、ギリシャ神話のお酒の神・バッカスが恋をしたアメジスト、麒麟のキマイラ性など、重なり合う要素に注目してほしい」と話す。
「From one stroke 2」
会場:庵町家ステイ 筋屋町町家
福岡、京都、アジアを拠点に、青色を使用した最小限の行為「一筆書き(One stroke)」で絵画を完成させる香月美菜。京都での初個展となる本展では、自己過去最大サイズの作品《9:39:24》や、233色もの青のグラデーションが見どころの《233》などが並ぶ。「座敷に並ぶ作品は、すべて座ったときの目線を意識して制作しました。ぜひ、座ってゆっくりと鑑賞してほしいです」と香月は話す。
自然光の最小限の光量のなか展示される《9:39:24》は、目の慣れによって色が浮かび上がってくるような鑑賞体験を得ることができるが、こちらは会場のメイキング映像もあわせてチェックしてほしい。
「GOLD, WHITE, AND BLACK」
会場:AIR賀茂なす
2019年11月、京都五条大宮の町家2Fにオープンしたアーティスト・イン・レジデンス「AIR賀茂なす」。ここでは、日本の絵画を現代にアップデートするというテーマで活動する品川亮が作品を発表している。フェア初日には作品が完売していた本展。
品川は「作品を一言で言い表すのは難しいですが、強いて言うならば金がベースの作品は“日本の絵画”についての問い、墨がベースの作品は“なぜ自分は描いているのか”という問いにもとづいています」と話す。
「スーパーマーケット “アルター”市場」
会場:BnA Alter Museum
アーティストが手がけた部屋、ギャラリースペースや、ミュージアムショップなどもあるBnA Alter Museumでは、「スーパーマーケット “アルター”市場」が開催中。黒田純平(キュレーター)、渡邊賢太郎(キュレーター)、筒井一隆(BnA Alter Museumアートディレクター)の3名が本展で目指すのは「市場をオルタナティブに思考するアートマーケット」。
星拳五、溝渕珠能、中村壮志趙里奈ら10名の作品は、その多くが部屋に飾ることが想起しやすいサイズで、比較的手に取りやすい価格帯が特徴的。キュレーターの黒田は、「はじめて作品を買おうとする方々にもアプローチできたら嬉しい」と語る。
「表層と深層」
会場:GALLERY PARC
カメラを用い、歴史、風景、人間との対話を軸に作品制作を行う3名の展覧会「表層と深層」はGALLERY PARCで開催中。自身の経験を元に美術教育のあり方に迫るドキュメンタリー映像を制作する白井茜。視覚として認知しづらい歴史に関心を寄せ、現在暗渠になっている横浜近郊の川を調査、史実をもとに作品手がける志村茉那美。人と環境との関わりをとらえることをテーマに、都市・郊外で写真制作を行ってきた大河原光は、自身の皮膚をモチーフとした新シリーズを発表している。
「知らないかたち」
会場:KYOTO ART HOSTEL kumagusuku
「展覧会の中に宿泊し、美術を体験として味わうための宿泊型のアートスペース」をコンセプトに2015年、京都にオープンした「KYOTO ART HOSTEL kumagusuku」。ここでは高橋美衣が個展を行なっている。
「Wunderkammer」
会場:GOOD NATURE STATION 4F
現在の博物館の前身でもあり、16世紀頃のヨーロッパで盛んになった、世界中の珍しいものを収集・展示した空間「Wunderkammer (ヴンダーカンマー/驚異の部屋)」がテーマの展覧会は複合商業施設GOOD NATURE STATIONの4Fで開催中だ。本展では、京都の共同スタジオ「punto」のアーティスト7名の作品を展示。
制作過程で生まれた「副産物」を扱う副産物産店とアクセサリー作家「petitJumelle」の仲地志保美によるアクセサリーもあわせて展示されている。
「fond de robe -内にある装飾-」
会場:ワコールスタディホール京都
写真の中の光の陰影やきらめきが生み出す現象や、独特の質感を感じさせる表層、そして被写界深度の浅さが引き起こすボケ感といったイメージ固有の現象に着目し、シルクスクリーン技法を用いて制作してきた芳木麻里絵。
シルクスクリーンによって本来は厚みを持たないイメージに物質性をともなった奥行きを与えてきた芳木が、今回は下着のレースに着目。1920年代の下着のレースと、現代の下着に用いられているレースをモチーフに、衣服の下で身体の土台となっていた下着(=fond de robe )の装飾の様相から、100年前と現代との時代背景や価値観の基盤をひもとく。
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残念ながらメイン会場は中止。そして多くの美術館が臨時休館しているが、これらサテライト展示では現在、若手アーティストらによる多彩な作品を楽しむことができる。状況に応じて会期変更の可能性もあるため事前にウェブサイトをチェックし、訪れてみてはいかがだろう。
https://artists-fair.kyoto/events/
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)