公開日:2018年10月23日

【ジャポニスム 2018】「Enfance / こども時代」展 フォトレポート

パレ・ド・トーキョーが見せた日本人作家との超大型コラボレーション

Tokyo Art Beatの「パリ部」より、日本人アーティストも活躍するパリでの展覧会のフォトレポートをお届けします!第1弾はパレ・ド・トーキョーでの「Enfance / こども時代」展

日本のアーティストがフランス・パリの現代アートのメッカ、パレ・ド・トーキョーに集結

6月22日、日仏友好160年を記念し、両国の関係府省庁・機関が共同で推進する「ジャポニスム 2018: 響き合う魂」の開会式が開かれた。「日本文化の原点とも言うべき縄文、伊藤若冲、琳派から、最新のメディアアートやアニメ・マンガ・ゲームまで、舞台公演は、歌舞伎、能・狂言、雅楽から、現代演劇、初音ミクまで、さらには食、祭り、禅、道、茶道、華道ほか、日本人の日常生活に根ざしたいろいろな文化の側面に焦点を当てた交流事業」*など多様な試みをパリを中心にフランス各地で展開する。

その公式企画の一環として、6月22日から9月9日までパレ・ド・トーキョーで開催されている「Enfance / こども時代」展には日本のアーティストも多数参加している。

Tatsuro Amabouz 《A Doll's House》

今回の展覧会の目玉の一つはやはりAmabouz Tatsuro(旧名 西野達)の《A Doll’s House》。日本人作家がパレ・ド・トーキョーのファサードを一変させた。本来ならば小さなおもちゃであるドールハウスが巨大化し、プライベートな空間であるはずの家が人々を招き入れるゲートとなっている。

栗林隆 《Entrances》

展覧会には、J.D.サリンジャーの短編「A Perfect Day for Bananafish(バナナフィッシュにうってつけの日)」をもじった、「Encore un jour banane pour le poisson-rêve(フィッシュドリームにうってつけのバナナな日をもう一度)」が副題として添えられている。原作は登場人物が自らの命を絶つまでの1日を描いたストーリーだが、もともと意味不明のタイトルをさらに逆さましてしまうところに、無邪気な遊び心とそれが生み出す狂気のようなものが表れている。
劇作家であり、アーティストでもあるClément Cogitoreとのコラボレーションによる空間演出によって、時にファンシー、時にオドロオドロしい空間が作り上げられた。

Rachel Rose 《Lake Valley》

Rachel Roseの《Lake Valley》は2017年のヴェネチア・ビエンナーレにも出展された映像作品。
ニューヨーク郊外の架空の町Lake Valleyを舞台にした、ウサギと犬とキツネのような生き物が主人公のアニメーション。まるで絵画やコラージュからなるいくつものレイヤーによって作られたかのような映像が展開する。

手前 毛利悠子 《From A》 奥 栗林隆 《Entrances》

毛利悠子の音と現象を使ったインスタレーション《From A》。毛利の作品の特徴は目に見えない力(電気や磁力)のインフラを用いている点。はたきがパタパタと動き、トライアングルがチリンチリンと鳴っているかと思うと、おもむろにシャンデリアと裸の電球が付く。まったく関連性のなさそうなこれらの現象がすべてつながり、空間を作り出している。毛利はこれら一連の動作をすべてコントロールするのではなく、そこにほんのすこしだけ偶然の要素を忍び込ませ、私たちの感覚をより研ぎ澄まさせる。無関係と言いつつも、これらの物体にはきっとアーティストしか知らない物語があるのではないだろうか。子どもの頃の私たちなら、アーティストと同じように簡単に物語を作れたはず。

Petrit HaLiLajn 《Abetare》

Petrit HaLiLajnの作品は、自らの子ども時代の記憶と、それに大きな影響を及ぼした当時の情勢を織り交ぜ、パーソナルでもあり人類の大きな歴史でもある物語を語っている。

タイトルである《Abetare》は、コソボ共和国時代のアルバニア語の教科書の名前。HaLiLajnは、独立を求め運動したアルバニア人が、セルビア政府から抑圧された時代に幼少期を過ごした。大多数の人々の日常語であったはずのアルバニア語は一時期教育現場での使用を禁止され、アルバニア人の子どもたちは自分たちで自らの言語を勉強をしなければならなくなったこともあった。HaLiLajnは、アルファベット表に自らのイラストを加えてアイデンティティであるアルバニア語の教科書を複製した。彼のデッサンには、子どもの頃の思い出や彼ら民族の文化が見られる。

Petrit HaLiLajn 《Abetare》

教室のインスタレーションは、一見子どものファンタジーのような世界感を見せながらも、アーティストが過ごした時代がどのような現実に囲まれていたかを物語る。展示室に並べられた机は、アーティスト自らが子ども時代をすごしたコソボの北の地区の小学校から回収したもの。空中に浮かぶ巨大なインスタレーションは、実際に机に描かれていた落描きを鉄の針金で起こしたものである。

Sabrina Vitali 《De qui sont ces manches》

Sabrina Vitaliのすべて砂糖で作られた彫刻とインスタレーション。

日本人アーティストの存在感は、日本の代名詞となりつつある「カワイイ」とミニマルなスケールの中にある精巧さを強調することによって際立っている。一方で、Clément Cogitoreの舞台演出のような大胆なインスタレーション作品を場面展開のように設置することによって、ファンタジーの世界から、子どもたち、私たち大人を取り巻く現実世界までの場面展開・構成はさすがパレ・ド・トーキョー。Enfanceとは「子ども時代」を意味するが、物事の始まりや発展の前、という意味もある。本展覧会では、現代アートの根底にある好奇心・知覚に作用し、私たちの本能的な部分を刺激する作品たちが揃った。

■概要
タイトル:「Enfance / こども時代」展
会期:2018年6月22日(金)~9月9日(日)
時間:12:00~24:00(火曜日定休)
会場:パレ・ド・トーキョー
キュレーター:ヨアン・グルメル、サンドラ・アダム・クラレ(共にパレ・ド・トーキョー キュレーター)
アソシエイト・キュレーター:金澤韻(こだま)(インディペンデント・キュレーター)
日本人参加作家:Amabouz Taturo(旧名 西野達)、栗林隆、鈴木友昌、宮崎啓太、毛利悠子、森千裕、横山裕一

ウェブサイト:http://www.palaisdetokyo.com/fr/evenement/enfance
ジャポニスム2018ウェブサイト:https://japonismes.org/officialprograms/%E3%80%8Cenfance-%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%80%8D%E5%B1%95
*参照 パリ日本文化会館公式ホームページ ジャポニスム2018: 響きあう魂
https://www.mcjp.fr/ja/la-mcjp/actualites/a-laube-du-japonisme-jp/a-laube-du-japonisme-jp/bibliographie-sur-le-japonisme-et-le-debut-des-relations-franco-japonaises/japonismes2018-jp

中川千恵子

中川千恵子

なかがわ・ちえこ 十和田市現代美術館アシスタント・キュレーター。パリ第8大学造形芸術学科現代美術メディエーションコース修士課程修了。2019年より現職。2019年より現職。担当した主な展示・展覧会に、「インター+プレイ」展第2期(トマス・サラセーノ、2022)、 レアンドロ・エルリッヒ《建物―ブエノスアイレス》(2021)、「大岩雄典 渦中のP」(2022)。