展覧会で楽しんだ世界観を、そのままグッズとして持ち帰ることができるミュージアムショップ。展覧会を見たあとの”もう1つの楽しみ”だという人も多いのではないでしょうか。ここでは、前回に引き続き、そんなミュージアムショップの魅力をご紹介します。
今回訪れたのは、三菱一号館美術館内のミュージアムショップ「Store 1894」。『拝啓 ルノワール先生 – 梅原龍三郎に息づく師の教え』展の会期中、展覧会にちなんだグッズも展開しています。
三菱一号館美術館で開催中、『拝啓 ルノワール先生 – 梅原龍三郎に息づく師の教え』展
日本の洋画を牽引した巨匠、梅原龍三郎は、1908年に20歳でフランスへ渡り、翌年ルノワールに出会いました。彼はルノワールを師と仰ぎ、多くを学ぶ中で親密な関係を築きました。現在開催中の本展では、ルノワールと梅原の交流に焦点を当てながら、ヨーロッパで学んだ油彩画に日本の伝統的美術を取り入れ、日本近代洋画を独自のものとして確立した梅原の画業を振り返ります。また、絵画のコレクターとしても知られる梅原が蒐集した、ピカソやルオーらの作品も展示。一人一人の画家や彼らの言葉を記した辞典のようなキャプションがついており、当時日本に流入していた西洋画の様子を一望することが出来ます。
画家たちに焦点をあてた、企画展ショップ
本展は、晩年まで精力的に描き続けたルノワール・梅原をはじめとした、画家たちの「描く喜び Joie de peindre」がテーマとなっています。また展覧会では、梅原とルノワールがやり取りした手紙や梅原の手記も展示されており、当時の彼らの思いに触れることができます。
「『描く喜び』というテーマにあわせて、Store 1894の『企画展ショップ』でも、画家たちに焦点をあてた品ぞろえになっています。」
そうお話してくださったのは、店長の中尾祥子さん。ショップには、フランス・イギリスで作られた画材や、梅原の時代に流行していたファッションアイテムなどが並びます。
「ショップに並べる商品は、展覧会にまつわるエピソードをお客様に伝えられるように選んでいます。」(中尾さん)
それぞれのグッズには展覧会と同じようにキャプションがついており、ここでも展覧会の世界観が生かされているように感じました。
梅原とルノワールのコラボレーション、《バラ》のオリジナルグッズ
こちらは展覧会オリジナルのミニチュアキャンバスとポーチ。《バラ》の絵は、ルノワールが日本に帰国する梅原に贈り、梅原がのちにルノワールが好んでいた18世紀様式の額に入れて飾ったという、2人の交流を象徴するような作品です。このグッズは、お客様にも同じように《バラ》を持ち帰って自宅でも作品を楽しんでほしいという思いから製作されました。ミニチュアキャンバスの方に使われている木枠は、特注されたオリジナルのもの。通常より薄く作ることで、よりミニチュア感を出しているそうです。また、それにより、壁にそのままかけて楽しむことができるようにもなっています。オリジナルポーチの方には、《バラ》とロココ調の額をプリント。ルノワールの作品を、梅原が自身で選んだ額装ごと楽しむことができます。
梅原も使っていた!?日本の職人技が光る洋傘
梅原は、ファッションに敏感だった人物としても知られています。そこでショップでは、その時代に流行したファッションアイテムを展開。その中でもおすすめはこちらの洋傘だそうです。梅原が活躍した時代は、日本人の服装が和装から洋装に切り替わった頃でした。洋傘はその頃海外から日本に取り入れられたアイテムですが、日本において、重たい特殊な雨に耐えるため独自の技術が発達したと言います。
手書きのやり取りは久しぶり、な人にも。
梅原とルノワール、2人の手紙のやり取りに、どこか温かい気持ちになる本展。ショップでは、2人にちなんで、日本とフランスそれぞれを代表する老舗のレターツールを扱っています。
「展覧会をきっかけに、手紙を書くことなど、お客様の中で新たな楽しみが広がったらいいなと考えています。」(中尾さん)
また、手紙を書く機会が少なくなっているなかで、2人が手紙を送り合った時代に作られていたペンや紙を実際に手に取ってもらうことで時代や2人の存在を身近に感じてもらえたら、と考えているそうです。
実際に、J.HERBINのカラーインクは、「ビンがかわいいから買ってみようかな」と言って手に取るお客様も多いとか。すでに持っている方が、店頭で見て「久しぶりに使ってみようと思った」と話すこともあったそうです。
「19世紀末の西洋」がテーマの、常設ショップ
三菱一号館美術館は、建物や空間自体がお気に入り、という人も多いのではないでしょうか。この建物は明治時代日本で活躍したイギリス人建築家、ジョサイア・コンドルが設計した「三菱一号館」を復元したもの。それにちなみ「Store 1894」の「常設ショップ」では、イギリスにまつわるグッズや、所蔵している19世紀末の西洋美術に関連するものを取り揃えています。「Store 1894」でしか手に入らないものも多く、ロンドンにある国立博物館、ヴィクトリア&アルバート博物館のグッズを直輸入しているのも特徴だそうです。
画家をイメージした、ペインターボールペン・色鉛筆
こちらは来館記念や、おみやげとして人気のグッズだそう。ボールペンは、世界で始めて使い捨てボールペンを販売したフランスのBIC社のもので、所蔵作家の作品をイメージした配色になっています。BICのボールペンは、MOMAにも収蔵されているそうです。ちなみにボールペンの台紙は手押しで作られたもので、本のしおりに使う人も多いとか。色鉛筆の方は、それぞれの画家をイメージした6色がセットになっています。この色鉛筆を使ってイラストを描いたら、モネやゴッホのような絵が描けるかも…!?
展覧会の余韻に浸りたい、オリジナルワイン
『拝啓 ルノワール先生 – 梅原龍三郎に息づく師の教え』展のコレクションパートでも展示されており、印象的だったルドンの『グラン・ブーケ』。美術館のオリジナルワインは、その『グラン・ブーケ』がラベルにプリントされています。
「ワインは味と香りを感覚的に楽しむもの。このワインを自宅で楽しみながら、美術展を思い出して欲しいという思いから作りました。」(中尾さん)
『グラン・ブーケ』は三菱一号館美術館に収蔵されている作品。大きな画面でインパクトがあり人気の作品ですが、作品保護の観点や展覧会の構成の関係で、公開出来る時期は限られているそうなので、『拝啓 ルノワール先生 – 梅原龍三郎に息づく師の教え』展の会期中にぜひ足を運んでみてください。オリジナルワインは、他にロートレックの作品をモチーフにしたものも。それぞれ作品の雰囲気をイメージした味わいの、赤・白2種類があります。
「Store 1894」では、展覧会や作品の世界観を日常の中で取り入れることの出来る工夫がちりばめられていました。例えば、ルノワールと梅原が使っていたような、手紙にまつわるツールや、有名な画家をモチーフにした色鉛筆など、グッズを通して画家や作品がぐっと近づいたような感じがしました。ミュージアムショップを通して、展覧会での体験が日常生活にも生かされれば素敵だなと思いました。
『拝啓 ルノワール先生 – 梅原龍三郎に息づく師の教え』展は、1月9日(月・祝)まで開催中。あとわずかとなりましたが、会期中にぜひ足を運んでみてください!
[TABインターン] 小原菜実子: 美術史を専攻している大学生。アイルランドでケルト美術に魅せられたのをきっかけに、西洋中世美術を中心に勉強中。埼玉県民であり、関東の第3位は千葉ではなく埼玉だと思っている。3度の飯よりダンスが好き。