今年は「瀬戸内国際芸術祭2016」、「茨城県北芸術祭2016」、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2016」など、全国各地で芸術祭が熱い!その中でも都市型な性格をもつ「あいちトリエンナーレ2016」の会場は名古屋、岡崎、豊橋と3地区に分かれます。前編 名古屋編となる今回は舞台芸術、映像プログラムと多彩な面をもつあいちトリエンナーレ2016から、見どころを国際美術展(現代アート展)を中心にお伝えします!
記事後半には移動やチケットなど、現地で役立つ情報を載せているので是非参考にしてください!
名古屋地区は大きく【1.愛知芸術文化センター】、【2.名古屋市美術館】、【3.長者町会場】の3会場、さらに旧明治屋栄ビル、損保ジャパン日本興亜名古屋ビル、中央広小路ビル、JPタワー名古屋に点在します。
【1.愛知芸術文化センター】
まずはトリエンナーレのメインとなる愛知芸術文化センターを紹介します。愛知芸術文化センターは愛知県立美術館、劇場、アートスペース等を備えた総合文化施設で、愛知の芸術と文化の柱です。
もし点在する会場を回ることが厳しいなら、国内外のアーティストの作品が一番集まるこの会場に限定するのをおすすめします!天井の高い大きな空間を生かしたインスタレーション作品などが並び、多彩なジャンルの作品が集まるトリエンナーレの空気が一気に楽しめます。
展示は8、10、11階展望回廊及び地下2階と12階屋上庭園にもあるので見逃さないようにしましょう。(11階回廊の田島秀彦のインスタレーション《6つの余地と交換可能な風景》は見逃しがちですが必見です!)
特におすすめしたいのは、10階にある大巻伸嗣のインスタレーション。花模様で埋めつくされていく真っ白な空間は、現実離れした夢想の感覚を呼び起こします。
同じく10階の三田村光土里のインスタレーション《アート&ブレックファスト》は部屋全体がおもちゃ箱を思わせる実験室のよう。文房具やプラスチックの食器、風船など、見慣れた日用品を組み合わせた空間は、好奇心を呼び起こし、いつまでもいたくなるような心地よさです。
アメリカと日本を拠点にするサウンド・アーティスト、キオ・グリフィスの手がける音楽インスタレーションは、視界を奪う暗闇の中、鑑賞者をぐるっと囲うスピーカーによって成り立っています。ただ音に身を委ねることで自分の中の感覚が研ぎ澄まされます。
ウダム・チャン・グエンはベトナムのアーティストです。カラフルなポンチョとヘルメット、サングラスとマスクをまとったライダーの隊列が雄大なクラシックをバックにホーチミンの街を走る映像はどこか滑稽ながらも、強烈な印象を与えます。この作品は地下2階にありますが、同じ作品は岡崎、豊橋会場でも見られます。
愛知芸術文化センターに展示されているのはインスタレーションだけではありません。大きな画面にモノクロ写真のような鉛筆画を描くニダル・シャメック、「生と死」について考えさせられるコントラストの強い写真を手がける田附勝など、絵画、映像、写真と様々なジャンルの作品が一気に楽しめます。
【2.名古屋市美術館】
近現代美術分野に厚いコレクションをもつ名古屋市美術館は、世界最大のプラネタリウムをもつ名古屋市科学館も建つ白川公園の中にあります。緑豊かな公園に入ると、ジョアン・モデのカラフルな紐を用いたインスタレーションが迎えてくれます。名古屋市美術館の設計は、乃木坂にある国立新美術館を手がけたことでも知られる黒川紀章。館中央吹き抜けを突っ切る回廊、2階の展示室に向かうための外光の眩しい階段(外を覗くとアントニー・ゴームリーの彫刻が寝そべっています!)が特徴的です。
そして展示室最後にある小部屋、決してフラットなホワイトキューブではない挑戦的な展示室は、いつもキュレーターを悩ませるといいます。トリエンナーレ参加アーティストが、そんな空間をどう生かすのか?そのように注目しても面白いです。
イタリア出身のジョヴァンニ・アンセルモはこの黒川建築がもつ「南北の軸」をさらに強調した彫刻作品。ミニマルな作品に刻まれる文字に、彼の哲学が表れています。
佐藤克久は絵画そのもののあり方を実験的に試す作家。独自の規則に従った作品の数々に、不思議と引き込まれてしまします。くすっと笑わせるタイトルにも注目です。
賴 志盛(ライ・ヅーシャン)は美術館地下にある展示室でインスタレーションを手がけました。腰ほどの高さ、横向きで歩くのがやっとの幅の足場がぐるっと囲った部屋で四辺を歩き、上から鑑賞します。落ちそう、という身体的不安定性、越すことも抜かれることも不可能な状況で強いられる他の鑑賞者との連帯性、角度ごとに変わる作品の表情に、感覚が揺さぶられます。
【3.長者町会場】
街を歩きながらのアート体験は、芸術祭ならではの楽しみです。あいちトリエンナーレではおなじみの長者町会場は伏見駅北一帯の繊維問屋街であり、昭和の香り漂うノスタルジックな商店街に作品が点在します。
美術館とは違う、空きビルなどの空間でアートを鑑賞できるのはトリエンナーレの期間だけです。街の日常、歴史などを感じながら散策しましょう。今村文が展示する「喫茶クラウン」では名古屋が誇る喫茶文化も味わえます。
中央広小路ビルにある山田亘『大愛知なるへそ新聞』編集局は演劇性をもったアートプロジェクトの本部。誰でも記者として紙面作成に参加できるプロジェクトは、トリエンナーレ会期中に順次刊行される新聞として人々の手にわたることで成り立ちます。
八木兵錦6号館の2階、3階には日本の若い女性アーティストの手がける空間が広がります。2階の佐藤翠。クローゼットの服などをモチーフとした大きな絵画ですが、支持体がキャンバスでないものがあります。よく見ると、きらきらする仕掛けに気づき、あっと驚きます。3階は今村文の作品があります。たどれば古代ローマまで遡る蜜蝋を使った技法で描き出す花々は、深層心理をつつくような包容力のあり、とても優しい空間に仕上がっています。
ドイツのナターシャ・サドゥル・ハギギャンは学書ビルにあり、うっかりすると見落としてしまうので注意が必要です。ビートの効いたクラブ音楽が鳴る中、スポットライトによって浮かぶ吊るされたリンゴの群、そのシルエット、《労働の成果》という意味深なタイトルはとってもセンセーショナル。大量のユーロ紙幣を粉砕し圧縮した塊の作品も強烈です。
【名古屋地区、そのほか】
その他の会場は、名古屋の中心地である栄エリアにあります。展示会場と通勤や買い物のためにそこに来ている地元の人が混在し、トリエンナーレという祝祭と都市の日常が一番生々しく交わる場所だとも言えるでしょう。
「旧明治屋栄ビル」は戦前から建つレトロなビル。圧倒的な歴史と記憶をまとう建物に気鋭な作品が生きます。剥がれかけた壁や床に目を向け、かつての活気あふれる様子を想像するのもいいでしょう。
特に2階の端聡によるインスタレーションは時間の重みを感じる空間を最大に生かした作品です。「水の循環性」をテーマにしたという作品は、薄暗い空間に湯気が立ち上がる装置が並んだもので、まるで炎を眺めるような気持ちになります。
3階の光溢れる元バレエスタジオを使った寺田就子のインスタレーションと沖縄をテーマにした山城知佳子の映像作品の対比も強烈です。
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✳︎あいちトリエンナーレ2016の楽しみ方!
【あいちへ、名古屋地区間での移動】
東京から愛知へは新幹線が一番速くて便利。「のぞみ」を利用すれば名古屋駅まで1時間45分ほどで到着します。名古屋駅からメイン会場となる愛知芸術文化センター、名古屋市美術館などが集まる栄・伏見エリアへの移動は地下鉄東山線を利用するのが無難です。
展示場所が点在する名古屋地区はすべて歩ける距離にはありますが、毎回15分以上歩く覚悟が必要です。なので、地下鉄やバス、レンタサイクルを賢く利用しましょう。
毎回その年の目玉となるアーティストとコラボするベロタクシー。今回は愛知芸術文化センター10階、損保ジャパン日本興亜名古屋ビル、及び豊橋会場「PLAT」の3会場で展示をする大巻伸嗣がデザインしました。長者町会場と愛知芸術文化センターの間をチケット提示で土・日・祝に無料で利用できます。
歩きとも車ともちがう街並みを感じられます。
【チケット、グッズ】
一般の当日券は1800円、フリーパスは3600円です。主な国際展(現代アート展)会場、及びコンビニでも購入可能です。割引アプリ「ミューぽん」利用で、当日券が200円に引きになります!(3名様まで有効) 全アーティストの紹介の載っているキャラヴァンガイドブックとポケットマップは会場等で無料配布しています
。また、公式グッズを買いたい人は愛知芸術文化センター10階が一番充実していておすすめです。
【名古屋めし】
違う土地に行って楽しみなのはやっぱりグルメ。ひつまぶし、味噌煮込みうどん、味噌カツ、あんかけスパゲティー、天むす、手羽先など多彩な「名古屋めし」を前に、何を食べようか迷ってしまいます。愛知芸術文化センターの隣にある「オアシス21」内、及び栄駅地下街にレストランが並んでいます。
【宿泊】
宿泊は栄駅周辺、及びビジネスホテルが並ぶ名古屋駅周辺が便利。遅くまで開いている店も多いので、名古屋めしとともに名古屋の夜を楽しみましょう。
後編では岡崎、豊橋地区のレポートをお届けします!
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[ミューぽんインターン] 杉浦花奈子: 愛知県出身。美術館を巡るのが趣味で、古今東西の美術を一通りかじってみるものの、落ち着く先がまだ見えない美術史専攻の大学生。日本の美術界の未来を探すべく、上野の森で奮闘中。千代田線が好き。