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「あいちトリエンナーレ2016」のまとめ記事、後編となる今回は、岡崎地区、豊橋地区の国際展(現代美術展)のレポートをお届けします!岡崎や豊橋へ行くことは、名古屋まで行くこともひと息ある人にとっては少しハードルが高いかもしれませんが、名古屋ともまたちがう街の空気、そこに生きる作品の数々が待っているので、多少無理をしてでも足を延ばすことを薦めます。
また、現地で役立つ情報は記事後半に載せています!
◎岡崎地区
岡崎市は、愛知県のちょうど中央に位置する城下町。八丁味噌の生産地として有名なこの街は、どことなく昭和の香りが残り、ゆったりとした空気が流れています。岡崎の人は地元愛が強いことでも有名だとか。近年ご当地ゆるキャラ「オカザえもん」が人気を博し、各所でそのグッズを見かけます。運が良ければ「本人」に会えるかもしれません!
会場は主に【1.名鉄東岡崎駅ビル】【2.岡崎表屋】【3.岡崎シビコ】【4.石原邸】の4箇所です。それぞれあまり近くないので、【会場間の移動】の項も参考にしてください。
【1.名鉄東岡崎駅ビル】
名鉄東岡崎ビルは名鉄東岡崎駅直結のショッピングモール。ポップでファンシーな看板、昔ながらの本屋、眼鏡屋など、昭和の香りが強い店内は、まるで異空間のようですが、どの店もまだまだ現役です。
展示会場である3階に上ると、小さな疑問や発想に導かれ世界各地を移動し制作をする二藤建人の作品空間が広がります。写真、映像、彫刻、インスタレーションと表現メディアはばらばらなものの、すっきりとまとまっています。
【2.岡崎表屋】
岡崎表屋は戦後間もなく建てられた鉄筋コンクリート製の3階建てのビルであり、1階は事務所、2、3階は家族や従業員の住居として使われていました。インド人アーティスト、シュレヤス・カルレがそこで片付けられずに散らかっていたものなどを使い、ビルごと作品に仕上げました。土足で畳に上がる罪悪感、もともとあったのか移動しただけなのか、分からないオブジェたち。生活臭の残る空間と展示物の様子に、展示とは?鑑賞とは?作品とは?という問いで頭がいっぱいになるでしょう。
【3.岡崎シビコ】
東岡崎駅から1kmほどに位置するスーパーや薬局、洋服屋、100円ショップなどが入るショッピングモールです。トリエンナーレの会場となっている6階まで一気にエレベーターで上がるのも楽ですが、エスカレーターと階段を利用した方がこのショッピングモールの表情が見られ、おすすめです。
野村在は爆発という消滅に向かう一瞬の生産を写真、彫刻を用いて表現します。中央の彫刻作品は強化ガラスの箱の中で直径80mにもなる打ち上げ花火を爆発させた痕跡であり、人の力を超えた圧倒的なパワーを感じます。
また、ここはあいちトリエンナーレの中の展覧会「コラムプロジェクト」の会場のひとつ。写真を立体と捉えるなど、新しい表現に挑む若手作家が、トランスディメンションのディレクター・後藤繁雄によって集められました。特に勝又公仁彦の多重露光を用いた作品は一枚の平面に場所/時間を超越したイメージが重なり、映像を見ているかのような感覚に陥ります。
【4.石原邸】
石原邸は岡崎シビコからさらに20分ほど歩いたところにあります。国の登録有形文化財にも指定されている江戸時代後期に建てられたの趣のある町家に作品が溶け込みます。
柴田眞理子は今回の国際展で唯一の陶芸作家。壺などを模した有機的な形に花の模様などがプリントされた軽やかな印象です。「気に入った作品を棚から棚へ移してください」の指示の通り、触れることができます。陶磁器の重みを体感できるまたとない機会なので、慎重に扱い、楽しみましょう。
土間、囲炉裏のある町家。開放的な縁側から吹く風が気持ちいい母屋で楽しめるのが田島秀彦の作品です。タイルやパネル、布を用いて色彩を操るのがうまい田島が見せてくれる新たな景色にとてもわくわくします。
◎豊橋地区
今回よりあいちトリエンナーレに加わった豊橋地区。豊橋市は愛知県の東南、静岡県に接する位置にあり、人口約38万人の中核都市です。路面電車が現役で走る街で、【1.穂の国とよはし芸術劇場PLAT】【2.水上ビル】【3.開発ビル】、【4.はざまビル大場】の4会場で作品を楽しめます。
【1.穂の国とよはし芸術劇場PLAT】
PLATは豊橋駅前にある演劇などが上演ホールを備える総合文化施設で、トリエンナーレでもパフォーミングが予定されています。エントランスには、名古屋市美術館にもあるジョアン・モデの紐の作品が展開され、景観に彩りを与えています。
そして見るべきは大巻伸嗣のスチールでできた大きな壺。建物のエントランスをシルエットが美しく満たすので、夕暮れ時に行くのがおすすめです。
【2.水上ビル】
水上ビルは豊橋ビル、大豊ビル、大手ビルの三つのビルの総称で、もともと用水であった土地をふさいで建てたものです。その名残として、用水を渡していた橋の欄干がみられます。ビル1階部分は商店街のようになっており、花火問屋、ペットショップ、植木屋など、歴史を感じる商店も同時に楽しめます。
ここでおすすめしたいのは、水上ビルの2箇所で展示するリトアニア出身のイグナス・クルングレヴィチュスのインスタレーション。音とシンプルな言葉を用いてわれわれに強烈な印象を残します。水上ビルのうちの西側の作品は、ふたつの画面が対話をするように交互に言葉が浮かんでいくスピード感がとても爽快で、最後まで一気に見てしまいます。
また、ブラジルの女性アーティスト、ラウラ・リマはひとつのビルを上から下まで「鳥のための空間」にしました。「人間のためであった空間」に小鳥が約100羽放し飼いになっており、鑑賞者は「お客さん」としてお邪魔することになります。
【3.開発ビル】
開発ビルは劇場や役所の施設を備えた、またもレトロなビルです。豊橋地区で最も作品が多く展示されています。基本的に各階ごとにアーティストの空間があり、最上階の10階から順次階段を使って降りながら鑑賞します。インスタレーションを中心とする作品群は、部屋の広さや雰囲気を生かしたものが多く、それぞれ必見です!
映像とオブジェのインスタレーションを手がける小林耕平。今回は『東海道中膝栗毛』をテーマに、江戸から京の都への東海道の宿場町で行われる数々の取材を作品としており、もちろん豊橋で撮られた映像もあります。絶妙なテンション、独特な切り口はくすりと笑わせるものが多く、知らないうちに小林の世界に引き込まれてしまいます。
久門剛史は5階で4部屋にわたる大規模なインスタレーションを展開します。空間を最大に生かした光の空間は、ミラーや布を効果的に使っています。しばし思考を止めて感覚に身を任せましょう。
アメリカ出身であるニコラス・ガラニンは先住民族の伝統と現代の感覚を融合した衣装を制作します。ずらっとマネキンが並んだ空間はファッションショーのようです。
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✳︎あいちトリエンナーレの楽しみ方!
【グルメ】
・岡崎地区
岡崎会場では名産品である八丁味噌を使った料理を是非味わいたいものです。また、岡崎シビコ裏の和泉屋の葛餅バーは絶品です!
・豊橋地区
養鶏で有名な豊橋では、ぜひ焼き鳥やウズラの卵を使った料理を食べてみてください。水上ビル1階も昔ながらの鉄板屋、クラフトビールや地元料理が味わえるおしゃれなバー、純喫茶など、新旧混じった魅力的なお店が並びます。
【アクセス】
岡崎会場は名鉄「東岡崎駅」下車となります。(JR岡崎駅もあるので注意!!)
・名鉄名古屋ー東岡崎 (特急または快速特急乗車で約30分 片道660円)
豊橋会場は名鉄/JR「豊橋駅」下車です。
・名鉄名古屋ー豊橋(快速特急乗車で約50分 片道1110円)
・JR名古屋ー豊橋(新快速乗車で約50分 片道1320円)
東岡崎ー豊橋(快速特急乗車で約20分 片道550円)
東京からの場合、豊橋駅は新幹線「ひかり・こだま」が停車するので、計画的に利用すると時間もお金も抑えられます。
【会場間移動】
岡崎地区は各会場が離れているので、あいちトリエンナーレ限定の無料レンタサイクルを利用するといいでしょう。また、チケット提示で乙川を渡す和船に乗ることができます。時間に余裕があれば、岡崎のおもてなしを楽しむのいいかもしれません。
一方の豊橋地区は比較的駅周辺に会場が集中しているため、十分徒歩で移動できますが、豊橋駅と開発ビル、はざまビル大場、そして豊橋公会堂や豊橋公園方面とを結ぶ路面電車に揺られてみるのも楽しいです。日中は7分間隔で運転しています。
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以上前編、後編とあいちトリエンナーレ2016のレポートや見どころをお伝えしました!名古屋、岡崎、豊橋の3地区を回るだけでも今回のテーマでもある旅の感覚を味わえると思います。芸術監督である港千尋をはじめとした鋭い感覚をもったキュレーターが集めた世界中のアーティストは多彩で、力のこもった作品は2016年の今見たいものばかりです。古いビルを使った会場で、階段を上下すること、会場間を移動することもふまえてぜひ歩きやすい靴で!あいちトリエンナーレを楽しんでください。会期は10月23日(日)までです。
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[ミューぽんインターン] 杉浦 花奈子: 愛知県出身。美術館を巡るのが趣味で、古今東西の美術を一通りかじってみるものの、落ち着く先がまだ見えない美術史専攻の大学生。日本の美術界の未来を探すべく、上野の森で奮闘中。千代田線が好き。