公開日:2014年9月2日

札幌国際芸術祭(SIAF)2014フォトレポート

テーマ「都市と自然」に呼応したアーティストたちの多彩な作品が集結。北海道・札幌という都市のあり方を考察する知的な芸術祭。

北の大地、札幌で今年初となる国際芸術祭が開催中だ。
札幌国際芸術祭2014(通称SIAF)は、札幌の歴史や風土、インフラ、産業、そして北海道の雄大な自然などに焦点を当て、都市における様々な課題をアートの視点から振り返る試み。今回はゲストディレクターに坂本龍一を迎え、メディアアートを数多く含む多彩な作品が集結した。ここでは芸術祭のみどころを一部ご紹介!

中谷芙二子《FOGSCAPE #47412》2014
中谷芙二子《FOGSCAPE #47412》2014

中谷芙二子《FOGSCAPE #47412》
中谷芙二子《FOGSCAPE #47412》

今回のテーマは「都市と自然」。明治期以降の近代化と共に道路やインフラが整備されていったモダンシティ札幌と、そのすぐ隣に存在する大自然という両側面から、都市における人間と自然のあり方を考察する。今回のメイン会場の一つである札幌芸術の森美術館もまた、豊かな森に囲まれた場所。美術館の入り口では、“霧の彫刻”を生み出す中谷芙二子の作品《FOGSCAPE #47412》が観客を出迎えてくれる。天候や風などによって無限に変化する霧のランドスケープは、周囲の環境にとけこんで様々な表情を見せてくれることだろう。

スボード・グプタ《ライン・オブ・コントロール(1)》2008 Courtesy of the Artist and Arario Gallery
スボード・グプタ《ライン・オブ・コントロール(1)》2008 Courtesy of the Artist and Arario Gallery

インドの作家スボード・グプタは、インドにおける大量生産や消費社会の現状をアイロニカルに表現した作品《ライン・オブ・コントロール》を出展。大量に集積された安価なステンレス食器で構築した巨大なキノコ雲は、とどまることを知らないインドの人口増加や急速な近代化を彷彿とさせる。経済発展を遂げるアジア諸国において、現代アーティストたちもまた、今後更なる勢いを増していくだろうと予感させる作品だ。

スコットランド出身の作家スーザン・フィリップスの作品《カッコウの巣》は、芸術の森野外美術館の木々の中にある。作品のありかをスタッフに尋ねると、「歩いているうちに聞こえてきますよ」との答えが返ってきた。それもそのはず、フィリップスの作品は「声」そのものであり、まるで鳥たちが歌っているかのように、木と木の間から彼女自身の清涼な歌声が響きわたってくるものなのだ。ぜひこの場所を訪れた際は、森の中にゆったりと腰かけ、自然と一体化するような歌声に耳を澄ませてみてほしい。

アンゼルム・キーファー《メランコリア》 福岡市美術館蔵
アンゼルム・キーファー《メランコリア》 福岡市美術館蔵

現代ヨーロッパを代表するドイツ人作家、アンゼルム・キーファーの作品《メランコリア》。鉛で作られた戦闘機に、戦後ドイツが直視しなければならかった歴史が垣間見える。

続いてのメイン会場、道立近代美術館。雪の科学者・中谷宇吉郎の研究資料を元に、ダムタイプの高谷史郎がアーティスティック・ディレクションを行った特別展示は必見!「雪は天から送られた手紙」という言葉でも知られる中谷は、北海道大学において生涯をかけて雪の結晶や、世界初となる人工雪の製作の研究などに勤しんだ科学者。今回、高谷はゲストディレクターの坂本龍一やキュレーターの飯田志保子らと共に、中谷の膨大な研究資料の中からきわめて美しい図像を描く雪の写真をセレクトした。自然界が生み出す「カタチ」の美と静かに対峙できる魅力の空間だ。

岡部昌生《YUBARI MATRIX 1992-2014》
岡部昌生《YUBARI MATRIX 1992-2014》

札幌の近代化の背景には、炭鉱の産地として栄えた歴史がある。作家・岡部昌生はこの北海道の炭鉱に焦点を当てた作家のひとり。元より広島の原爆跡や都市の痕跡をフロッタージュの技法で浮かび上がらせる作品を作り続けていた岡部は、今回のために炭坑跡地の大きな遺構を磨り出すドローイングを制作。会場ではドローイングの上に強化ガラスを敷き詰め、来場者が歩いて遺構の跡を体感できるインスタレーションを展開した。

天才彫刻家イサム・ノグチの遺志を引き継ぎ2004年にオープンしたモエレ沼公園は必ず訪れてほしい展示会場だ。まず、別世界に迷い込んだかのような、すべてが美しくデザインされた環境に目を見張ることだろう。「地球を掘りたい」とノグチが空想したこの一大公園は、ひとが歩く姿までも完璧にデザインされた、世界最大級の彫刻作品といえるだろう。

SIAF関連作品としては、ガラスのピラミッド「HIDAMARI」内に真鍋大度 + 坂本龍一の作品《センシング・ストリームズ—不可視・不聴—》が展開されている。モエレ沼公園、そして後述する地下歩道の展示会場(チ・カ・ホ)に設置されたセンサーのデータを元に、映像と音による可視化・可聴化を試みた作品だ。

真鍋大度 + 坂本龍一《センシング・ストリームズ—不可視・不聴—》
真鍋大度 + 坂本龍一《センシング・ストリームズ—不可視・不聴—》

また、同じくピラミッド内には坂本龍一 + YCAM InterLab 《フォレスト・シンフォニー in モエレ沼》もある。こちらは世界各地の森の中にセンサーを取り付け、木々の環境を取り巻く生体データからサウンドが発生する作品。今回はYCAMで制作された本作品の再構築にあたって、ルイ・ヴィトンが全面サポートを行っている。
このピラミッド内には、都市の中の人々、そして森の中の木々のデータという、正しく「都市と自然」両方から発生したサウンドが体感できる。その差異を比べてみるのも面白いかもしれない。

坂本龍一 + YCAM InterLab《フォレスト・シンフォニー in モエレ沼》(supported by LOUIS VUITTON)
坂本龍一 + YCAM InterLab《フォレスト・シンフォニー in モエレ沼》(supported by LOUIS VUITTON)


毎日7万人が通行するさっぽろ駅直通の地下歩道(通称チ・カ・ホ)ではSIAF特別展示「センシング・ストリームズ」が展開され、地下歩道の一部がSIAFでジャックされている。オフィシャルグランドパートナーのルイ・ヴィトンの広告では、ユルゲン・テラーやブルース・ウェーバーの写真が登場。

菅野創 + yang02《Semi-senseless Drawing Modules》2014
菅野創 + yang02《Semi-senseless Drawing Modules》2014

チ・カ・ホで最も大きな注目を集めているのは、菅野創 + yang02による《Semi-senseless Drawing Modules》だ。横幅約20mほどの壁面に、30個弱のペンを取り付けたモジュールが自動的に絵を描き続けるインスタレーション。センサーが感知した通行人のデータがモジュールに送られ、まるで機械が意志を持っているかのような複雑な動きを見せる。

毛利悠子《サーカスの地中》2014
毛利悠子《サーカスの地中》2014

最後に、ぜひ訪れてほしいのは札幌駅から徒歩10分ほどに位置する明治初期の建築・清華亭における毛利悠子のインスタレーション《サーカスの地中》だ。すべてコードでつながれたガラクタのようなモノたちが、ときに回転したり、音を鳴らしたりと有機的な連携を結ぶ。100年以上前に建てられた和洋折衷の趣きある建築物と見事に調和し、独特の生態系が生まれている。

SIAF2014は9月28日まで、この機会に夏の札幌を満喫してほしい。

札幌国際芸術祭2014
公式ウェブサイト

Text by Arina Tsukada
Photo by Xin Tahara

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