第16回を迎える岡本太郎現代芸術賞(通称「TARO賞」)の受賞作品が決定した。
岡本太郎の没後から始まった本アワードは、氏の遺志を継いで、次の時代を創造するに相応しい作品を選出していく賞である。
応募総数739点の中から見事大賞に値する岡本太郎賞を受賞したのは、作家・加藤智大の《鉄茶室「徹亭」》。
建屋や床の間、掛け軸、茶道具、生け花など、「茶室」を構成するすべての要素を、鉄で制作した作品である。
加藤は一貫して鉄の素材にこだわり続け、これまでもネクタイや葉書、電球や刷毛などの日用品を鉄で作成しながら、物質と社会の関係を問う作品を生み出してきた。受賞に至った本作では、日本の工芸世界に再度目を向け、繊細かつ機能的な茶道具を精密に再現しながら、ミニマルで濃密な茶室空間を見事に鉄世界へ変容させている。
そのほか、岡本敏子賞は石山浩達の《Alien Vision: unlimited oil》、特別賞に内山翔二郎《Never die》、eje(エヘ)《ものおと》、桒原寿行《Eye》、小松原智史《コマノエ》、湯浅芽美《Momently stratum》らが受賞し、ほか15名の作品が入選。
入選並び入賞作品は今年2月9日(土)から4月7日(日)まで、川崎市岡本太郎美術館で開催の「第16回岡本太郎現代芸術賞展」にて展示される。
——作家・加藤智大からのコメント
「今作の《鉄茶室 徹亭》は、これまでの私の作品とは比較出来ない程に様々な方々が関わってくださり、その出会いや、繫がり、御縁無くしては実現出来なかったと断言できる作品です。その一つ一つの思い出はとにかく愛おしく、作品の実現以上に大切な財産となっております。今回の授賞を、御支援賜りました方々と喜びを共有出来る事を誠に幸せに思っております。
私はこれまで、一貫して鉄で作品を作って参りましたが、その全てが自身と物質との感覚に根ざしています。今作の取材の為に生まれて初めてお茶時に招いていただき、貴重な御茶碗を拝見させていただいたおりに、『ほう、なるほどなるほど…』などと御茶碗を手に取りアホヅラでいると、同席されていたお客様が不安そうな表情で、『お道具を拝見する時は、姿勢を兎に角低くして見てください。』と優しく御指摘してくださいました。私はハッとして周りを見渡すと、ネットスラングでの正に『orz』の姿勢でお道具を見ていらっしゃる! 万が一手を滑らせて落としてしまっても、貴重なお道具を壊してしまわないようにとのお客側のマナーなのだそうです。にも関わらず、知らなかったとはいえ天に届くのではと思うほどの私の座高にまでお道具の高度は上昇し、同席した方々をハラハラさせてしまったのです。
私は衝撃を受けると同時にとても感激したのを強烈に憶えています。なぜなら、お道具という物質が、その道具自体の用途を越えて人の姿勢を制限させる作用を持つのです。即ち、物質が人を動かす。先ほど、自身の物質との感覚と書きましたが、まさにそこに直撃したのです。日本の文化と物質の深い関係性を再認識し、確信をもって制作出来ました。
美術館に足を運んでくださり、私の作品を見ていただける方々には、是非とも日本に根ざした特異な工芸感、鉄特有の存在感、全てが鉄であるという強烈な物質感、などなど、体感してくだされば幸せに存じます。」
執筆:塚田有那