東京文化発信プロジェクトの一環として開催される「六本木アートナイト」が二年ぶりに開催されました。3月24日から25日にかけてオールナイトで開催された同イベントは、まだ肌寒い中ではありましたが多くの人々で終夜にぎわいました。
日没後、いよいよコアタイムがスタート! 六本木ヒルズアリーナには草間彌生さんが登場です。巨大な《ヤヨイちゃん》に犬の《リンリン》。六本木交差点のアマンド、東京ミッドタウンのyao_ESTAbLISHも水玉でジャック! 国立新美術館にはトレードマークのカボチャ。六本木一帯を盛り上げる草間さんが、ミュージシャンのテイ・トウワさんによるおだやかな音楽にのせて、美しい桜を見て生と死をうたった「さくらの花」ほか3つの自作の詩を朗読しました。
先立って開催された記者発表ではこんなお話も聞かせてくださいました。
(東日本大震災が起こって)いま人生の最悪の場所に立っているけれど、
志を高くもち、強く立ち上がって、新しい日本と言う国を立ち上げていきましょう。
日本は世界にとって大きな存在。日本の力強さをみせていきましょう。
楽しくいきていこうではありませんか。
どうか私の生き様をみてください。立ち上がったヤヨイちゃんは、新しい希望の的。
皆さんはすばらしい社会の中に立っていることをどうぞお忘れなく。
明日の希望のためにすべての自分の生と死をもって生きてほしい。
孤独の中で涙をこぼしながら自分の新しい生き方を模索していたと幼少期を振り返り、まっすぐな目で、そう語りました。
その後も六本木ヒルズアリーナでは、オールナイトで朝までさまざまな催しが続きました。
午後8時になると遠藤一郎さんが登場。学ラン姿に身を包んだ我武者羅應援團による応援歌に迎えられ黄色い「未来へ号」で到着しました。
この日発表した《未来へ号 RAINBOW JAPAN 2012》は、未来へ号バスで、日本各地で出会った人に車体にメッセージを書いてもらい、その移動の軌跡をGPSで記録し、日本列島をキャンバスにメッセージを描くプロジェクトです。鹿児島から北海道に向かって「いっせ〜の〜せ」と描いた遠藤さん。「こんなことを普通やりますか! バカかー!」と六本木ヒルズアリーナに集まった大勢の観客の前で言われながらも、歓声の中をこそばゆそうに笑顔で登場。
いつも体当たりの遠藤さんのアクションは「バカ」で痛々しい。でも彼の姿に元気をもらった人もたくさんいるはずです。
「彼の生き方を見ていると 未来は待っているのではなく 自分でもがいて必死に がむしゃらに自分でつかみ取るものだ。だから俺たちも やれるんですよ もがきながらも苦しみながらも自分自身の行動を信じて俺らもやるんだ」
我武者羅應援團の武藤正幸さんは集まった観客へエールを送りました。そしてラストは集まったみなさんと「いっせ〜の〜せ」のコールで一同にジャンプ!
遠藤さんも参加する「Roppongi Agora」では、実際に被災地に赴き、支援しながら今日まで歩んできたアーティストたちの作品や活動を紹介。日比野克彦さん、東北芸術工科大学の学生復興支援チーム〈福興会議〉、藤井光さん、トーチカ、荒井良二さんなどが参加しました。
東京ミッドタウン ガレリアには東北各地の伝統的な文様をまとった《花子》が登場。全長13mもの巨大なこけしが、歌を歌ったり、話をしたり。
六本木アートナイトでは、音楽やパフォーマンスも楽しめます。この日、スマートフォンを通じて、六本木の町中でその場所のためにつくられた音楽が聞こえる音楽体験ができる「Musicity Tokyo」がお披露目されました。
その第一弾となった「Musicity in Roppongi」。楽曲は、日英のアーティストたちが六本木の場所をテーマに制作したもので、六本木アートナイト当日には蓮沼執太をはじめとする参加アーティストによるスペシャルライブも開催されました。
「Roppongi Agora」のプログラムの1つ、深夜教室『ぼくらの未来美術』では、学生から公募したプロジェクト・プランのプレゼンテーションが行われ、宮島達男、ヤノベケンジ、中山ダイスケ、名和晃平の現代美術家教授陣がディスカッションを繰り広げました。
*プレゼンテーション、ディスカッションのアーカイブはこちらからご覧いただけます。
http://www.ustream.tv/recorded/21326129
東日本大震災の影響による電力問題、余震などを考慮して中止となった去年の六本木アートナイトから一年。「アートに何が可能か?」この問いかけに多くのアーティスト、美術関係者が直面し、それぞれの方法と信念で取り組んできました。3.11から一年が経ちましたが、六本木アートナイトに訪れた多くの皆さんが、いまも震災のことを忘れずにいる姿も印象的でした。「新しい希望」を持って進んで行こう、真っ赤なワンピースに身を包んだ草間彌生さんのまっすぐなメッセージは私たちもいま立ち上がるのだ、と元気づけてくれました。
「皆さんはすばらしい社会の中に立っていることをどうぞお忘れなく。」
TABlogライター:吉岡理恵 富山生まれ。アートプロデューサーのアシスタントを経て、フリーランサー。展覧会企画、ウェブを中心に、エディター、ライターとして活動。他の記事>>