楽しいことが好きなTABチームの雑談から生まれた「空間のコンセプトに合わせた服でアートを見に行こう!」という内部企画。今回は、ずっと気になっていたけれど、チームのほぼ全員がなかなか訪れる機会のなかった場所、三鷹天命反転住宅をおうかがいしてきました。
今回私たちが独自に設定したドレスコードは、「とにかくカラフルに!」。
一行は、鮮やかなコスチュームを個々に身にまとい、現地へと向かいました。
「三鷹天命反転住宅 In Memory of Helen Keller」とは、芸術家であり建築家の荒川修作+マドリン・ギンズが2005年に完成させた住宅です。三鷹の住宅街に立ち並ぶ、一見奇抜で、歩く人の目を引く鮮やかな建物。そこは、私たちの常識や感覚を揺さぶるような、魅力的な空間でした。
※ 本企画は、荒川修作+マドリン・ギンズによる建築事務所であり、この住宅の管理・運営を行う株式会社ABRFのご協力を得て、許可の下、撮影を実施しています。また、見学には事前予約が必要です。詳細
担当学芸員を務めるABRF松田さんによる案内のもと、三鷹天命反転住宅を手で、足で、目で体感してきました。今回私たちが見せていただいたのは、ショートステイも可能なお部屋と、ABRFが事務所として使っている部屋です。
建物には全体で14色が使われ、どこから見ても常に6色以上が視界に入るように計算されているのだそう。当時、ニューヨークを活動拠点としていた荒川氏は施工中に度々来日して色校正を6回も重ねたというから、色彩にどれだけ入れ込んでいたかがうかがえます。私たちのカラフルファッションも、そんな建物の一部であるかのように、それぞれの個性を放ちながら溶け込んでいました。
この住宅には、住居には欠かせないタンスやクローゼットなどの収納スペースがありません。荷物を収納するためにはどうすればいいのでしょう?色々なアイデアが生まれてきそうです。私たちは試しに、天井に無数に取り付けられている金具に、細長いフックを引っ掛け、そこへ鞄や上着を吊るしてみました。
これぞ「見せる」収納。収納という作業についてこれほど考えさせられることは、普通の家に住んでいたらほとんどないかもしれません。お気に入りの鞄を吊るすことで、空間の雰囲気が一気に変わりました。
ここでは、住居の中でも大部分を占める床が、平らなフローリングではなくでこぼこなのです。このでこぼこは、大人の土踏まず、子供の土踏まずの大きさに合わせて作られているそう。荒川とギンズの、歩くことをもっと意識してもらおうという意図が感じられます。
そこでTABチーム一行は、目をつぶったまま部屋の中を一周してみました。すると、手や足、身体が目の代わりになり、「この壁はこんな手触りだったんだ!」「この角はこんな形をしていたんだ!」などと感覚が研ぎ澄まされているのに気づきました。
次に、球体の部屋を体験。内部が黄色一色になっているこの部屋は、「重力を感じる部屋」と呼ばれています。中に入ると、隣で話す人の声があちらこちらから聞こえたり、なんとなく耳に「重さ」を感じたりする不思議な空間。住人の中にはこの部屋をオーディオルームにしている方もいるそうです。
この住宅は、扉の数が最低限に限られています。そして、なんとトイレにも扉がないのです。扉がないことに衝撃を受けるTABチーム。トイレの在り方をも根本から考え直させられました。
見学が終わりに近づくと、TABチームのそれぞれが自然とお気に入りの場所を見つけ、まるで自宅にいるかのような安らぎに浸っていました。
ここにいると、通常の生活では必要とされないような身体の動きやバランス感覚が養われているような気がしてきます。「死なないための住宅」として荒川修作+マドリン・ギンズが手がけた三鷹天命反転住宅は、私たちが忘れていた感覚を呼び起こしてくれる、そんな力をもった住宅でした。
■ 三鷹天命反転住宅 http://www.architectural-body.com/mitaka/
[TABインターン]
樋口葵:愛知県出身。都内大学で西洋史を学ぶ傍ら、小さい頃から興味のあったアートに何らかの形で関わりたいと思っていたところ、TABに出会う。現在は、TABの活動を通してアートに触れる毎日に喜びを感じている。
[写真]
鈴木孝史:東京都出身。大学卒業後、システムエンジニアとして働いていた時にアートと出会い、現在は展覧会のキュレーションに関わるなど幅広く勉強中。また自身も写真作家として活動している。
http://www.takashi-suzuki.com
佐々木朋美
http://www.flickr.com/photos/ripplet/sets/72157628188164493/