暗闇のホールに足を一歩踏み入れると、まるで非現実的な異空間に入り込んだような感覚になりました。カメラレンズを観客に向けながら歪に動き回るロボットアーム。観客の動きに合わせてざわざわとうごめき、まるで昆虫の触毛を思わせるような壁面。そして奥にはハニカム状のモニターを複数収めた巨大な円形スクリーンが、会場内の観客やどこか見たこともない場所などを、様々な色彩を伴い目まぐるしく映し出しています。それは異様であると同時に、どこか畏敬の念すら抱かされてしまう圧巻の光景でした。
本展は、2010年に山口情報芸術センター [YCAM] にて公開された大規模なインタラクティブ・インスタレーション《欲望のコード》の新バージョンとして、本年10月22日よりNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]にて開催されています。本作品群は「現在の情報化された環境と知覚に生きるわたしたちの新たな欲望とはなにか」を問題意識として、映像、音響、データなど、さまざまなネットワーク環境からの情報を、自律的なシステムを持つコードによって再構成することで制作されています。それぞれのカメラの映像データは、世界各地の公共空間にある監視カメラの映像とともに独自のデータベースを構築し、過去と現在や会場と世界各地の映像が、複雑に交錯しながらスクリーンに投影されているそうです。
インターネットショッピングや施設利用のためのオンライン会員登録など、私たちは日々の生活の中でさまざまな情報を仮想空間へ提供しています。そしてそれらの情報は、私たちの気づかないところでコード変換を経てデータベースに蓄積され、新たなる情報の体系を作り出します。もしも突然、そのような事態とインタラクティブに対峙することになれば、自分という枠組みを超えた「何か」を感じてしまうのは私だけではないでしょう。目まぐるしい消費活動を繰り返す情報化社会の現代だからこそ、このような表現が必要とされているのかもしれません。
[執筆]
鈴木孝史:東京都出身。大学卒業後、システムエンジニアとして働いていた時にアートと出会い、現在は展覧会のキュレーションに関わるなど幅広く勉強中。また自身も写真作家として活動している。http://www.takashi-suzuki.com
(編集:坂井)