夏の電力不足に対する節電への取り組みが7月に入り、いよいよ本格的になりました。早朝の涼しい時間から仕事を始めるサマータイムを導入する企業や、月の残業を全廃する企業も。いつもとは違う夏に、なんだか気疲れしていませんか? でも、ちょっと考え方を変えてみれば、毎日仕事が早く終わるなんて、今年はいつも以上に夏の夜を満喫できるチャンスですよ! さぁさぁ、まっすぐ家に帰らずに、会社帰りの寄り道、楽しんでみませんか?
そうはいっても「会社帰りの寄り道」で、思いつくのは飲みに行くか、TAB読者であれば、夜間開館している美術館くらいなもんで……。
せっかくの夏なんですから、いつもと同じでは少しもったいない気がしますよね。そんな皆さんにお勧めしたいのが、「谷中妄想カフェ~ちょうちんもってちょっとそこまで~」。
このイベントは、ナビゲーターと共に、ちょうちん片手に谷中の街をめぐる、少人数制の夜の散歩ツアーです。”妄想”、少人数、夜の……なんだか、ムフフなことを想像してしまう前に、この企画を運営する「一般社団法人 谷中のおかって」代表理事の渡邉梨恵子さんに話を伺いました。
「谷中は寺や墓地がたくさんあり、緑が多く、空も広い。都心にこれほど近いエリアでありながら、ゆっくり空を見上げたり、虫の声に耳を澄ましたり、五感を使って楽しむことができる街なんです。妄想カフェは、普段散歩をしない人にも、五感が開かれていく気持ちよさを感じてもらえる散歩ツアーだと思います。」
「妄想カフェ」というネーミングが気になるんですが、その由来は? ちょうちんを持ちながら散歩するというアイデアはどのようにして生じたのですか?
「谷中が普段持っている街の魅力を引き立てるのに、ちょっとしたスパイスを加えたかったんです。そのためには”想像力”と”妄想”が必要かな、と思って。ちょうちんの明かりは谷中にとって外せない要素だと考えたんです。ですので、今回の企画は『ちょうちん』ありきの企画なので、はじめから使おうと思っていました。」
もともと散歩スポットとして人気が高く、天気の良い週末ともなると、老若男女問わず、多くの観光客が地図片手に訪れる街、谷中。しかし、夜ともなると観光客はまばらになります。TAB読者の皆さんも、昼間訪れることは多いかと思いますが、夜の谷中を歩くなんて、地元に住んでいない限り、おそらくほとんどないのでは? 夜の帳が下りる頃、すっかり静けさを取り戻した谷中で繰り広げられる「妄想カフェ」、ちょっと覗いてみませんか?
というわけで、さっそく妄想カフェへ参加してきました。
まずは、大正5年に建てられた出桁造りの町家が特徴のカヤバ珈琲で、今回案内してくれるナビゲーターと待ち合わせ。昼間は、近くのギャラリーに訪れた人やデートを楽しむカップルで賑わう人気のカフェも、夜になるとバーに変わり、地元の常連客が集います。予約の時間になると、ナビゲーターがカフェにやってきました。ちょうちんのろうそくに火を灯してもらったら、ツアーのはじまり。カフェを出て、夜の谷中の街へ繰り出しましょう。
ナビゲーターはメイン担当が4名。今回のナビゲーターは、浴衣がとてもよく似合う倉さんと、ペタペタと裸足でアスファルトの上を歩く姿が印象的なカニさんです! 倉さんは普段は日本語教師をしながら海外を巡っていますが、今回はたまたま、谷中にあるおばあさんの家に一時帰国中とのこと。カニさんのご自宅は近くのお寺だとか。生粋の「谷中っこ」に案内してもらいました。
おけいこ横丁と呼ばれる通りから聴こえてくる三味線の音に耳を傾けてみたり、お寺の垣根に咲いた花から漂ってくる香りを嗅いでみたり。
お寺につづく細い裏道や、入り組んだ路地を通るたび、古くから続く町並みの中で、いつもと違う暗がりを感じて、感性や観察力が徐々に高められていきます。一人で歩くと、ただただ不気味な暗闇も、五感を使うと、いろいろなものが見えてきます。今なら想像力ゆたかに『妖怪』や『目に見えない何か』が心に描けてしまうかもしれません。
そもそも「谷中妄想カフェ」は、三年前に発足した「ぐるぐるヤ→ミ→プロジェクト」の一環で行われている企画です。このプロジェクトを運営する「谷中のおかって」は、谷中界隈に若き表現者や芸術企画者のプラットフォームを築き、市民や学生を含むさまざまな人々が企画参加できるような連携システムをつくろうとさまざまな催しを行っています。今回の妄想カフェを実施するにあたり、古い地図を参考に実際に街を歩いたり、古くからこの街に住む地元の人々へのリサーチを何度も行ったりしたそうです。若き表現者たちと地元住民の方とのコラボレーションもありますよ。
「普段は見過ごしがちなところにこそ、ストーリーがあります。そこに妄想カフェのためだけの仕掛けをいくつか施していますが、嘘か真かその境界線は曖昧です。そこを妄想しながら楽しんでください。」と渡邊さん。
妄想カフェの素晴らしいところは、ちょうちんを持って一歩カフェを出れば瞬時に妄想の世界に飛び込めること。そして、それを偶然同じ時間に散歩ツアーに居合わせた誰かと共有できることです。けれど、そんな妄想の世界は、現実に戻ってしまえば、すぐに忘れてしまう儚いもの。その儚さもまた、よいものです。気心知れた友人、恋人はもちろんのこと、ツアーに同席した初対面の人たちと存分にそれぞれの妄想を語り合ってみてください。
節電の夏、ライトアップの自粛やイベントの中止が各地で相次ぎ、夜の街は暗いけど、そんな暗さも積極的に楽しめる妄想の旅に、さあ出かけましょう!
ぐるぐるヤ→ミ→プロジェクト
http://okatte.info/guruyami/
谷中のおかって
http://okatte.info/
TABlogライター:高木美希 横浜生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。アートとは無縁の生活を送ってきたが、PR会社勤務時代に、現代アートと運命的な出会いを果たす。すぐれた作品に出会うとき、眠っていた感覚や忘れていた感覚が呼び起こされる、あるいは今までに経験したことのない感覚に襲われるあの感じが好き。趣味は路地裏さんぽ。他の記事>>