埼玉県川口市にある、SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ映像ミュージアムで、八谷和彦による展覧会が開催されている。
メールソフト「ポストペットPostPet」の発案者として知られる彼は、4月18日(発明の日)生まれであることから、発明系アーティストとして紹介されることもある。
これまで、「風の谷のナウシカ」に登場するメーヴェの模型など物語に登場する装置を実際に作るというプロジェクトや、コミュニケーションをテーマとした作品を制作してきた。なかでもメーヴェは、実際に飛行できる「パーソナルジェットグライダー」を作るという「OpenSkyプロジェクト」の一環として作られた作品で、このプロジェクトは、最終的にきちんと飛行機として機能する機体の完成を目指し現在も進行中だ。
http://www.petworks.co.jp/~hachiya/works/OpenSky.html
さて、この展覧会は、4つの体験型作品で構成されている。
まずは、初期の作品である《視聴覚交換マシン》。これは、二人一組で体験する作品で、それぞれが背中にアンテナの入った装置を背負い、へッドマウントディスプレイとヘッドフォンを装着すると、相手の見ているものが見え、相手の聞いている音が聞こえるという作品。
会場では、実際にこの《視聴覚交換マシン》を体験することができる。1993年の発表以来、実際に体験できる機会は2、3回ほどしかなかったというので、貴重なチャンスだ。
装置を着けたら、ペアになった相手の姿を探して歩き回るのだが、それはつまり、相方の目に見えている自分自身の姿を探すということになるのだ。実際に歩き出してみると、自分の動きと映像の動きのズレに困惑する。そして、相手の身長から見下ろした(見上げた)自分自身の姿が不思議でありながら新鮮にも感じられる。
最終的に、映画『ET』の「指タッチ」が相手とできるようになったらかなりの上級者とのこと。
また、会場では、過去に行われた「視聴覚交換マシン」の体験ワークショップの模様がビデオで流れている。1993年にレントゲン藝術研究所でこの作品が公開された当時の映像を見ると、体験者のうちの一人が実はピュ〜ぴるだったりする。アートファンにはこちらも見どころだ。
二つ目の《見ることは信じること》は、電光掲示板にチカチカと明滅するLEDを、箱型ビューアーを通してみると文字として読めるという作品。本来は、ネット上で集められた不特定多数の人の日記が流れるという作品なのだが、本展では、会場内に設置されたコンピューターに来場者が打ち込んだ日記が流れるようになっている。この電光掲示板は、一部の光以外は赤外線で表示されるように設定されているので、肉眼では星が流れているようにしか見えない。箱型ビューアーには、赤外線を可視化する装置が仕組まれているので、箱から覗くと表示されている文字が読めるようになるという仕組みだ。
この箱型ビューアーには「ヒツジ」という名前がついている。これは「星の王子さま」に出てくる、王子が欲しがった羊が入っているというあの箱、という設定なのだ。
電光掲示板に点滅する光はまさに星のようだし、「星の王子さま」の世界との連想は、「大切なことは、目に見えないんだ」という王子の言葉を思い出させると同時に、この作品が持つ重要なメッセージにもつながっている。
なお、本来肉眼では赤外線を認識することはできないが、あるコツを掴むと、「ヒツジ」無しでも流れている文字を読めるようになるというので、練習してみるのもいいかもしれない。
3つ目は、《コロボックルのテーブル》。
これは、「フェアリーファインダー」というシリーズの作品。「フェアリーファインダー」を直訳すると「妖精を探す」という意味で、これは文字通り「不可視なものを考える」ことをテーマにした作品だ。テーブルにはめこまれたディスプレイの上で、偏光板でできたコースターを動かすと、時折姿を見せるコロボックル(コビト)に出会えるのだ。八谷さんがお子さんのために作ったら、きゃっきゃと大喜びしたということだが、これは、子どもでなくても、大人でも思わず感嘆の声をあげてしまう。
4つ目の《フェザードフレンド》も「フェアリーファインダー」シリーズの一つ。
頭上に吊るされた大きな鳥かごに、響き渡る鳥のさえずり声。鳥かごの真下に置かれたテーブルの上だけがライトアップされている。そこで、舞踏会風のマスクをつけてテーブルを見つめるていると、やがて光の中になにやら動き回る生きものたちが見えてくる。タナカカツキの創作による鳥人をモチーフにしたという生きものは、ユーモラスな姿と動きでテーブルの上を駆け回り、見ていて飽きない。
今回の展示で使われている大きくて素敵な木製の鳥かごは、インドネシアで《フェザードフレンド》を公開した際に現地で買ってきたというもの。同じく現地で録音してきたという鳥のさえずりが聞こえ、ここでないどこかへワープしたかのような感覚を覚える。
このように、彼の作品はまるで魔法のような仕掛けに溢れている。決してオカルトとしての魔法ではなく、どれもいわば「タネのあるマジック」なのだ。それは必ずしも科学者レベルの知識がなくても、仕組みを聞けばなるほどと理解できる。
たとえば、《コロボックルのテーブル》は、液晶ディスプレイの仕組みについて勉強しているうちに、ディスプレイに貼ってある偏光板フィルムを剥がしてみたら見えなくなる映像があるのではないかと思いついたところから作品ができていったと彼はいう。
普段の生活の中で疑問さえ持たずに触れていることについて、もう一歩興味を持って踏み込んでみることで、新しい視点が開けるということに気づかされる。そして、目に見えないものを見ようとする気持ちによって新たな好奇心の扉が開かれる。
「どういう仕組みになっているんだろうという気持ちを大切にしてほしい」
物事の仕組みを考える科学と、当たり前に受け止めている世界を違った視点から見るきっかけを与えてくれる芸術は非常に近いということを改めて実感する。
さて、SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ映像ミュージアムは、子どもから大人まで映像について学べる施設で、映像の歴史や撮影を体験できる本格的なセット、効果音や3Dアニメなど映像制作にまつわるあらゆる体験ができる設備が整っている。
展覧会の会期も9月4日(日)までと長いので、夏休み中のお出かけ先として是非おすすめしたい。
なお、《視聴覚交換マシン》が体験できるのは、会期中の土・日・祝の13:00から16:00の間(7/1からは水曜日も開催)。また、8月14日(日)には、自分だけの「フェアリーファインダー」を作るワークショップも開催される。いずれも参加費は無料だ。詳細はスキップシティのウェブサイトで確認できる。
* Fairy Finderは科学技術振興機構、CRESTプロジェクトの一環として制作されました。