荒川区、南千住の巨大なビューイングスペース、アプリュス。アーティスト・柳原絵夢を主宰として、1階をアーティストの共同アトリエ、2階部分を展示スペースとして、去年春頃からビューイングスペースとしていくつかの企画展示やワークショップが行われてきた。
3月15日、この場所では最後の企画となった「UNLIMITED」の最終日に行ってきた。今回の企画はアーティスト・遠藤一郎さんとmagical, ARTROOMのマネジメントなどに関わる伊藤悠さんのキュレーションによる展示。
参加アーティストは、淺井裕介、泉太郎、遠藤一郎、齋藤祐平、鈴木彩花、栗原森元、栗山斉、ダビ、藤原彩人、村田峰紀、柳原絵夢の11人。広い空間をアーティストたちのエネルギー溢れる作品たちが埋めている。これだけのスペースで展示する機会はたぶんあまりないだろう。アーティストたちの想像欲が余すところなく発揮され、のびのびと作りたいものを作った!感が伝わってきた。まさに「UNLIMITED」(=無制限)というタイトルがぴったりだ。
白いシャツの背中にクレヨンで即興的に描くというパフォーマンス。柳原絵夢の巨大な銅箔の赤ちゃんの立体をバックに、ポケットから取り出したクレヨンを両手に握り、感情の赴くままに激しく、掻きむしるように、描く。そしてしばしの沈黙の時間。そしてまた急に、機械のスイッチがオンになったように描きむしる。その繰り返し。パフォーマンス後の’完成した’シャツは、会期中に制作された他のシャツ同様に会場に展示された。
このスペースは3月をもってクローズということだが、5月半ばにすぐ近くに場所を替えてまた再開するとのこと。今度はもっと大きなスペースになるらしい。
柳原絵夢さんによると、芸大のある台東区と取手キャンパスに挟まれて、文化的基盤も施設も何もない荒川区に、アートの発信地を作りたかったという。そして、作家の「虎の穴」として、また、ゆくゆくは、美大生の卒後教育の場としての展開も考えて行きたいそう。確かに、南千住は昭和の香りが残る下町。人々の生活に根ざした、ある意味東京らしい場所でもある。そのような地域に出現したアプリュスは「アーティストたちが何か変わったことをやっている」という奇異の目で見られるというよりは、地域の人たちも遊びに来たり、子どもたちがワークショップに参加したりと、好意的に受け入れられているという。アプリュスの建物自体は荒川区の持ち物であるものを使わせてもらっているそうで、日中は子どもたちの声がこだまする大きな公園に隣接している。そのこともあるだろうがアーティスト自らが主宰しているということも大きいだろう。
それは、なぜなら柳原さん自身、そしてアーティストたちがとてもオープンマインドで、誰をもいとわず迎え入れてくれる雰囲気があるからだ。その意味において、とても居心地がよいので「また行きたい」と思ってしまうのである。実は、遊び感覚で気軽に立ち寄って若者と交流できたり、時に子どもたちも交えて楽しいことができる場所が必要とされているのではないかとも思えてくる。また、ここはアーティスト・ランのスペースであり、コマーシャルギャラリーではないということもあるだろう。アーティストが制限なく制作できる実験場として、そして、アーティストやアートファンのみならず、幅広い年齢層やジャンルの人たちを巻き込んで何か起こりそうな無制限の可能性を感じる。