経済成長が著しい国々を総称した「BRICs」と言う単語を、最近はよく耳にします。BRICsのBは、広大な国土と豊富な資源、世界の肺とよばれるアマゾンの熱帯雨林を持つブラジルのこと。日本の裏側でありながらも、沢山の移民が日本から移住したので、日本とブラジルの文化関係は100年にもなり、日本にも最近は多くのブラジル系の移民が住んでいます。
そんなブラジルをキーワードにした展覧会、「ネオ・トロピカリア:ブラジルの創造力」が東京都現代美術館で開催されています。日本でブラジル文化といえば、アートよりも音楽の方が親しみがあると思います。ラテン音楽といえばこれ!とみんながすぐに思いつき、踊りたくなってしまうサンバを始め、ボサノヴァ、ショーロなどブラジル音楽には様々なジャンルがあり、日本でも馴染み深い楽曲が沢山あります。ブラジル音楽は、聴くというよりは踊る音楽が多いのも特徴です。
今回の展覧会でも音楽は切っても切り離せないものになっています。本展の内覧会でもボサノヴァのライブやカポエラのショーなどがあり、リズムや身体性が色濃く出ていました。もちろん作品群の中にも音楽を聴く体験型のものがありました。
エリオ・オイチシカ(Helio Oiticica)は「パランゴレー(Parangole)」と呼ばれる作品で、マントのような衣服が数点、ヘッドフォンと一緒に壁にかかっています。その衣服を観客は身にまといながら、セットになっているヘッドフォンで、それぞれの衣服に似合うブラジル音楽が楽しむという仕掛けです。
今回の展覧会のタイトルに使われている「トロピカリア」という言葉は、軍事政権下の60年代末にあった芸術運動、ブラジル・トロピカリア・ムーブメントからきているようです。世界中に浸透しつつあるアメリカ文化を拒否し「純粋」なブラジル文化を守ろうという保守派と、移民が多くもともと「純粋」であったためしがない、アメリカ文化さえも取り込んで自分たちのものにしてしまうのがブラジル文化だ!という改革派が現れ、それがアートを超え、音楽、文学、映画、ファッションと様々なジャンルで激しいムーブメントとしてブラジル中に巻き起こりました。
そのムーブメントの元といえるのが先述したエリオ・オイチシカで、リオデジャネイロ近代美術館で発表したインスタレーションのタイトルが「トロピカリア」。若者たちに影響を与えた「優しい野蛮人」と自分たちを名乗るカエターノ・ヴェローゾも同名の曲やアルバムを発表しています。作品の衣装を身に付けて音楽を楽しみながらも、さすがに踊りだす人はみかけなかったシャイな日本の内覧会でしたが(私の見てないところで、踊り狂っていた人がいるかもしれませんが(笑))、色とりどりの衣装を身に付けつつラテン音楽を独り占めするのは、楽しい気分でした。
その他にも、アシューム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカス(avaf)の作品は、ヘッドフォンで無線配信されているブラジル音楽を、ビビッドな色彩の空間の中で捜しながら楽しむというものです。早く動くと音楽が途切れてしまうし、立っている場所で違う音楽に変わってしまうので、ヘッドフォンをしながら極彩色の空間をおぼろげにさまよう姿は、なんだかこっけいです。
色彩が豊かで、ストリート性が強い「ブラジル」らしい作品が多い本展ですが、ブラジルを代表するネオ・コンクレティスム(新具体主義)のリジア ・パペ(Lygia Pape)の作品は真っ暗な空間に金の糸を緊張感をもって張り巡らしています。没故作家なので、インスタレーションは彼女の親族(作家との関係は忘れてしまったけど、とても可愛らしい女性とその父親でした。)が行ったそうです。とても美しく繊細で、ブラジルの違う一面を見せられたようではっとさせられます。
ファッションデザイナーのイザベラ カペト(isabela capeto)の可愛らしいテキスタイル。その手前にある観覧車やメリーゴーランドは、作品のつもりではなく、ただ作って楽しんでいたものを、チーフキュレイターの長谷川祐子さんが彼女のアトリエに訪問した際に発見し、とても気に入って出展を頼んだそうです。とてもキュートな作品です。
巨大な作品リヴァイアサン・トトの一部を吹き抜け部分に展示しているエルネスト・ネト(Ernesto Neto)や、まだまだ紹介したい作品は沢山ありますが、全体としては、建築・ファッション・アートというジャンルから27組の作家が出品することになった、大規模な展覧会です。そこには楽しくなるような、作品から笑い声が聞こえそうな力強い作品たちであふれています。秋も深まり冬に向けて寒くなってきた日本ですが、あつい国に思いをはせながら、本展を楽しんでみてはいかがでしょう?
yumisong
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