3月28日から4月22日までトーキョーワンダーサイト本郷で開催されていたDouble Castおよび、その企画・運営を行っていたSurvivart(サバイバート)の活動は、その代表的な例だと言ってもいいだろう。Survivartは2004年にアーティストの岩井優を代表として始動したグループで、これまで日本の美術界ではなかなか語られてこなかった「お金」というキーワードに焦点を当てながら、ゲストを招いてのトークイベントや、メンバー自身も参加する展覧会などを実施してきた。
Double Castは「Cast」に「役」と「放送」の意をかけて期間限定の放送局というコンセプトのもとに企画されたもので、物事における2重性、すなわち時には見えにくい「もう一つ」の視点や手法に注目して、その可能性を提示することが目的とされていた。
企画はワンダーサイトで行う岩井優・田口行弘の2人展、そこで収録された映像や映像作品を動画共有サイトYou Tubeを用いて配信する特設サイト、毎週末会場で行われるトークイベントの3つの要素から成っていた。
岩井優の作品は、東京都文京区でびんゴミ・かんゴミの回収に用いられる2色のコンテナを用いて、アーティストや招待ゲスト、観客の対話空間をつくるもので、トークイベント開催時などにはフレキシブルにかたちを変える。
田口行弘の作品は、膨らませると空間いっぱいに広がる大きなビニール袋の中に机や椅子がセットされているもので、観客が中に入ることができる。袋はセットされている掃除機を用いて収縮することができ、人が中にいる状態のままでふとん圧縮袋のように空気を抜くパフォーマンスなども行われた。
会場の配布資料では、どちらも「Studio Set」として位置づけられていたことからも明らかなように、そのものだけでは成立せず、2人が配信用の映像を撮影したり、観客が加わって対話を行ったり、ゲストがトークを行ったりと何らかの活動を行う「場」として提示されている点が共通している。
また同時に注目しておきたいのは、You Tubeを用いて連日配信された動画だ。特設サイトでは、ニュース番組風に撮影された「キョーのトーキョー」を主なコンテンツとして連日動画が配信され、現在でもインターネット経由でその内容を見ることができる。
「キョーのトーキョー vol.17」これは私の予想に反して、それぞれの作品についての解説を加えるなどといったかたちで展覧会を補完したり、あるいは会場の全容を見せて現場で展覧会を見る行為の代替となるようなものではなかった。
むしろ画面の中では、岩井と田口がふざけあいをしたり、天気や食事といったあたりさわりのないことを話題にしたり、イベントの集客を心配したりと、全て視聴するには耐えない会話が繰りひろげられている。
それでもつい毎日サイトを覗いてしまったのは、一方的にアートを鑑賞したり、アーティストの思想に触れるだけではもの足りず、別の形でコミュニケーションをとってみたり、単純に現場とつながっていたいという思いが観客としてもあったのかもしれない。
岩井いわく、内容はわざとそのようにしていて、結局は現場にも来てみないと全ては判らないという状況を生み出したかったとのこと。これはそのまま、2重性を大事にして物事の別の側面にも注力してみようといった姿勢を反映したものと言えるだろう。
毎週末行われたイベントでも、毎回「~から考える」といったかたちでタイトルを変え、多様な側面からのアプローチをしていた。
このように様々な形で観客が関わることができたり、対話を重視しているプロジェクトは確かに同時代性を強く感じることができ面白いのだが、一方では作家の表現とは何なのか、といったことを考えてしまう。
コミュニケーションにおいても一元化、効率化が進む現代において確かにアートを用いた「場」そのものをつくりだすことは重要だろう。しかしそれは果たしてアーティストに求められている仕事の全てなのか?
あまりにもその「場」づくりに寄った「展覧会」を見て、感心しつつも同時に疑問が残ってしまった。
ところでこのDouble Castは、トーキョーワンダーサイトが行う若手キュレーター支援プログラムである「Emerging Artist Support Program 2006 展覧会企画公募」の第1回入選企画のひとつとして実施された。
同時に行われたのが、やはり入選企画でホワン・サンサン企画による華・非・華と、推薦枠によって選考されたというパオロ・プロテガー/大竹かおり/谷川公朗の企画・制作・キュレーションによるVideo Art from Londonである。
若手キュレーターの活動する場が非常に少ない日本において、アーティストだけでなく、キュレーターにも「Emerging Artist Support Program」の門戸を開いたトーキョーワンダーサイトの姿勢は評価に値する。
しかしいくつか疑問に残る点がある。
まずはなぜ2006年12月の下旬(メールニュース配信は12月28日)に公募開始、2007年1月17日応募締め切りという非常に短期間での募集、しかも2回の選考を経て3月下旬に実施という常識では考えられない準備期間しか設定されていなかったのかという点。
当然このようなやり方では公募が認知された頃には締め切りがきているので、応募数が減るのは当然として、質の高い企画などを望むことはできないだろう。さらに決定後2ヶ月で展覧会を実現するというのだから、キュレーターだけでなく、キュレーターの企画のもとに作品を制作するアーティストも大変だ。
その結果としてよいものができなかった場合はそれこそ悪循環で、若手をサポートどころか企画の枠組みによって振り回し、苦しめるという状況を招いてしまうだろう。
また公募や選考結果が発表された時点では全くその存在が知らされていなかった「推薦枠」の存在も不可解だ。なぜ海外キュレーターの企画(コーディネート企画)なのか、ロンドンのビデオアートなのかといった疑問はさておき、誰の推薦で、どのような過程を経て選考に至ったのかという経緯くらいは発表してもいいように思える。
最後に細かいことではあるが、公募の時点では会場の利用方法の条件について「展示スペースは1FのスペースA、2FのスペースB、もしくは3FのスペースC、Dのいずれか1つ」となっていたのに、公募入選企画であるはずのDouble Castの会場にはスペースCとDの両方が用いられていた点だ。想定されていない使用方法(※)である。
※筆者の誤読の可能性もある。長内氏のコメントを参照(2007年5月2日)
このような公募において、特に初回であるし方針や手順などに多少のぶれがあることはしょうがないだろうが、公平性には留意すべき都立の施設であるだけに気になる点であることを言っておきたい。応募者のやる気や想像力を引き出すためにも、次回以降は万全の体制で臨んで欲しいものである。
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto