このイベントの特徴は、「ダンス」と言いながらもコンテンポラリーダンス、舞踏、お笑い、演劇、音楽、美術、あるいはそういった「ジャンル」にくくることができないパフォーマンスまでを広く扱い、10~15分くらいの比較的短い作品群で構成される点である。企画・構成は作曲家で元ダンス批評家の桜井圭介。その日限りのコラボレーションや幕間の演出が積極的に行われる様は正に「企画・構成」されたステージであり、イベント全体を言わばひとつの作品ないしムーブメントとして提示しようとする姿勢がうかがえる。
例えば今回のステージで言えば、オープニングにA-haの名曲「Take on me」がBGMとして軽やかに鳴り響き、通常であればBGMなし、衣裳はふんどし一枚の身体表現サークルが点滅する電飾をまとって現れ、短いパフォーマンスを行った。
続いて康本雅子のソロ、ボクデス&チーム眼鏡、再び身体表現サークルと間髪入れずにステージは進行していく。ボクデス&チーム眼鏡はスーツにメガネの真面目そうな装いに反して、スローモーションでプロレスのワンシーンを再現するなど悪ふざけのようなパフォーマンスを行うのだが、続いて全く対極的な装いで、やはり戯れとも言えるようなパフォーマンスを行う身体表現サークルとの温度差が際立ち面白い。ちなみに両チームが共にステージに立つシーンも見ることができた。
先に「吾妻橋ダンスクロッシング」が広いジャンルのパフォーマンスを扱うとは書いたが、ある種の傾向はある。それは桜井氏が、数年前より日本のコンテンポラリーダンスシーンにおいて特に顕著だとして論説化している「コドモ身体」を備えるアーティストを中心に扱い、それをさらに演劇、音楽、美術などとダンス以外のジャンルへも拡張、適用するべく毎回ゲストを吟味し回を重ねてきたということだ。
※桜井氏の「コドモ身体」論については、本人による『「ダンス」という「コドモ身体」』を参照いただきたい。
「コドモ身体」の筆頭に挙げられ、日常的な仕草を振付に取り込むOff Nibroll(≒Nibroll)。やはり同様の手法を用いて、伝統的には有利とされてこなかった低い身長(155cm)を等身大に使いこなす2人組のほうほう堂。あるいはそいうった身体や身体が発する言語を少しずらした状態で提示するチェルフィッチュ。もはや自らが踊るというよりは、自らの身体のパーツや持った道具をコミカルに動かし作品化するボクデス(ボクデス&チーム眼鏡)。美しい身体と美しく踊るテクニックを持ちながらも、それをおふざけや「エロ」の方向に誤用していく康本雅子。彼/彼女らはこのイベントの正に「The Very Best」とも言えるアーティストだ。
その「The Very Best」を拡張していく方向性として身体表現サークルやKATHYの存在も忘れてはならないが、明らかにダンス/身体表現を出自とせず、どちらかと言えば音楽や美術に寄っているゲストとして今回、宇治野宗輝&ザ・ローテーターズとkiiiiiii(体調不良のため出演はキャンセル)がいただろうし、Chim↑Pomの展示も同時企画されたのであろう。
このイベントに集うアーティスト達は必ずしも出自を共にしないし、同じ「ジャンル」でくくることもできないが、明らかに同時代性を共有している。伝統的な価値観が崩壊し、近代まで支配的だった欧米のスタイルに捉われる必要もなくなった今、感性豊かなアーティスト達は真の意味で独自の表現を見つけはじめている。
既にいくつかの媒体でも関連性が取り上げられているが、美術の分野で言えば水戸芸術館で開催されている「夏への扉 – マイクロポップの時代」展も大くくりではそのようなアーティストを取り上げた展覧会だと言って良いだろう。ある程度包括的に同時代の傾向を捉えようと思ったら、やはり横断的に物事を見ていかなければならないのだ。
そのような意味でも、「吾妻橋ダンスクロッシング」の明確なコンセプトとカバーしている範囲の広さには注目するべきだし、同時に毎回かなりの質の高さを実現している点には驚かされる。今後のさらなるクロスジャンルな展開にも期待したい。
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto