リリースのテキストをかりれば、「都市的なリーディングに優れ実践力のあるアーティストや建築家を招き、見棄てられた建物や眠っている場所に光をあて、開いていこうとする」ことを目的としており、ただサイトスペシフィックなアート作品などを展示するなどにとどまらず、新しい不動産や交通システムのあり方を試みたり、歴史的建造物のプロモーションビデオを制作する、廃線の高架下の活用法を検討するなどと様々なプログラムが行われている。その中には、横浜という都市の建築空間や風景を実際に変貌させつつある試みが多く含まれており興味深い。
前回に引き続き、会期中限定的に公開されているBankART Studio NYKの3階には、丸山純子の作品《無音花畑》が加わった。ビニール袋を使ってつくられたという無数の花が広大な空間を埋め尽くす様は圧巻。何もなければ、コンクリートの打ちっぱなしで冷たい印象ばかりがするところだが、人工花の不思議な生気のようなものが漂う空間へと変貌している。
引き続き展示されている牛島達治のインスタレーション作品と共に、そのままでは住居やワークスペースなどとして活用できない空間の特性を読み込み、アート作品の力をかりて別の形でその魅力を引き出すことに成功している好例と見ていいだろう。
作品だけではなく、それをつくるアーティストの顔やアクティビティが見えることもまた、都市の風景や、そこに生活する人々の関係性を変貌させる可能性がある。横浜市と中区による店舗転用のモデル事業であり、2006年6月よりBankART1929が運営する「BankART桜荘」の公開もプログラムのひとつだ。
この桜荘が位置する初音町・黄金町・日ノ出町地区は、戦後長い間不法飲食店があった場所であり、そこに文化芸術活動が入り込み新たな形で「見る」「見られる」関係性ができることが、街の再生につながる効果のひとつとして期待されている。現在レジデンスを行っているのは、以前「取手アートプロジェクト2006」でもご紹介した淺井裕介。ガラス張りのオープンスペースに天井画を制作し公開しているほか、期間限定のカフェ営業(3月1~3日で終了)を行うなどしており、積極的に地域へと開く試みも行っている。
森ビルによる暫定プロジェクト「北仲BRICK&WHITE」終了後、BankART1929のコーディネートにより実現した新たな創造拠点「本町ビル45(シゴカイ)」も覗くことができる。見ることができるのは、開港150周年に向けて設計が進む「象の鼻地区」整備案のプレゼンテーションと、中心市街地にある古い物件をクリエイターへ廉価に提供する「芸術不動産」プロジェクト。
横浜市が新たに建造物を「つくる」ことでつくりあげる風景、既存の物件を「いかす」ことで変わっていく風景を思い描くことができるかもしれない。なお、「象の鼻地区」整備事業者として選出され実際に設計を進めている小泉アトリエは、この本町ビルに事務所を構えている。
その他にも、3月下旬からNPOにより営業が開始される人力の3輪タクシー「ベロタクシー」の試験運用(会場の移動にも使用できる)や、「愛・地球博」でも映像作品を手がけた岡部友彦+福島慶介による横浜の歴史的建造物を紹介するプロモーション映像制作、建築ユニットのみかんぐみによる東急東横線横浜駅~旧桜木町駅の高架下の利用方法検討など多様なプロジェクトが実施/紹介されている。
それぞれのプロジェクトは必ずしも密接な関係を持っているわけではないが、それぞれに大きなポテンシャルを秘めていると言っていいだろう。また近年横浜市が進めている様々な文化芸術創造都市づくりの一例であったり、それらとリンクしている、あるいリンクしていく可能性がある試みばかりだ。
アーティストや建築家という個と、彼/彼女らが生み出す作品、都市に関わるNPOやアカデミー、任意団体などの組織と事業、体制(市)の拠点づくり活動をはじめとする事業の数々―。大きなプロジェクトばかりではないので単独では難しいだろうが、それらが横浜の創造拠点のパイオニアである BankART1929の活動をひとつのプラットフォームとしてダイナミックに関係を持ちはじめた時、横浜という都市の風景が大きく変わっていくのかもしれない。
最後に関連情報をひとつ。3月18日に本プロジェクトでもレクチャーを行うボートピープル・アソシエイションの活動を3月21日まで大井競馬場近くの河川上で見ることができる。パージ船を利用してコミュニティ空間をつくる活動をしているグループで、今回は防災時の拠点としても利用できるよう防災用具/設備などを備えつつ、ポル・マロというアーティストの作品も展示されている。
ともすると不要と思われがちな空間、サイトから都市をとらえ機能を獲得した興味深いプロジェクトである。
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto