公開日:2007年6月18日

小西真奈 展「金華山」

上野の森美術館にて開催中のVOCA展2006にて大賞(VOCA賞)を受賞した小西真奈の個展が銀座で開催されている。

小西が描くのは公園や山、海など誰もが訪れるであろう場所の記憶のようなものだ。写真をもとに描かれたという構図は奇をてらったものではなく、画面全体の印象も写実的である。時折描きこまれている人物は彼女が同行した人物なのか、それとも彼女自身なのか。細部まで表現されているわけではないので、鑑賞者は描かれている風景の核心にまで迫ることはできない。人物や森林が見せる表情までは書き込まず、画面全体がわずかにフォーカスアウトしたようにぼかされているという独特の作風である。

おそらくそのテーマと作風がゆえに、誰もが作品と自身の記憶を無意識のうちに結びつけ、ノスタルジックな印象を受けるだろう。作品は小西のごく私的な体験をかたちにしたものではあるが、誰もが似たような体験をしつつも、1枚のイメージとしてはなかなか思い起こさない瞬間なのである。

例えば海岸の絶景を描いた1枚は、その景色に最適化された構図をとるわけでもなく、そこにいる人物に焦点を当てるわけでもなく、海岸沿いを移動中にふと顔を上げたときにたまたまそこにあったような、そんな風景だ。

こうした非日常的体験に潜む日常的な瞬間を切り取り、作品にするというプロセスに、彼女が日ごろ大切にしているものを感じることができるような気がする。「表現するために描く」というよりは、「記憶するために描く」という純粋な欲望にもとづいた絵画、そんな印象だ。

同会場では、第2弾として5月8日から20日まで、最新作シリーズによる個展を開催する予定。VOCA展は3月30日まで。

Makoto Hashimoto

Makoto Hashimoto

1981年東京都生まれ。横浜国立大学教育人間科学部マルチメディア文化課程卒業。 ギャラリー勤務を経て、2005年よりフリーのアートプロデューサーとして活動をはじめる。2009〜2012年、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)にて「<a href="http://www.bh-project.jp/artpoint/">東京アートポイント計画</a>」の立ち上げを担当。都内のまちなかを舞台にした官民恊働型文化事業の推進や、アートプロジェクトの担い手育成に努める。 2012年より再びフリーのアートプロデューサーとして、様々なプロジェクトのプロデュースや企画制作、ツール(ウェブサイト、印刷物等)のディレクションを手がけている。「<a href="http://tarl.jp">Tokyo Art Research Lab</a>」事務局長/コーディネーター。 主な企画に<a href="http://diacity.net/">都市との対話</a>(BankART Studio NYK/2007)、<a href="http://thehouse.exblog.jp/">The House「気配の部屋」</a>(日本ホームズ住宅展示場/2008)、<a href="http://creativeaction.jp/">KOTOBUKIクリエイティブアクション</a>(横浜・寿町エリア/2008~)など。 共著に「キュレーターになる!」(フィルムアート/2009)、「アートプラットフォーム」(美学出版/2010)、「これからのアートマネジメント」(フィルムアート/2011)など。 TABやポータルサイト 「REALTOKYO」「ARTiT」、雑誌「BT/美術手帖」「美術の窓」などでの執筆経験もあり。 展覧会のお知らせや業務依頼はhashimon0413[AT]gmail.comまでお気軽にどうぞ。 <a href="http://www.art-it.asia/u/hashimon/">[ブログ]</a>