小西が描くのは公園や山、海など誰もが訪れるであろう場所の記憶のようなものだ。写真をもとに描かれたという構図は奇をてらったものではなく、画面全体の印象も写実的である。時折描きこまれている人物は彼女が同行した人物なのか、それとも彼女自身なのか。細部まで表現されているわけではないので、鑑賞者は描かれている風景の核心にまで迫ることはできない。人物や森林が見せる表情までは書き込まず、画面全体がわずかにフォーカスアウトしたようにぼかされているという独特の作風である。
おそらくそのテーマと作風がゆえに、誰もが作品と自身の記憶を無意識のうちに結びつけ、ノスタルジックな印象を受けるだろう。作品は小西のごく私的な体験をかたちにしたものではあるが、誰もが似たような体験をしつつも、1枚のイメージとしてはなかなか思い起こさない瞬間なのである。
例えば海岸の絶景を描いた1枚は、その景色に最適化された構図をとるわけでもなく、そこにいる人物に焦点を当てるわけでもなく、海岸沿いを移動中にふと顔を上げたときにたまたまそこにあったような、そんな風景だ。
こうした非日常的体験に潜む日常的な瞬間を切り取り、作品にするというプロセスに、彼女が日ごろ大切にしているものを感じることができるような気がする。「表現するために描く」というよりは、「記憶するために描く」という純粋な欲望にもとづいた絵画、そんな印象だ。
同会場では、第2弾として5月8日から20日まで、最新作シリーズによる個展を開催する予定。VOCA展は3月30日まで。
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto