エスパス ルイ・ヴィトン東京では、ピエール・ユイグによる『Pierre Huyghe – Untilled Host』展を開催いたします。本展覧会はフォンダシオン ルイ・ヴィトンがキュレーションを担う『Hors-les-murs (壁を越えて)』プロジェクトの一環として企画されました。『Hors-les-murs』プロジェクトは、これまでに公開されてこなかったフォンダシオンの所蔵品をミュンヘン、ヴェネツィア、北京、東京のエスパス ルイ・ヴィトンにて紹介することで、国際的なプロジェクトを実現し、より多くの人々に開かれた活動を展開していきます。
1990年代初頭以来、ピエール・ユイグは新たな手法による創造と展示の見せ方を考案し続けてきました。彼の作品は、「ライブ」のシチュエーション、フィルム、オブジェクト、写真、素描といったさまざまな制作媒体を用いて、現実とフィクションとの境界を探ります。ユイグは、科学、SF、文学、哲学、考古学、映画、音楽、建築、仕事と遊びの関係といった大衆文化から学究的なものまで、現代社会特有の幅広い文化的テーマを扱っています。また、これらのアプローチはしばしば、他のアーティスト、ミュージシャン、建築家、科学者などとのコラボレーションという形で実現しています。
本エキシビションでは、フォンダシオンのコレクションから、ピエール・ユイグによる2つの作品『The Host and the Cloud』(2009-2010)と『A Way in Untilled(未耕作地の場景)』(2012)をご紹介します。
『The Host and the Cloud』(2009-2010)は、かつて国立民俗民芸博物館(Musée National des Arts et Traditions Populaires)として使用されていたパリ市内の建物で、1年をかけて撮影されました。これは、遊園地の片隅にある閉鎖された博物館での実際の出来事を撮影した実験的な作品です。この「実験」は観客の目の前で展開されるライブ形式で行われ、ハロウィーン、バレンタインデーそしてメーデーの3日間の様子が部分的に記録されました。また、これは役者たちのグループが、自らの手で改変あるいは刷新できるかもしれない影響に直面する特定の状況下へ置かれた、ロールプレイとして制作されました。この資料館の職員に扮した役者らの役割と行動は、展示コレクション、さまざまな状況、断片的に語られる物語に出逢う中で変化していきます。『The Host and the Cloud』はひとつの物語であり、不在の主体の心を巡る旅です。この映像に登場する架空の人物は「もう一人の自分」であり、不在の主体の精神風景の中に存在する現実なのです。
『A Way in Untilled』(2012)は、2012年夏「dOCUMENTA(13)(ドクメンタ(13))」の会場であるカールスアウエ公園内(カッセル、ドイツ)にて撮影されました。夕暮れ時に撮影されたこの映像は、頭部が蜂の群れで形成された女性像が半身を横たえた『Untilled(Liegender Frauenakt)(未耕作地(横たわる裸婦))』という彫刻の周りで、有機物が腐敗していく様子が映されています。頭部は蜂の群れにより覆い隠されています。蜂のコロニーは催淫性や精神活性作用のある植物に授粉します。頭部の見えない身体は、
泥の中に横たわっています。それは、あたかもカメラの前で並行する別世界が出現しているかのような映像です。ナレーションはなく、主役を演じるのは蛍光色の脚を持つ犬です。空間は閉ざされています。積み重ねられてきた歴史のさまざまな時代に属する要素が、由来を示す手がかりもなく、また年代順も関係なく並べられています。それは、架空あるいは現実の記録や既存の事物の、物理的な適合です。カールスアウエ公園という「堆肥(compost)」に、人工的な物、無生物、有機体、植物、動物、人間そしてバクテリアが、培養され、養われることなく、見る者の存在に依存せず、そして関心なく打ち捨てられているのです。
これらSF的ドキュメンタリー映像を通し、ピエール・ユイグは観る者を否応なく視覚・聴覚的な旅へと誘います。
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